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コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか 第2回 インバウンドが回復してきた今だからこそ、チャイナリスクについて考える

ノウハウ コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか 第2回 インバウンドが回復してきた今だからこそ、チャイナリスクについて考える コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか 防災・危機管理アドバイザー、 医学博士

ノウハウ
新型コロナウイルス感染症への対策が5類に移行された中で、今も変異株が蔓延している。それを踏まえて各企業は、完成症対策を含め、従業員や経営へのリスクマネジメントをアップデートしていく必要がある。経営者はコロナ禍から何を学び、今後どう生かすべきか。コロナ禍による企業への影響と、今後の対策について株式会社日本防災研究センター所属、防災・危機管理アドバイザーで医学博士でもある古本尚樹氏による寄稿記事の、連載第2回目。
 
 

チャイナリスクを考える

 
訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移@観光庁
訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移@観光庁
コロナ禍では海外からのインバウンドの影響をまともに受けたが、それが回復時期にある今、リスク対策、特にチャイナリスクについて考えるべきだ。
 
コロナ禍で、観光や飲食に携わる経営者や従業員の多くが苦境に直面しただろう。行動制限による顧客の現象、特に中国を中心として、それまで“あて”にしてきた海外からの観光客の減少の影響は大きかった(図)。
 
インバウンドとチャイナリスクの関係については、
 
  • 観光業(ホテル等)や飲食業などは客の取り込みのみならず、間接的に備品や食品などを、その中国からの利用者に合わせて輸入していたり、もともと人件費の安い中国生産品を利用したりする傾向があった。
 
  • 人の動き、すなわち中国からの利用者が多くいることは、当然それにともなって「モノ」や「サービス」の移動も大きくなることを意味する。そのため、中国との関係が単に観光客のみではなく、他との連関(ガイドや通訳、SNSやネットサービスなど)も形成される。
 
  • さらに中国からの観光客は個人のみならず団体の場合も多い。その際、中国の旅行代理店が介在し、かつ関係したステークホルダーも中国で賄われることが多いため、日中の関係が悪化すると、多数のパイを埋める団体客が“中国に握られて”しまい、日本で差配ができない。
 
――以上のようなことが考えられる。
 
インバウンドの主なターゲットが中国人におかれて久しい。これに日本の観光等業界も依存しきっていたことは、反省すべきだし、改善する必要がある。これまで、中国における日本企業の活動は不安定であった。反日感情を持つ一部の中国人によって、最近でも日本企業への襲撃、一方で中国政府は日本企業従業員を拘束するケースもある。こうしたことを考慮すれば、インバウンドの軸足を中国人におくのが危険であることは、理解できよう。
 
このような、いわゆるチャイナリスク回避のためには、長期的な視野をもって影響を考慮したほうがいい。さらに言うなら、中国での経済活動依存は抑えるどころか依存すべきではないと、私見ではあるが、リスク回避の観点からそう言わせてもらいたい。
 
先般、三菱自動車が中国での自動車生産から撤退するという報道もあった。もっともこの理由について同社は販売不振を挙げてはいる。理由は何にせよ、大企業が対中国との関係を見直しはじめることは、“呼び水”になることが期待される。
 
 

“量より質”。リスクの低い国の選択を


単に人口が多いという理由に惑わされず、“量より質”を重視すべきである。アジア圏でもより安定的で、かつ親日国は多数存在する。こうした国や地域との関係を強化すべきだろう。もちろん、こうした地域でもリスクはある。例えば、日本企業が多数存在するタイ・バンコクでは、かつて水害被害による工場への浸水、また政情不安による空港占拠などもあった。それでも、全体としてリスクは低い。
 
他の国で言うと、ミャンマーへの日本企業のスライド化がみられていたが、最近同国の政情不安が懸念材料ではある。基本的に人件費の安さが他国での経営活動には欠かせない要素だが、その反面、多様なリスクをも注意すべきだろう。他にも東南アジア各国で、日本企業が活動しやすいところはあるし、実際それが継続されているところも多い。治安面や気質などを考慮した、よりリスクの低い国を選択するのは言うまでもない。
 
客単価を下げてでも、量を取るのか、客単価を上げて質を上げて利益を取るか、各企業の姿勢によるが、長期的に安定した経営にいずれの選択であっても、常にセーフティネットを保持することは不可欠である。リスクへ直面した後に、対応を考えるのでは遅い。これはコロナ禍で痛感したはずだ。
 
だからこそ、この経験を生かさなくてはならない。グローバル化が企業活動の幅を広げたことは間違いない。しかし、そのグローバル化に埋没することがないように、特に規模の小さい企業や個人事業主はBCP等の整備が求められる。
 
 

顔の見える関係づくりを!


飲食店では食材に農産物や水産物を利用するが、間に仲介の卸売業者が介在するため、第一次産業従事者と直接関係を構築しておらず、産地の生産者の“顔”が見えないケースがほとんどだ。こうした場合、リスク下では、“生き残る”のに苦労するだろう。
 
なぜ、顔が見えない関係でいることがリスクを高めることになるのか。コロナ禍を経験した結果、企業がリスクマネジメントに対して今後考慮すべきは“柔軟さ”と“セーフティネット”だと思う。業態のこと、また万が一に備えて次の作戦に移れるか、ということを通常時から準備しておく。また、“想定外”への備えのため、普段からリスクにさらされた場合を想定した行動をとれるようにすべきである。
 
ただし、単純に自分の店や会社だけで済ませられないことも多い。先述のコロナウイルスもそうだが、大規模災害やサイバーテロなど自力で対応できない時には、同業者や付き合いのある企業や団体とともに動くべきである。その根回しも普段から行っておかなくてはならない。だからこそ、“顔”の見える関係づくりから始める必要があるのだ。
 
 

リスクを想定した準備が重要

 
一般に、企業等はBCP(業務継続計画)へリスク対策を盛り込みながら、文字通り事業を継続することが基本である。ただ、飲食や観光業において、BCPを確立しているケースが少ないことは前回も指摘した。
 
インバウンドなど利用者の減少に対して、自助努力でなんとか対応できる場合(デリバリーなど業態変化がスムーズにできる場合など)と、今回のコロナ禍のように、自力ではどうにもできない場合(業態変化ができない業種、例えばホテル業などは実際に来客してもらわなくては利益にならないため、来客が止められる「水際対策の強化」など)が考えられる。どちらにしても、そういった状況について、どう対応するべきか。
 
まずは、一時的に休業する、別の業態に変化する(デリバリーに特化するとか、業種そのものをリスク下でも稼働できる仕事に変えるなど)かどうかをきちんと決めておくべきだ。別の業態や業種に変えるフレキシブルな体制をとるためには、事前にその準備と環境を用意しておかなくてはならない。
 
しかし言うまでもなく、いきなり上述のような変化ができるものではない。デリバリー化のように業態変化はしやすいが、業種の変更は(農業への従事など)、リスク回避のために、関係機関すなわちステークホルダーとも事前に連携して、従業員と新業態で働ける環境(土壌)を用意しておかなくてはならない。
 
 
コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか
第2回 インバウンドが回復してきた今だからこそ、チャイナリスクについて考える
(2023.11.15)

 プロフィール  

古本 尚樹 Furumoto Naoki

株式会社日本防災研究センター
危機管理アドバイザー、医学博士、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターリサーチフェロー

 学 歴  

・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退

 職 歴  

・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム 実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)

専門分野:防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、新型コロナ等感染症対策、地域医療
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療

 

 個人ホームページ 

https://naokino.jimdofree.com/

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