PRIDEを手放した後、現在、日本プロサッカーリーグに加盟するサッカークラブFC琉球のオーナー兼CEOを経て、RIZIN FIGHTING FEDERATION、通称RIZINを立ち上げた榊原さん。SNSの発達など時代が変化していく中でも、ライブの楽しさは変わらないと語ってくれた。
嘘のない人間ドラマを
会場でLIVE観戦するのが一番楽しいというのは、RIZINに来てくれればわかるでしょう。格闘技に限らず、スポーツはライブで観戦するのが一番楽しいと思っています。その場にいないと、匂いや熱気は感じられません。周りの人たちと熱狂する一体感や臨場感は何物にも代えがたいんですよ。さらに言うと、人間は、苦労したことほど喜びを感じるのではないかと思っています。
例えば、会場に行くのも一苦労ですし、チケットも安くはありません。そうした苦労が付加価値になって、会場ではより楽しんでもらえているのでしょう。その付加価値には、実はいろいろな仕掛けがあるんです。RIZINでは、常にみなさんにワクワク・ハラハラしてもらえるような仕掛けを考えています。
RIZINの主役はあくまで選手たちです。僕らは縁の下の力持ちなんですよね。だから、マッチメイクだけして「あとは任せます」ではいけません。体を張って戦う選手たちのために、さまざまなプロモーションをしているんですよ。僕たちがどのような思いを持っているのか、どういった形につくり上げていきたいのかも、しっかりと選手たちと共有しています。
彼ら自身、SNSなどを通じて自分の気持ちを発信してくれることもあります。やはり、選手たちが自分たちの感性で届ける言葉が、ファンのみなさんには喜んでもらえますよね。時には炎上してしまうこともありますが・・・、そうした事態をプラスに変えられるように試行錯誤するのも、プロモーターの仕事です。
みなさんが観たいのは、嘘いつわりのない人間ドラマだと思っています。「今のパンチすごく速かったな」「キックすごいなあ」だけでは格闘技コンテンツは広がっていきません。試合に勝つことによって栄光を手に入れる選手もいれば、負けてすべてを失う選手もいる。残酷で儚い夢や、栄光を掴む人間ドラマを顕在化させていることが、RIZINのおもしろさなんです。
そのために、選手たちの人となりを観客のみなさんにも知ってもらえるよう工夫しています。「何のために戦うのか」「何を犠牲にしてきたのか」「試合に勝つことで何を成し遂げようとしているのか」などを取材して、YouTubeのオフィシャルチャンネルで配信しているんです。大会後は、勝者と敗者それぞれ何を手に入れたのか、そして何を失ったのかをドキュメンタリーにして配信しています。選手たちのドラマを知っているほうが、より思い入れを持って応援していただけるんです。
格闘技のコンテンツをつくっている団体は、世界中にいくつもあります。でも、選手たちのドラマを顕在化させて観客に届けているところは、とても少ない。RIZINのYouTubeオフィシャルチャンネルの登録者数は、およそ139万人。プロ野球なども含めたスポーツジャンルのチャンネルの中で、日本2位の登録者数なんですよ。
オフィシャルチャンネルでは、試合のシーンの再生が60%、選手たちのドラマを描いたサイドストーリーの再生が40%というデータが出ています。それだけ多くの方が、選手たちの背景を気にしてくれているんですよね。もちろん、会場に足を運んでくださるすべての方が、そういった動画を見ているわけではありません。だから、試合の前に短い映像で選手のドラマをまとめた煽りVTR映像を流しています。とても情熱と才能のあるスタッフたちが、選手たちの人となりが伝わる秀逸な映像をつくってくれているんです。
プロモーターの仕事の一つに、マッチメイクがある。これまでにいくつもの名マッチを生み出してきた榊原さんに、どのような流れで試合をつくり上げているのかをお聞きした。
さまざまな角度から格闘技を分析する
試合は先々まで予定を立てておくものではありません。「この選手は今のタイミングで試合をするべきだ」と瞬間、瞬間で感じ取っているんです。もちろん選手のコンディションを確認して、試合をするべきは今なのか、そうじゃないのかを判断しています。ほかにも、世界的な格闘技のトレンドを見極める必要がありますね。すべてを踏まえたうえで「今はこれだ」と決めています。
もちろん、それは僕一人の力ではなく、感性の鋭い優秀な人たちがたくさんまわりにいるからです。週に一度、スタッフたちとマッチメイク会議を行っています。マッチメイクの最終判断は僕がするけれど、みんなだったらどう考えるのかはしっかりと聞いておきたい。それと、男性と女性では視点が変わることもあるし、年代によって好みも変わります。私だけの感性では、格闘技ファンの深層心理は読み切れないんです。
一方で、僕たちは毎日格闘技の話をしたり、毎日選手と会ったりしています。本当に、格闘技漬けの日々を過ごしているんです。趣味として格闘技を楽しんでいる方々の求めているものとは、考えがズレてしまっている可能性があります。だから、なるべく多くの人の意見を取り入れなければいけません。そのため、会議でスタッフたちと意見交換をするだけでなく、市場調査も行っていますよ。その結果、最初に僕が考えていたものとはまったく別のマッチメイクになったことも、多々あります。
実現が難しかったのは、「THE MATCH 2022」の那須川天心VS武尊です。舞台がRIZINであれば、二人の選手を口説いて、「イエス」と言ってもらうための交渉で済みます。ただ、二人はそれぞれK-1とRISEというキックボクシング団体のトップ選手同士。その団体の“顔”なんですよ。だからこそ、実現までにはさまざまなドラマがありましたね。
それぞれの団体のこだわりを盛り込まないといけないし、何より両選手のコミットをもらわないといけない。お金で解決する話であれば、簡単なんですよ。お金を払えば試合をしてもらえるんですからね。でも、それぞれの団体や選手たちには、プライドとこだわりがあります。
本当に大変でしたが、試合を実現できたのは、同じ時代、近い階級に“最強”と言われる選手が二人いたからではないでしょうか。天心も武尊も、「俺が最強だ」と言うには、もう一人を倒さないといけないわけです。同じ時代に、違う団体のトップとして走ってきた二人の心の底には、やはり「戦ってどちらが強いのかはっきりさせたい」という思いがあったのだと思います。
二人の試合に対するモチベーションには、タイミングのズレがあったので、なかなか難しかったですね。僕は、彼らより何十年も人生の先輩であり、その人生の中で「あのときやっておけば良かった」と後悔するより、やって後悔したほうが良いと確信しています。二人には、「これだけ多くのファンが二人の対戦を楽しみにしてくれている」ということ、「その試合を今やる意味」について、僕の思いをすべて伝えました。選手を口説くのに、あれだけ時間と労力をかけたのは、初めての経験でしたね。