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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
常にタイムの更新を狙ったり、勝敗がついたりする世界で生きている桐生さん。過酷な環境で活躍を続けられる秘訣は「陸上に人生をかけつつも、人生はその道だけじゃないと理解しておくこと」だと言う。
 

歓声の中で走る楽しみ

 
僕は陸上に人生を賭けています。でも、家族も大事だし、子どもの成長は心から楽しみです。だから、人生は陸上だけではないと理解していますし、そのことを忘れないようにしているんです。人生を賭ける意気込みで取り組みつつも、自分の中にいろんな柱を持っておくことがメンタル的には大切なのかなと思っています。
 
また、常に勝ち負けの世界であることは僕にとって当たり前の生活なんですよ。良い結果を出せず落ち込むこともあるものの、改善もしていかないといけません。考え方によってはつらい世界かもしれませんが、ここでやめたら後悔するはずです。陸上を続けているのは、僕が「やりたい」と思ったから。そのわがままをずっと続けているんですよ。
 
どれだけ練習したとしても良い結果が出るとは限らない。それがスポーツ競技の世界です。特に陸上は、努力した分だけ成長するわけではないから難しいんです。以前よりも習得した技術は多いのに、タイムが上がらないことは往々にしてあります。もどかしく感じることもあるものの、その努力が結果に表れたときの達成感はひとしおです。
 
後悔せずに引退することはないと思っています。実力がピークを迎えたときに引退する人はなかなかいませんからね。怪我をしてしまったり、自分の成長に限界を感じたりしたときに引退するんだろうなと想像しています。絶対に「もっと上に行けたのに」という思いは抱えることになるでしょう。
 
プロの選手を引退したとしても、大会自体は申し込めば出られるものも多いですから、走ることをやめることはないかもしれません。ただ、世界のトップを目指す生活は現役の間だけ。だからこそ、今の内に楽しんでおこうと思っています。何万人という観客の前で歓声を浴びながら走るのは、今だけの楽しみですからね。
 
 
(インタビュー・文 中野夢菜/写真 Nori)
 
 
桐生祥秀(きりゅう よしひで)
1995年生まれ 滋賀県出身
 
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中学校の部活動で陸上を始め、高校3年生のときには100m10秒01という日本選手歴代2位の記録を出す。2016年のリオデジャネイロオリンピックでは100mと4×100mリレーに出場。リレーで銀メダルを獲得した。2017年には100m9秒98のタイムを出し、日本選手史上初の9秒台スプリンターとなる。東京オリンピック、パリオリンピックと3大会連続でオリンピックに出場するなど、活躍を続けている。

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(取材:2025年3月)