第10回 ピンチを救う“逆転の発想”の練習法
こんにちは。木村尚義です。ロジカルシンキングと対になるラテラルシンキング。前回は、一見すると創造性を抑えるかに見える制約が、実は創造性の源になっているという話でしたね。今回は“逆転の発想”でピンチを脱出できるようになるための練習方法について解説します。実際に私が企業研修で使っている練習法なので効果は保証付きです。ぜひ皆さんも実践してみてください。
と、その前に、まずは恒例。謎かけです。

ある水産市場では、目の前の浜辺から貝を水揚げしています。ところが、電気設備に故障があり、水槽の浄化装置や冷凍装置が使えなくなりました。このままでは、せっかくのハマグリやアサリが死んでしまいます。どうしたら、被害を最小限に食い止められるでしょうか。
体を使わないとしても練習は必要
何にでも当てはまることなのでしょうが、理論を知ることは大切です。しかし、もっと大切なのは、理論を知っていても実践できなければ、実践できるようになるために練習しておかなければ、いざという時に使い物にならないとわかっておくことです。
普段からジョギングしている人でも、マラソン大会に出場しようとしたら、数ヶ月前から練習するでしょう。体を使う場合はもちろんのこと、頭を使う入試の前には何年もかけて勉強を続けるではありませんか。ところが、ラテラルシンキングは、やり方さえ覚えてしまえば、簡単にできると思われています。それは間違いです。ロジカルもラテラルも、どんな思考法にも練習は必要です。
いつまで練習を続けるかは人それぞれですが、一定の水準に達したら、1つのアイデアから芋づる式に次々と新しいアイデアが出てくることはどの人も共通のはずです。きっと皆さんもそのことを実感できます。
今回は実際に私が全国のラテラルシンキング研修で使っている演習の一部を紹介します。演習といってもゲーム感覚で気軽に挑みましょう。
練習方法その1>>「だが、それがいい」
「だが、それがいい」というフレーズは、ダメだと思っている事実を受け入れて、意味づけを変えます。これ、マンガ『花の慶次』の名場面で有名なので、ご存じの方も多いでしょう。このセリフは視点を変えるきっかけに使うと効果的です。困った状況を目の前にして、「だが、それがいい」と言えば、脳は勝手に、“なぜ、いいのか”という理由を探して辻褄を合わせようとします。この過程で、脳に新たな発想回路が生まれます。
例えば、就活なら次のような手順になります。無表情でニコリともしないし、なぜか、笑う表情が苦手な新卒者。この人を「だが、それがいい」と言い切ります。そうすると、「プロのギャンブラーか、それとも葬儀社だったら、こういう人が最適ではないか?」という逆転の発想が出てきます。万事この調子で、ダメそうなものを逆転します。
練習方法その2>>いいこと探し
ダメそうなものと言っても、全てがダメだということはありません。人間は本能的に欠点を探すことに長けています。たぶん、原始時代に腐ったものを食べて病気になると大変だったからでしょう。「だが、それがいい」は意味づけを変える目的でしたが、いいこと探しは、いいことを発見するゲームです。残っている「ダメじゃないこと」を探す練習ができますよ。
練習方法その3>> さて、どうしたでしょうクイズ
ピンチに至らずとも日常で何か不満になっていることは、たくさんあるでしょう。そこで、一番解決したいことを思い浮かべ、理想ならどうなっているかを考えます。これをクイズにしてしまうのです。
例えば、あなたは満員電車の通勤にうんざりしています。そこである方法を試したら通勤にストレスがなくなったと想像し、「さて、どうしたでしょう」と声に出します。これだけで脳は勝手に答えを見つけようとします。騙されたと思ってやってみてください。
練習方法その4>> 役に立たないものゲーム
普段は、人間は役に立つものを自然に発想してしまうので、その逆は意外と難しいものです。「役に立たないものゲーム」は、この習慣を変える2~3人で遊ぶゲームです。親を決め、親が「絶対に役に立たないもの」を発表します。制限時間の3分以内に「こうすれば役立つ」と見つけた人が勝ち。用途を見つけられなければ親の勝ちです。例えば、親が「絶対に書けないボールペン」と言ったら「紙を汚さずにペン運びの練習ができるから役立つ」というように役割を見つけた人が勝ちになります。
練習方法その5>>ジキルとハイド
こちらもグループ実習です。タイトルから想像できるように、性質の異なるものを1つに結びつけます。例えば、「効率よい無駄遣い」「最高品質のゴミ」という感じで正反対のものを考えます。第二段階で「効率よい無駄遣いとは何か?」「最高品質のゴミとは何か?」と発展させます。現実に「最高品質のゴミ」という発想で、産業廃棄物からレアメタルなどの貴金属を取り出す事業が生まれ、都市鉱山という言葉も一般化しました。
ここで紹介した練習方法はどれも特別な道具を使いませんし、お金もかかりません。受講者の1人は、「だが、それがいい」は、怒りっぽい人が穏やかになったという思わぬ副産物も生まれたと教えてくれましたよ。
【浄化装置が止まってしまった水産市場】答え
いったん、目の前の海に放す。
そもそも相手は貝ですから遠くに逃げることはありません。別の水槽を借りてくることもできるでしょうけれど、天然の水槽である海に戻せば、みすみす死なせてしまうことはありません。浄化装置が直り次第、再び浜辺から戻せば活きの良いままです。「期間限定イベントとして潮干狩りを開いてもいいかも」と発想するところまで突き抜けられれば、完璧でしょう。
次回は抽象化「1を聞いて10を知る能力を高める」練習です。
第10回 ピンチを救う“逆転の発想”の練習法
執筆者プロフィール
木村尚義(Kimura Naoyoshi)
創客営業研究所代表・企業研修コンサルタント
経 歴
日本一ラテラルシンキング(水平思考)関連書を執筆している著者。1962年生まれ。流通経済大学卒業後、ソフトハウスを経てOA機器販社に入社。不採算店舗の再建を任され、逆転の発想を駆使して売り上げを5倍に改善する。その後、IT教育会社に転職、研修講師としてのスキルを磨く。自身が30年以上研究している、既成概念にとらわれずにアイデアを発想する思考法を企業に提供し好評を得ている。また、銀行、商社、通信会社、保険会社、自治体などに「発想法研修」を提供している。遊ぶだけで頭がよくなる強制発想ゲーム「フラッシュ@ブレイン」の考案者。著書に、『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』(あさ出版)、『ひらめく人の思考術 物語で身につくラテラル・シンキング』(早川書房)など多数。
オフィシャルホームページ
http://www.soeiken.net/