B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 
 

嫉妬はいけない感情か?

 
 終身雇用や年功序列が終わったとされ、成果主義の時代に入ると、先輩だからと言ってうかうかしていられなくなったのは確かだ。後輩のほうが上司の受けがいい、仕事ができる、あるいは、若い女子社員のほうがはるかに上役からお声がかかる、なんて状況を見ていたら、焦りも感じるだろうし、嫉妬してしまうこともあるだろう。女の武器があるなら、女に生まれればよかったなどと思う人もいるかもしれない。
 
 さて、嫉妬はいけない感情のように思われがちだが、精神分析の世界では、嫉妬は二種類あるとされている。
 一つは、相手が勝っているとか、自分にないものを持っていると感じると不愉快になり、「相手をなきものにしよう」 と攻撃的な心理になったり、「相手がいなくなればいい」 という願望を持ったりする。相手の不幸を喜ぶということもある。これが、「envy型嫉妬」 といわれるもので、精神分析の考え方では、乳幼児に近い幼稚な心性(自分はオッパイがないのに、母親はオッパイが出るだけで癪にさわるということになっている) とされるが、人間、こういう感情は意外に持ちやすい。
 テレビのワイドショーなどで、もともと偉そうにしていた人間が事件を起こしたり、道徳的にまずいことをしたりした場合に、コメンテーターはそれをコテンパンに叩き、視聴者はそれを見て、ちょっとした快感を得る。これなどは、まさにenvyの心理である。
 
 いっぽう、精神分析の世界で、もう一つ問題にされる嫉妬は、父親に対する嫉妬だ。
 エディプス期 (4~6歳くらいとされる) と呼ばれる時期になると、母親を自分だけのものにしたくなって、父親の死を願う。しかし、それに父親が立ちはだかる。
「そんな不埒なことを考えていると、オチンチンを切っちゃうぞ」
この去勢の脅しに負けて、子供は母親をあきらめる。これがいわゆるエディプスコンプレックスの基本的なストーリーだが、この話はここで終わらない。
 母親をあきらめた子供は、自分の幼児性欲を抑圧して、勉強や体力づくりに励む。そして、いつか父親に勝てるようになって、ママを奪い返すなり、ママより素敵な女性と結婚しようとしたりするのだ。このような、負けた相手をいつか抜き返すための心理的な原動力になるような嫉妬は 「jealousy型嫉妬」 と言われる。
 
 要するに、後輩に嫉妬を感じるのなら、それを潰してやろうとか、それに憎しみを感じたり、場合によっては悪口を言ったり、いびるような態度をとる (つまり、嫉妬をエンビー型にする) のではなく、何とかして、その後輩に勝とうと思えるようなジェラシー型の嫉妬に方向性を変えていかないといけない。そうやって逆手にとれば、嫉妬も生産的な感情に転化できるし、そうなった時の嫉妬のエネルギーは、他の感情エネルギーに比べてもなかなかのものなのだ。
 
 

「人間の能力は一元的ではない」という救い

 
 人の悪口を言ったり、足を引っ張るようなことをしていると、自分の評価が下がるし、また、それに余計なエネルギーが割かれることになる。そのうちに、余計に自分の立場が悪くなることにつながりかねない。
 後輩の何が優れているのかをきちんと分析して、それを自分でも身につけるなり、それ以上の能力を身につけていく必要もあるだろう。女子社員が上司に好かれているのも、それを性的なものだと決めつけている限り、自分の進歩にはつながらない。たとえば、その女性は会話がうまかったり、職場の雰囲気を明るくしていたり、かゆいところに手の届くようなサービス精神があるのかもしれない。自分もそういうものを身につけていかないと、いつの間にか、その女性の部下になりかねない。
 どうしても、その後輩に勝てないと思った場合は (たとえば営業成績などで)、自分が勝てる分野を探すことも大切だろう。人間の能力というのは一元的なものではない。営業で負けても調整能力で勝てるなら、先輩としての威厳も保てるし、別の方向からの評価も高まる。
 
 ビジネスパーソンたる者、負けること、嫉妬をすることそのものより、それをどう自分を高めることにつなげられるかのほうがこれからの仕事人生に大きな影響を与えるのだと心しておくべし。(これは後輩でなくても上司や先輩についても同様である) 
 
 
 
 
 心理学で仕事に強くなる ~和田秀樹のビジネス脳コトハジメ~
vol.3 後輩に嫉妬を感じてしまうとき

 執筆者プロフィール  

和田秀樹 Hideki Wada

臨床心理学者

 経 歴  

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ、カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科を経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)。2007年、劇映画初監督作品『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞受賞。2012年、第二回作品『「わたし」の人生』公開。主な著書に『マザコン男は買いである』(祥伝社新書)、『「あれこれ考えて動けない」をやめる9つの習慣』(大和書房)、『人生の軌道修正』(新潮新書)、『定年後の勉強法』(ちくま新書)、『痛快!心理学 入門編、実践編』(集英社文庫)、『心と向き合う 臨床心理学』(朝日新聞社)、『最強の子育て思考法』(創英社/三省堂書店)、『大人のための勉強法』(PHP新書)、『自己愛の構造』(講談社選書メチエ)、『悩み方の作法』『脳科学より心理学』(ディスカバー21携書)など多数。

 オフィシャルホームページ 

http://www.hidekiwada.com/

 
 
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事