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負荷の増大と排熱問題

 
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benji_rock / PIXTA
気象庁の予報どおり、9月に入っても尋常でない暑さが続いています。酷暑でまいっているのは人間だけではありません。データセンターも同じです。
 
特に最近は、それも今年は急激に、AIが市民生活レベルにまで普及したことで、データセンターへの負荷がとんでもないことになっています。
 
データセンターとは、サーバーコンピュータやネットワーク機器を集積・管理し、運用するための専用施設です。サーバールームにはサーバーユニットを収納したラックが緊密に並んでいます。ICTがネット検索止まりだった時代はそれらにかかる負荷、すなわち消費電力は1ラックあたり5~10kW程度でしたが、AIを動かす際は、最も標準的な構成で、1ラックあたり現状の技術では100~150kWを消費するそうです*1
 
それに伴って発熱量も増えています。動作中の機器の温度は50~90℃。それ以上になると熱暴走が起きて正常に動作しなくなりますから、データセンターはアメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)のガイドラインが定める18~27℃に保ったサーバールームの空気をファンでサーバーに当てて熱を冷まし、奪った熱を施設の外に逃がし続けていなければなりません。データセンターは24時間365日休みなく稼働しますから、操業を始めたら辞めるまでずっとです。
 
その結果、例えばGoogleやamazonなどのビッグテック系やAI系企業のデータセンターが昔から集まるアメリカ・ネバダ州の工業団地では、30年前に比べて夏の平均気温が6.2℃上昇したとのこと。また、日本でも、地盤が固いなどの理由で多数のデータセンターが集まり「データセンター銀座」と呼ばれる千葉県印西市の地区で、夏の日中平均気温が30年前より約3℃上がっているそうです*2
 
 

解決アプローチ1、「そもそもの発熱量を減らす」――光電融合技術

 
データセンターの排熱問題を解決するアプローチの一つめは「省エネ」。つまり、より少ない消費電力で機器が作動できるようにし、そもそもの発熱量を抑えることです。
 
実際に、2023年のG7広島首脳会合において、省エネは「第一の燃料」と位置づけられました。これは自動車に例えるなら、新たな技術によって燃費を1リッターあたり8㎞から20㎞に伸ばすことで、減らせた12㎞ぶんの燃料を、新たに開発した次世代燃料と見なす、というような発想です。
 
なんだかうまく言いくるめられたみたいですが、走行距離リッターひと桁が普通だった時代から、今や普通車クラスでも、ハイブリッド以外でリッター30㎞に迫る車種が登場しています。そのことを思えば、省エネから始めるのは妥当でもあり、案外ブレークスルー幅が大きいアプローチかもしれないと思わせます。
 
このアプローチの代表が「光電融合技術」です。「NTT技術ジャーナル」の今年2月の記事「光電融合技術とスーパーコンピュータの未来」によれば、光電融合技術とは、現在はデータセンター間やコンピュータ間の〔通信〕用途に留まっている光による信号伝送を、コンピュータ内の基板間、チップ間、果てはチップ内の伝送にまで拡げることで、現状電気配線の部分で生じているエネルギーの膨大な無駄をなくし、かつ、〔コンピューティング(演算や処理)〕そのものも実質的に光信号で行えるようにするものです*3
 
この技術が計画通り実用化し、普及すれば、「2cm飛ばしても2km飛ばしても伝送損失はほぼ同じ」という光ならではの強みが、電気の限界に制約されている現状のICTに大変革をもたらします。NTTは来年以降早々のコンピュータ内部への導入実用化を目指していると言いますから、期待が高まります。
 
 

アプローチ2、「冷却効率を高める」――液浸冷却技術

 
排熱問題を解決するアプローチの二つめは、「より効率的な冷却方法を開発する」こと。こちらでは「液浸冷却」の技術が有望です。
 
18~27℃に保ったサーバールームの空気をファンで当ててサーバーを冷ますやり方は、要は空冷です。それに対し、サーバーを絶縁性の液体に直接浸して熱を冷ます液浸冷却は、要は水冷です*4
 
少しでも自動車に興味がある人ならば、それが二輪車(オートバイ)なら特に、エンジンの空冷方式と水冷方式の差を知っているはず。あれと同じ原理がサーバー冷却にも当てはまります。こと熱交換効率に限って言えば、冷却方式の理想は水冷なのです*5
 
液浸冷却のメリットは熱交換効率に留まりません。空冷では多数のファンを回す必要があるため騒音が発生しますが、液浸冷却はそれがありません(静穏性)。また、機器の故障原因となる埃や塵が一切入らないことも、液浸冷却の大きなメリットです(防塵性)*6
 
光電融合技術と違い、液浸冷却はかなり開発が進んでいます。海外ではマイクロソフトのデータセンターがすでに実運用を始めています。国内を見ても、NTTデータやKDDI、富士通などが商用化に向けて詰めの段階まで来ており、大成建設とENEOSにいたってはもうサービスを展開中。
 
こうして見ると、排熱問題を解決できるアプローチとしては、二つめの「より効率的な冷却方法」のほうが先に一般化しそうです。
 
 

アプローチ3、「熱エネルギーを相殺する」――LNG受入基地とデータセンターの統合

 
そして最後、排熱問題解決のアプローチの三つめは、「熱エネルギーの相殺による冷却」です。一見しただけだと二つめのアプローチの延長上にありそうですが、効率を突き詰めるやり方とはそもそもの発想が違うので、独立して数えるほうが妥当だと思います。
 
このアプローチの代表は、LNG受入れ基地とデータセンターを統合するやり方でしょう。
 
LNG(液化天然ガス)とは、気体の天然ガスを-162℃まで冷やし液体にすることで体積を激減させ、貯蔵や搬送をしやすくしたもの。これをタンカーで輸入し、沿岸の受入基地で気体に戻すと、5~15℃のガスに戻るまでに周囲の環境(海水や空気)から1tあたり約20万kcalの熱を奪います(冷熱を環境に放出します)*7
 
日本は世界一のLNG輸入国で、2023年は約6489万tを輸入しています。気化で生じる冷熱量は総計で年間約13兆kcalです*8。うち、回収利用される割合は1割から2割程度。残り11兆kcal前後の冷熱は現状、元の海や大気中に廃棄(放熱)しています。
 
そして国内のデータセンターの発熱量は、経産省の資料によれば、仮に現在の技術のまま全く省エネが進まない場合は2030年に900億kWh=約77兆kcalに増えますが、現状見込める今後のエネルギー効率の改善幅を加味すれば、240億kWh=約21兆kcalに抑えられます*9
 
21兆に11兆をぶつければ熱相殺量は過半を超えます。LNGの受入基地とデータセンターとでは求められる立地条件が違う部分もあり、どの基地にもデータセンターを隣接可能なわけではないでしょうが、LNG冷熱のポテンシャルの大きさを考えれば、期待せずにはおれません。
 
以上、三つのアプローチを見てきました。願わくば、データセンターに安息がもたらされますように…。
 
 
 
*1 AIサーバの発熱で見えてきた「データセンターの限界」電力、冷却を再定義(TechTargetジャパン 2025年07月31日)
*2 データセンターのせいで地球温暖化が加速しているという「意外すぎる事実」…そして千葉県の「気温上昇危険エリア」が判明した(週刊現代 2025.07.16)
*3 「実質的に」とするのは、信号ではなく情報――信号の中身。現状では信号に運ばせている――そのものの処理を光で行う光量子コンピュータが次世代コンピューティング技術として研究されており、両者は別物だからです。「光による次世代コンピューティングと光デバイス技術」(NTT研究開発 NTT先端集積デバイス研究所・2022/06/08)参照
*4 厳密には水(水道水などのいわゆる水)で冷やすのではないですが、空冷との対比の分かりやすさを優先して水冷としました。なお、不純物を含まない純水や超純水は絶縁性ですし、水道水を使う水冷方式を開発したベンチャー企業も既にあります。また、一般に水冷方式の1タイプとされるコールドプレート方式は、本稿では水冷方式に含まないものとしました。
*5 ここで言う水冷の「水」は狭義の水(純水あるいは超純水)。実際に、水は他の物質に比べて、比熱――サーバー冷却においては吸熱力――が圧倒的に大きいです。
*6 急増するデータセンターを超効率的に冷やす!「液浸冷却」の可能性(METI Journal ONLINE 2025/05/12)
*7 ちなみに、液化プラントで1トンのLNGを製造するのに必要な電力は前処理工程も含めて約250~400 kWh。カロリー換算で約21万~34万kcalです。それだけかけて20万kcalの冷熱エネルギーしか得られないならマイナスのようですが、受入基地で昇圧してパイプラインでガスを需要家に送り出すに際し、液体状態から昇圧できることでポンプの動力費を大幅削減できており、液化時のエネルギーの約半分は有効活用=回収されているとする見方もあります。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)石油・天然ガス資源情報サイト内「LNG 冷熱利用」ページより
*8 年間輸入量約6489万トン×20万kcal=12兆9780億kcal。輸入量はJOGMEC「2024年度調査結果」より
*9 注6資料より。カロリー換算は正確には、現在のまま→77兆3860億7160万kcal、エネルギー効率改善見込み含む→20兆6362億8576万kcal
 
(ライター 横須賀次郎)
(2025.9.3)
 
 

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