家具から大道具まで製作
オーダーメイド木工職人
技術力と社交性のバランスを大事にする

中村 それぞれのジャンルにおいて大きく違うのは、基準の考え方ですね。家作りは、芯という垂直と水平の線を基準に構造材を加工して組み立てていくのに対し、家具や大道具は完成品の寸法を基準に材料の厚さを引いて加工して組み立てていきます。つまり芯を基準に作るか面を基準に作るかの違いです。また、家や家具は当然ながら壊れにくさや耐久性を考慮して作ります。しかし、先ほども言ったようにイベントの大道具は使い終わったら撤収してしまうので、あらかじめ解体のしやすさも考慮しながら作るんですよ。
水野 なるほど! そもそもの作り方やコンセプト自体がまったく異なるんですね。
中村 ええ。一方で、いずれにも共通しているのが精密さです。例えば、寸法がほんの数mmずれただけでも部品同士の接合部がはまらないことが多々あります。すると、現場での修正作業に時間がかかり、工程全体が遅れてしまうんですよ。特に多くの業者が関わる現場では、後の工程を担当する業者さんにも迷惑がかかってしまうので、正確さとスピードの両立が求められます。また、木材だけでなく協力会社で作ってもらう鉄部品と組み合わせて製作することも多いので、素材に合わせた設計力と経験が不可欠ですね。
水野 知れば知るほど、シビアな世界ですね。さまざまな現場を経験してこられた中村代表が、お仕事の中で大事にしておられることはなんでしょうか。
中村 あくまでお客様の使い勝手を第一に考えることですね。現場では実際に使用する場所を見て、どうすれば使いやすいか、どう見せると心地良いかを考えながら製作します。家具の場合はオーダーメイドが多いので、お客様との打ち合わせが欠かせません。技術力と社交性、そのバランスがこの仕事ではとても重要なんですよ。

中村 そうなんです。最近では、世界的にも有名な大手ブランドの短期展示の木工製作を担当させていただいたことがありました。設置場所と工期の条件が厳しいため、すべて工場で仕上げて搬入しまして。重くて大きい部材を傷つけず、人力のみで安全に施工する工程を考えるのに苦心しました。屋外工事だったので天気の心配も重なり、いつもとは違う緊張感があったんです。でもその分、やり切ったときの達成感も大きかったですね。
水野 大手ブランドの依頼も任せられるというのは、まさに中村代表が大きな信頼を得ている証だと思いますよ。
中村 ありがとうございます。その仕事は私にとっても大きなターニングポイントになりました。これからも、さまざまなステージで挑戦しながら技術を磨き続けたいですね。