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ビジネス 川上徹也の「売り場に熱を!」 vol.1 創業の思いや哲学を売る 川上徹也の「売り場に熱を!」  コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

ビジネス
 
全国の多くのお店に、今、一番足りないものはなんでしょう?
それは“熱”です。“熱”がないところに人は集まりません。
 
 
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愛知県豊橋市のスーパ―の、売り場に“熱”を産む工夫は・・・? 
こんにちは。コピーライターの川上徹也です。先月まで「『買いたい』のヒミツ」と題して6回にわたって連載してきました。主にビジネスにおける「物語」の産み出し方と、売れる「言葉」の書き方についての内容でした。今月からまた新しい連載をスタートします。題して「売り場に熱を!」です。
 
 
このタイトルは常々、私が思い続けていることです。例えば、地方都市に講演などで出張にいくと、商店街がシャッター通りになっている風景をよく見かけます。営業している店もお客さんはいず閑散としていることが多い。ちょっと悲しくなる光景ですが、このような賑わっていない商店街や店舗に共通していることがあります。それは“熱”が感じられないということです。繰り返しになりますが、“熱”を感じない場所に人は集まりません。
 
あなただってきっとそうでしょう? 例えば出張帰りに空港で、地元名物を食べようとした時、「混んでいて活気がある店」と「閑散として店員が暇そうにしている店」が並んでいたらどうでしょう? 多くの人は、混んでいる店の方がおいしそうに感じて食べたいと思うではないでしょうか?
 
「物語」を産み出し、売れる「言葉」を書くことも大切ですが、まず現場に“熱”がなければ成果を得ることはできないのです。
 
この連載では、6回にわけて店舗に“熱”を産み出す方法をお伝えしていきます。
 
 

「一期一会」の出会いを売る超ローカルスーパー

 
価格や品質などで勝負していたら、小さな会社やお店は、大企業やチェーン店にたちうちできません。戦ってはいけないのです。もし価格や品質などの価値基準で選ばれているとしたら、たとえ今は繁盛していても、より価格や安く品質がいい店が近くにできたら、お客さんは簡単にそちらに行ってしまうでしょう。
 
小さな会社やお店は、お客さんにファンになってもらう必要があります。熱く濃いファンになってもらえると、商品を買ってもらえるだけでなく、まわりの人たちに勝手に勧めてくれる存在になってくれます。そうなると店は自然に商売繁盛していくのです。
 
ではどうすれば、お客さんとそのような関係を結んでいくことができるでしょう?
 
まず最初にするべきことは、「創業の思い」や現在の代表者の「事業にかける哲学」をきっちり世の中に訴えることです。いわば「旗を掲げる」ということ。そうすることで、「種火」が産まれます。その種火をきちんと燃料に点火させることができてはじめて“熱”が産まれていくのです。
 
旗を掲げる場所は、店頭でもウェブサイトでもかまいません。その言葉に共感してくれた人は、その会社やお店のファンになる可能性が高い。もちろん扱う商品のクオリティが一定以上高いことは最低限の条件です。
 
愛知県豊橋市にある「一期家 一笑」という小さなスーパーマーケットがあります。このあたりには十数年前くらいまでは同規模のスーパーが数多くありました。しかしその大半は廃業してしまったのです。理由は大きなスーパーが近くに進出したから。「一期家一笑」はそのような環境下で、多くのお客さんに店のファンになってもらうことで商売繁盛し続けています。
 
店に着くと目につくのは、「超ローカルスーパー」という大きな看板*後注。本当の意味で地域密着をするということを宣言しているのです。
 
また店頭にかけられた垂れ幕には、以下のような「店名の由来」が書かれています。
 
 一期家一笑(いちごやいちえ)という店名は
 「一期一会」の出会いを大切に
 「家」のような温かさをもって、
 最後はみんなが「笑」顔でお帰りいただけるように
 という願いを込めて、スタッフ全員で考えてつけさせていただきました。
 
これは「創業の思い」でもあり、「店の哲学」でもあります。店内には、超ローカルを標榜するだけあって地元の農産物や商品を数多く取り扱っています。お客さんの顔を覚えて名前で呼びかけます。笑える巨大なPOPがあらゆる場所に貼られています。ちゃんと「店の哲学」を体現しているのです。
 
 

ケーキのおいしさに「哲学」をトッピング

 
大阪市の南部、阿倍野区と住吉区にまたがる地域に「帝塚山」という大阪屈指の高級住宅地があります。その帝塚山の地に1969年から営業を続ける洋菓子店が「ポワール」です。そのケーキは、地元住民に愛されているだけでなく、著名人のファンも多い。大阪でも指折りの有名店です。現在、市内に8店舗ありますが、路面電車の駅前にある帝塚山本店はいつも賑わっています。
 
お店のサイトを見ると、創業ストーリーや商品の説明などが非常にうまく書き記されています。ケーキ自身がおいしいことはいうまでもありませんが、このような「思い」に触れるとますますおいしく感じられファンになってしまいます。
 
そしてポワールのサイトでひときわ目をひくのが、「フィロソフィー」(=哲学)という項目です。それは以下のようなものです。
 
 最後のひとくちまで、愛して。
 
 バニラの香りが鼻孔をくすぐるひとくちめから、
 すべらかな粉が跡形もなく舌でとろけてしまうラストまで
 圧倒的なおいしさを保ち続けること。
 どんなに斬新なスイーツであろうとも、
  途中でくどくなることなく、
  最後のひとくちまでしっかりと美味しい。
 それがポアールのお菓子の神髄。
 
 「もうひとくちだけ食べたい」
 そんな欲望を掻き立ててしまうことを
 密かに狙いつつ。
 
うーん、思わずどんなケーキか興味がわき、一度食べたくなりますね。そして実際に食べて、その通りだと感じたお客さんは、確実にファンになるでしょう。
 
このような「思い」や「哲学」は、きっとあなたのお店にもあるはずです。
今回紹介したような事例を参考にして、まず旗を掲げてみてください。それが現場に“熱”を産み出す第一歩なのです。
 
 
 
*注 「一期家一笑」さんは11/28(土)から店舗改装工事のため一時休業。来春リニューアルオープン予定です。
 
 
 
 
川上徹也の「売り場に熱を!」
vol.1 創業の思いや哲学を売る

 著者プロフィール  

川上 徹也 Tetsuya Kawakami

コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

 経 歴  

大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。
「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という独自の手法で「企業」「地域」「大学」などが本来持っている価値を見える化し輝く方法を、個別のアドバイスや講演・執筆などを通じて提供している。
著書『物を売るバカ』『1行バカ売れ』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)など多数。 最新刊『あなたの弱みを売りなさい』(ディスカヴァー21)が好評発売中。

 オフィシャルホームページ 

http://kawatetu.info/

 
(2015.11.25)
 
 
 

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