フィギュアスケートのオリンピック日本代表は、例年3枠ありました。ただ、平昌オリンピックの際は2枠しかなかったんです。その1枠に、実績のある先輩方を抑えて私が入ったので、納得していただける結果を残さないといけないと強く感じていました。極度の緊張の中で団体戦に臨み、試合直後に胃腸炎で救急車で運ばれてしまったんです。
自分でも気付かないうちに、プレッシャーが大きなストレスになっていたようです。個人戦までは1週間ほどあったので、必死に体調を戻して戦い抜きました。「こんなところでくじけている場合じゃない」という気持ちでしたね。平昌オリンピックは、とにかく「結果を残さないといけない」という一心で戦っていました。「なんでほかの選手じゃなくて坂本が選ばれたんだ」と言われたくなかったんです。
2022年の北京オリンピックでは、少し楽しむ気持ちも持てました。団体戦のときにリンクサイドでチームメイトが応援してくれているのが本当に心強くて、滑っている最中も15%くらい楽しさを感じたんです。ただ、個人戦のときは本当に緊張していました。出番の直前には緊張から泣きそうになっていました。泣いたら息が上がって演技に影響が出てしまうので、深呼吸しながらなんとか泣かないようにしていたんです。
頑張ったご褒美が必要だと思ったので、近くにいてくれた先生に「頑張ったら、焼肉」と一言伝えてリンクに出ました(笑)。氷の上に立つと、冷静になることができましたね。いつも、演技しているときは自分と会話をしているんです。「ここでちょっと息を吐こうか」とか「ここもうちょっと踏ん張れるんちゃう?」といった感じですね。
そういった自分との会話がいつも通りにできていたので、自分が冷静だと自覚できたのが良かったのだと思います。でも、演技が終わりリンクサイドに戻って先生の顔を見たら、思い出したかのように涙が溢れて止まらなかったです(笑)。それに、まさかメダルを獲れるとは思ってもいませんでした。
取材などでは、もちろん「個人戦でもメダルを目指しています」と言っていたものの、実は可能性は低いと思っていたんです。メダルを獲得した瞬間は、嬉しさと驚きが混じっていました。メダルを首にかけていただいてその重みを感じたときに、「本当に獲れたんだ」と実感しました。
北京オリンピックでは、涙が出そうになるほど緊張していたという坂本さん。もともと緊張しやすいタイプだと語る坂本さんに、緊張との付き合い方についてうかがった。
緊張を受け入れる
私はもともとすごく緊張するタイプです(笑)。毎回、どの試合でも緊張しています。ただ、緊張はしたほうが良いと思っているんですよ。緊張を取り除くのではなく、緊張を受け入れるようにしています。「今日も緊張してる、良かった」と思っているんです。
というのも、平昌オリンピックを経験したすぐ後に行われた大会では、まったく緊張しなかったんです。そのときの演技は、とても納得のいくものではありませんでした。その経験から、緊張はある程度必要なものだと思っています。うまく付き合えるようになれば、集中しやすい状態になりますから。
オリンピックへの出場や、個人でのメダル獲得を経て変わったことはいくつかあります。例えば、求める結果を得るために必要な練習の量や内容の濃さの基準ができました。「ここまで頑張らないと、メダルには届かない」という感覚です。
私は自分に甘い性格なんです(笑)。しんどいと思ったら休憩してしまうこともありました。でも、以前そうやって自分を甘やかして結果を出せなかったシーズンがあるんです。途中で諦めてしまうとそれなりの結果になるんだと実感しました。
諦めて結果の出なかった経験もあるし、頑張り抜いてメダルを獲得した経験もある。だからこそ、今苦しくても乗り越えないと、笑顔で試合を終えられないとわかっているんです。今は求める結果を得られるよう、自分を甘やかさず、頑張り続ける道を選んでいます。