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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 

伝統を守り、本質を貫く

 
技術を磨き、心身の状態を整えながら、自分自身と向き合い続けることの大切さを語る二人。立浪氏は2022年から3年間、中日ドラゴンズの監督としてプロ野球選手を率い、鍋山氏も長年、筑波大学剣道部男子監督として学生の育成に携わってきた。そんな二人に、選手が自ら考え、率先して技術を身に付けていくために大切な、指導する側とされる側、それぞれの姿勢についてうかがった。
 
立浪 私は、選手自身が「これをやろう」と決めたことを、簡単に曲げずに続けることが大切だと思っています。これまで多くの若い選手と接してきましたが、伸びる選手とそうでない選手の大きな違いは、人の話を素直に受け止められるかどうかにあると感じます。どれだけ優れた指導者が思いを伝えても、受け止める心がなく、最初から先入観を持ってしまっていては、なかなか成長にはつながりません。また、良いことを教わったからといって、すぐに身に付くわけでもない。結果が出ないからと次々に別の教えを求めるのではなく、簡単に諦めず、地道に続けることが大切ですね。
 
鍋山 自分が身に付けてきた技術を、そのまま人に教えるのはとても難しいんです。ですから、私はあまり「私の真似をしなさい」とは言いません。その代わり、自分なりの技をつくり上げるための考え方をしっかり伝えています。技を身に付け、磨いていくための方向性を示したうえで、あとは選手に自分で考え、試行錯誤してもらうんです。自分で責任を持って取り組まなければ、うまくいかなかった時に誰かのせいにしてしまうこともある。私は、ただ試合に勝つためだけではなく、卒業後も社会人として活躍できるような考え方を身に付けてもらいたいと思っています。そのためには、指導する側にも大切なことがあります。どれ程重要なことを伝えても、選手から信頼されていなければその言葉は届きません。選手が話を聞きたいと思えるような関係を築くことを自分に課しています。
 
立浪 少しでも「学びたい」という気持ちを持っている選手であれば、こちらにもそれは伝わりますし、自然と一生懸命教えたくなります。やはり、人と人との関係ですからね。「啐啄(そったく)」という言葉があるように、教える側と学ぶ側がお互いに求め合うタイミングが重なった時にこそ、指導者から良い助言が生まれ、それを受け取る側も早く吸収できるのだと思います。
 
選手の自主性を尊重しながら、互いに学び合える関係を築くことを重視する二人。一方、二人が過ごしたPL学園では、規律を重んじた厳しい指導も日常にあった。自らが指導者となった今、選手を叱り、時には厳しく指摘することと、褒めて伸ばすことをどう捉えているのか。
 
立浪 もちろん、良かったことはきちんと褒めてあげることが大事だと思います。しかし、言わなければいけないことは、嫌でも伝えないといけません。しかし近年ではそれが難しくなりつつあると感じています。ですから、これから日本はどうなっていくのだろうと、不安に思う気持ちもあるんです。また、日本文化の良いところは、初対面の人でも元気よくあいさつするといった礼儀作法にあると感じています。王貞治さんは監督をされている時に、試合会場の前を通る選手が元気よくあいさつする姿を見て、「今日どこかのタイミングで起用したいな」とおっしゃっていましたね。あいさつ一つで試合に込めた気合や、物事に対しての誠実さが伝わり、それがチャンスにつながることもあるんです。若い選手には、そうした物事に向き合う姿勢はきちんと周囲に届くのだということを、これからも伝えていきたいですね。
 
鍋山 私は、叱ったり褒めたりする前に、まず選手をよく見ることを大切にしています。高校に上がったばかりの選手たちを指導していた頃も、ふざけていたり手を抜いたりしていた際にはすぐには注意せず、「いつ声をかけようか」と様子を見ていました。その視線を気にして何度も目が合ううちは、まだ自分のやるべきことに集中し切れていない証拠なんです。反対に、成長する選手ほど次第に目が合わなくなる。自分の課題がわかり、鍛錬に集中できるようになるからです。そうした選手には、調子が良い時に「あの時とは違うね。これを毎回続ければもっと強くなるよ」と伝えますし、注意するにしても、ただ叱るのではなく、本人に届くタイミングを見極めることが大切だと思っています。
 
立浪 確かに、選手とのコミュニケーションのタイミングを計ることは重要ですよね。私は指導する際には、自分たちがプロに入った頃のような厳しいことはあまり言わないようにしています。監督に就任した当時は、「長く活躍する選手を育てたい」という思いから、できる限り若手を起用していましたね。鍋山さんのように、「放っておくわけではないけれど、相手がどう感じるかをくみ取る」ことを意識して、今の時代に合わせた意思疎通を図っていく必要があるのだと感じます。
 
鍋山 私もそう思います。私自身、監督になったばかりの頃は、自分が選手時代に培った強い気持ちをそのまま押し出してしまい、うまくいかないこともありました。そこで、指導者としての立ち位置を見直し、まず見て、人間関係を築き、そして伝えるタイミングを考えるようになったんです。生活環境も学校教育も変わる中で、昔と同じ教え方では届かないこともあります。伝えるべき本質は変えずとも、伝え方は時代に合わせて変えていく。その柔軟さが、これからの指導者には必要だと感じています。