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もはや清涼飲料容器の8割はペットボトル

 
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beauty-box / PIXTA
今年4月、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環法)」が施行された。それに呼応して、プラスチック製品の製造と再生処理に関する動きが活発化しているようだ。
 
消費者市民にとって一番わかりやすいのはペットボトルをめぐるそれだろう。9月はまだまだ残暑で暑い。また、近年は、熱中症にならないよう外出中も積極的に水分を摂ろうとする意識が浸透している。そこで清涼飲料水が求められるわけだが、その容器のほぼ8割はペットボトルが占めているからだ*1
 
ところでこのペットボトル、海洋プラごみの問題をきっかけに世界中で問題視されるようになったプラスチックごみの中では、使った人がきちんと捨てさえすればリサイクルしやすい点で、かなりの優等生である。特に日本は使用済みペットボトルのリサイクル率が88.5%にも上り、39.6%のEU諸国、18%の米国を圧倒している*2。ちなみに回収率は日本97%、欧州58%、米国27%だ。ことペットボトルの後始末に関しては、本邦の民度はかなり高い。
 
 

飲料メーカー各社の取り組み

 
この状況をベースとして清涼飲料メーカー各社が注力しているのが、使用済みペットボトルの「水平リサイクル」だ。ペットボトルの水平リサイクルはメカニカルリサイクル(物理的再生法)とケミカルリサイクル(化学的再生法)のどちらかの手法でボトルをPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂として再生し、化学繊維や食品トレーなどに生まれ変わらせず、再度ペットボトルにする方式のこと*3。別名「ボトルtoボトル」とも言われる。
 
例えばコカ・コーラは今春4月から、埼玉県吉見町と連携してペットボトルの水平リサイクルを始めた。同社は2018年に定めた「容器の2030年ビジョン」*4で「100% by 2030――2030年までに、日本国内で販売した自社製品と同等量のPETボトルを回収することを目指します」と宣言し、容器の設計段階においても「100% by 2025――2025年までに、日本国内で販売するすべての製品のPETボトルにサスティナブル素材を使用します」としていた*5
 
アサヒ飲料は5月から、グループが管理する自販機横のリサイクルボックスで回収したペットボトルに関し水平リサイクルを開始。管理下の自販機は首都圏内に3万台あり、重量にして約2000tのペットボトルを回収できるという。今後は順次取扱量を拡大し、近畿エリアや中部エリアにも範囲を広げるべく年内に検討を始めるとしている。将来的にはグループが管理する約7万台全ての自販機に関し水平リサイクルを導入する計画のようだ*6
 
また、サントリーとキリンは共に2019年に「プラスチック基本方針」(サントリー)、「プラスチックポリシー」(キリン)をそれぞれ策定。キリンは先月3日より、東武東上線全46駅のうち自社の自販機を設置する33駅で使用済みペットボトルの水平リサイクルに取り組み始めた*7。サントリーも今年3月から住友不動産と組んで新宿区の同社賃貸オフィスビル3棟で水平リサイクルを開始。この3棟(新宿住友ビル、住友不動産新宿グランドタワー、住友不動産新宿ガーデンタワー)が排出する使用済みペットボトルは約140tで、新宿区の大規模オフィスビルで回収されるペットボトルの総量の約7%に上るという*8
 
 

メカニカルか、ケミカルか

 
水平リサイクルにはメカニカルリサイクル(物理的再生法)とケミカルリサイクル(化学的再生法)の二つの手法があると先述したが、前者は処理工程で物性が劣化するため、元通りの品質でペットボトルに再生し続けるのは限界があるとされてきた。ボトルtoボトルの趣旨に即せばボトルtoボトルtoボトルtoボトルto…の無限ループを実現したいところだが、それをするにはケミカルリサイクルしかないということだ。
 
いっぽうで、そもそもリサイクルは何のためかといえば持続可能性――sustainability(サステナビリティ)――のためである。であれば経済性も無視できない。回収→再生処理→再生材の販売→再生材の購入および再利用という一連の流れのなかで、どこか一ヶ所でも持ち出しがあればシステムは持続しない。また、ナフサ素材からバージンペットボトルをつくるのと同じコストがかかるならば、あえてケミカルリサイクルを選ぶメリットがない。
 
それがために現在、ボトルtoボトルのケミカルリサイクルを商業運転できている企業は世界でも神奈川県川崎市のペットリファインテクノロジー社のみに留まる。ボトルtoボトルの大半はケミカルリサイクルよりも低コスト・低環境負荷で回せるメカニカルリサイクルが担っているのが現状だ。そしてメカニカルリサイクルは、回収段階ですでに「廃ペットボトルの優等生」である家庭排出(=自治体収集)のペットボトルのほうが、本当は適している。
 
メカニカルリサイクルの物性劣化の問題は栃木県小山市の協栄産業(=ジャパンテック社)が開発した再縮合重合反応技術「MR-PET®」が解決しているようでもあるが*9、いずれにしてもゴミの混入(煙草の吸殻など)や残渣(飲み残し)が多い事業系の使用済みペットボトルは廃ペットボトルとしては劣等生だ。飲料メーカー各社の取り組みはその劣等生でボトルtoボトルto…の無限ループを回そうとするもので、事業系ペットボトルのリサイクルは新たな段階を目指し始めたと言えるだろう。
 
 

優等生も劣等生も生み出すのは

 
さて最後に、廃ペットボトルの優等生も劣等生も、生み出すのは私たち消費者に他ならないというところから、誰もが一度は気にしたことがあるだろう疑問について調べてみた。「ペットボトルを捨てるときキャップは分別するのに本体側に残ったリングはそのままでいいの?」というあれだ。
 
結論から言えば、「そのままで大丈夫。でも、できれば外してほしい・・・」ということのようである。
 
そのままでも大丈夫な理由は、リングの素材であるPP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)はPET樹脂よりも比重が軽く、処理工場で水に通すとリングは浮きペットボトルは沈むので、分離回収ができるから。でもできれば外してほしい理由は、「本当はリングがない状態で再生処理にかけたいから」。
 
なんとも玉虫色の答えだが、このあたりの微妙なニュアンスは「社会対話・協働推進オフィス」の記事を参照してほしい*10。「いいよ! リング外すよ!」という人は、百均ショップでも「分別はさみ」が売られているから、お好みのハサミを見つけてみてはいかがだろう。筆者の場合、食べ物以外の物の切断は大抵NTカッタープロシリーズAD-2Pを愛用している。あの超鋭角かつロングフォルムの切っ先がお気に入りなのだ。
 
 
 
*1 厳密には77.2%。容器別品目別生産量シェア2021年(一般社団法人全国清涼飲料連合会)参照
*2 PETボトルリサイクル推進協議会Q&Aページ Section8リサイクル統計
*3 PETボトルリサイクル推進協議会ホーム > もっと詳しく知る > ボトルtoボトル。なお、化学繊維や食品トレーなど別製品に再生する方式は水平リサイクルに対しカスケードリサイクルと呼ばれる。
*4 「World Without Waste(廃棄物ゼロ社会)」を目指して(コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
*5 サスティナブル素材とはリサイクルPET素材と植物由来PET素材とを指す。その按分をどう考えているかはともかく、売ったぶんは全て回収するというのはメーカーの姿勢として評価できる。
*6 アサヒ飲料ニュースリリース(2022.05.10)
*7 キリンホールディングスニュースリリース(2022年7月27日)
*8 住友不動産ニュースリリース(2022年2月28日)
*9 協栄産業株式会社公式サイト
*10 ペットボトルの素朴な疑問を解説!「キャップのリングははずさなくてもいいの?」(2018年9月3日)
 
(ライター 筒井秀礼)
(2022.9.7)
 
 

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