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昨今、銭湯業界では経営者の高齢化やコロナ禍による影響で経営が困難となり、廃業を余儀なくされている銭湯も多い。一方、クラウドファンディングなどの仕組みを利用して改装工事を行い、再出発を図る銭湯もある。総武線錦糸町駅の北口より徒歩6分の場所に佇む黄金湯もまた、2020年8月にリニューアルオープンした銭湯の一つだ。むき出しのコンクリートづくりのスタイリッシュな外観が目を引く店内では、タイムスリップした感覚に陥るような古いレコードの音楽が流れている。革新的な銭湯の店主である新保卓也氏と新保朋子氏に、施設の大改装における経緯や、当時の思いをうかがった。
 
 

クラウドファンディングで1034名から支援を受ける

 
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――黄金湯さんは1932年より前に建てられた老舗の銭湯で、2020年8月にフルリニューアルされたんですよね。私も先ほど浴場とサウナ施設を利用してきまして、初めて訪れたとは思えないほどリラックスしてしまい、明るく爽やかな心地でととのわせていただきました! さっそく、新保夫妻が黄金湯を経営されるまでの経緯からお聞かせいただけますか。
 
新保(朋) はい。もともと夫が、黄金湯から徒歩5分の場所にある大黒湯を経営する家庭の次男だったんです。私たちが結婚するタイミングで継がなければいけない状況になり、2012年に大黒湯の経営を受け継ぎました。おかげさまで次第にお客様が増え、もう一店舗やりたいと考えていた矢先の2018年、ご縁のあった黄金湯も引き継ぐことになったんです。
 
――黄金湯さんとはどのようなご縁が?
 
新保(卓) 創業以来、黄金湯はいろいろな方が代替わりしてきて、先代がご高齢ということもあって今回私たちが受け継いだという形ですね。
 
新保(朋) ただ、2020年にコロナ禍の影響で改装工事の延期、来客数の減少はもちろん、必要な資材なども集まらない状況で、予算が大幅にオーバーしてしまい、「どうにかしなければ」と焦る中、やるしかないという思いでクラウドファンディングで資金を募ることに決めたんです。するとありがたいことに、1034名もの方からご支援を受け、658万円の資金が集まりました。
 
――多くの方から愛されていることが伝わって来ます。下駄箱の鍵の木札の裏には、リターンとして支援者のお名前を彫られたそうですね。
 
新保(朋) 黄金湯には35年以上使い続けている下駄箱があります。黄金湯のレトロな雰囲気を残したいと、私の強い希望で改装後も残してもらったんです。私たちにとってリニューアルは、この先30年以上は営業するという覚悟のもとの挑戦だったので、支援してくれた方にも黄金湯を一緒につくり上げて、残したんだと思っていただけたら嬉しいです。
 
 

レコードを通じて世代を超えた交流の場に

 
――改装時のこだわりも教えてください。
 
浴場を見上げると、世代を超えて銭湯を受け継ぐ人々が描かれた「富士絵巻図」絵が
浴場を見上げると、世代を超えて銭湯を受け継ぐ人々が描かれた
「富士絵巻図」の絵が
新保(朋) 姉妹店の大黒湯に比べて黄金湯は敷地が狭いので、いかに個性を出すかを意識しました。改装の際は、縁あってクリエイティブディレクションをアーティストの高橋理子さんに、設計は建築家の長坂常さんに協力していただきました。男湯から女湯に続く「お〜い」と描かれたのれんはアーティストの田中偉一郎さんが、浴場内の壁に描かれた「富士絵巻図」は、漫画家のほしよりこさんが描いてくださいました。皆さん銭湯文化を愛する方々だからこそ、集ってくださったんですよ。
 
――まさに奇跡的な異色のコラボですよね。店内の演出で特に感激したのはエントランスのDJブースから流れているレコードの音楽です。浴場まで響いてくる昭和の古き良き音楽が、絶妙に入浴中の気持ち良さとマッチしていて、その相性の良さに驚きました。
 
新保(卓) 実はレコードは改装前から設置していたんです。レコード好きなスタッフの希望で試しに流してみたら思いのほか好評でしてね。次第にご高齢のお客様が家で眠っていたレコードを持ち寄ってくれるようになり、その集まったレコードのフリマイベント「レコード市」も、先日第5回目を開催しました。
 
新保(朋) 改装前、レコードを通じてお年寄りと若者が楽しげに会話をしているシーンを目にして、素敵だなぁと思いました。「この当時はさ〜」と昔話が始まるなど、気付けば世代を超えた交流場になっていたんです。それで、より本格的にしようとDJブースを設置しました。
 
――その隣の番台バーでは、黄金湯オリジナルクラフトビールが楽しめるとか。
 
新保(卓) 私がビール好きなので、湯上がりに最高の一杯を楽しんでほしいという思いで設置しました(笑)。こちらも皆さんから大好評ですよ!
 
――SAUNACHELIN(サウナシュラン)2020では、「いま行くべき全国のサウナの上位11施設」の中で銭湯初の6位に選出されていましたよね。
 
夫婦でこだわったという露天の水風呂
夫婦でこだわったという野外の水風呂
新保(卓) サウナにも、かなりこだわりが詰まっています。室内の壁には遠赤外線を放射する麦飯石を張り詰めており、室温は100度前後です。ロウリュを導入したことでサウナ内に熱い蒸気が充満して湿度も高くなり、体感温度もグンと上がりますよ。水風呂は水深90cmと深く、15〜16度の水でしっかり体を冷ませます。男湯では外気浴もできるので、煙突を見上げながらととのっていらっしゃる方も多いですね(笑)。水曜日は男女浴室入れ替え日を設けています。
 
 

地元民を一番大事に、アップデートをし続ける

 
――外観や内装、そして設備に至るまで隅々にこだわりが詰まっているんですね。何よりスタイリッシュで、むき出しのコンクリートを基調としたデザインもすごくおしゃれです!
 
新保(朋) ありがとうございます。ただ、改装前は雰囲気が変わることで、地域の方に受け入れてもらえるか不安で、とても悩みました。何度も打ち合わせを重ねて、「振り切った気持ちで行かないと!」と、思い切ってチャレンジしたんです。私たちは昔から一番に地域の方を大事に思っていて、その思いはこれまで通りまったく変わっていません。
 
新保(卓) 銭湯経営は、ものすごく儲かるビジネスかといったら、そうでもないんです(笑)。私は収益より人との関わりを大切にしています。常連さんと何気ない楽しい会話を交わす瞬間や、皆さんの日常にちょっとした贅沢な時間を提供できることにやりがいを感じています。
 
新保(朋) 私も、皆さんから第二の家のように思っていただき、ご家族で来られるお子さんの成長を見られることが嬉しいです。幼い頃から通ってくれていた子が大学生になって、初バイトに黄金湯で働いてくれたこともあって。そうやって世代を超えて、未来につながっていく瞬間が銭湯にはあるんです。
 
――今後の展望もぜひ教えてください。
 
新保(卓) 今は高齢化が進み、多くの銭湯が潰れていってしまっているので、少しでも銭湯文化を残すために貢献したいですね。そんな思いで、今後新たにスカイツリー付近にある、さくら湯の経営も担うことが決まりました。
 
新保(朋) 黄金湯の2階ではドミトリータイプの和室・洋室の宿泊サービスを始めたばかりで、ラウンジではカレーや私が考案したロウリュコーヒーの提供もできるよう準備を進めています。ほかにも、イベントや個展が行える場にもしていく予定ですよ。また、銭湯の新たな活用法として、情報発信の場として利用できないかと考えています。
 
新保(卓) 次世代に銭湯文化をつないでもらえるきっかけになるよう、夫婦でこれからも走り続けたいと思います!
 
――地元民の若者からお年寄までが足しげく通ってくるのは、斬新なアイデアと新しさの中にも地域の人を一番に大事に思い、新保夫妻の深い銭湯愛があるからだと思います。これからもお二人の力で、銭湯文化をさらに盛り上げていってください!
 
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エントランスから見えるDJブース
エントランスから見えるDJブース
 
 
(取材:2021年10月)
 
 
■住所
〒130-0012 東京都墨田区太平4丁目14−6 金澤マンション 1F
 
■アクセス
JR錦糸町駅(北口)より徒歩6分
 
■営業時間
平日・日曜・祝日 : 10:00-24:30
土曜日 : 15:00~24:30
定休日 : 第二・第四月曜日
※水曜のみ男女入れ替え日
※タトゥーのある人も入浴可
 
■URL  https://koganeyu.com
 
復活する銭湯
vol.1次世代に銭湯文化をつなぐ黄金湯の夫婦
(2021.11.24)

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