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ビジネス 川上徹也の「買いたい」のヒミツ vol.6 (最終回)「こだわりバカ」になるな 川上徹也の「買いたい」のヒミツ コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

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 ある菓子屋で、昔ながらの「あんドーナツ」にPOPをつけて売ることになりました。おいしいけれど素朴な味。「懐かしい味のあんドーナツ」「40年変わらぬこだわりの製法」などという凡庸な言葉では売れそうにありません。ところが、ある60代の店員が発したひと言をもとにPOPを書いて商品につけたら、高齢者のお客さんにバカ売れしました。さてそれはどんな言葉だったでしょう? 答えはこのコラムの後半で。
 

言葉を強くする方法

 
 こんにちは。コピーライターの川上徹也です。前回のコラムでは、キャッチコピー力を高めるための大原則「受け手に自分と関係ある」と思ってもらうために、どんな内容のことを書いていけばいいかについてお話ししました。今回は、より具体的に、「商品」「サービス」「企画」「あなた自身」などを売る時に、どのように相手の心を動かす1行を書いていけばいいかについてお話しします。
 
 それにはまず何よりも「言葉を強くする」から始めましょう。強い言葉で書かれた1行は、受け手の心に刺さり記憶に残ります。そうすると、買いたくなる確率が大幅にあがるのです。
 言葉を強くする方法はいろいろありますが、今回は以下の3つのポイントについてみていきます。
①常套句をさける
②実感をこめる
③リズムや語呂をよくする
 
 

空気のような言葉を書いてませんか?

 
常套句をさける】
 常套句とは、ありきたりな手垢のついた言葉です。例えば、飲食店などで今一番よく使われる常套句は何でしょう? それは「こだわり」という言葉です。現在の日本では、この「こだわり」という言葉ほど、こだわりなく使われている言葉はないでしょう。「厳選した」「極上の」などの言葉も同様です。何も言っていないのと同じです。このような常套句を使うと、具体的に何もアピールするポイントがないんだなと思われてしまいます。当然、強い言葉にはなりません。
 
 駅などに貼られているポスターのキャッチコピーも常套句のオンパレードです。例えば大学の広告などはそれが顕著です。「未来」「世界」「創造」「グローバル」「羽ばたく」「見つめる」などの耳障りはいいけど、何の意味もなしてないような常套句ばかり。キャッチコピーだけではどこの大学かもわからないくらいです。
 企業のサイトなどに書かれてある「経営理念」などもそうですね。「お客様第一」「お客様の笑顔」「地域密着」「創造」「イノベーション」などといった常套句が書かれた会社がいかに多いことか。そういった常套句を掲げている会社ほど、実際に書かれている理念を実行できないように感じます。
 
 このような手垢がついた常套句では人の心は動きません。何も言っていないのと同じ空気のような言葉です。なくても同じ。このような言葉なら、むしろ何も書かないほうがいいくらいです。
 
【②実感をこめる】
 同じような内容の言葉でも、実感がこめられているのとこめられていないのでは、相手に伝わる「熱量」に大きな差ができます。やはり熱量が大きいほど、相手の心が動きやすくなります。
 
【③リズムや語呂をよくする】
 キャッチコピーはリズムや語呂が非常に重要です。「対句にする」「韻をふむ」「ダジャレにする」などの方法でリズムや語呂をよくすると、その1行が頭や心にストンと入ってきやすくなるのです。
 以上の3つの方法を実践するだけでも、あなたが書く1行はかなり強くなるでしょう。相手の感情を動かし、結果として「買いたい」と思ってもらいやすくなるのです。
 
 

実感をこめた語呂のいい1行でバカ売れ

 
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バカ売れする元となったPOP 画像提供:(株)二木
 冒頭のお菓子屋さんのエピソードに話を戻しましょう。これは、上野のアメ横にある「二木の菓子」で実際にあった出来事です。この店の特徴は、よその店では売れないような商品でも、強い言葉を使ったPOPで売りきるということです。
 
 冒頭の「あんドーナツ」も、他の店ではなかなか売れない商品でした。とても甘く素朴な味わいで、お世辞にも時代にマッチしているとはいえない商品だったのです。ところがその商品が「二木の菓子」では高齢者のお客さんを中心にバカ売れしました。
 
 それには理由があります。ある60代の店員が「昔は甘いものって特別な時にしか食べられなかったんだよ」と語った言葉を参考に、以下のようなキャッチコピーを書いたPOPを商品につけたからです。
 
今となっては素朴でも、昔はこれが贅沢だったんだ!
 
 「こだわり」「懐かしい」などの常套句を使わず、実感をこめて、対句にして語呂をよくしています。とても強い1行になっているのがわかるでしょう。その結果、高齢者のお客さんの心をつかみ、買いたい気持ちにさせていたのです。
 
 ちなみに、このあんドーナツは、「二木の菓子」チェーンの各店でも同様にバカ売れしました。しかしある一店舗だけが売れませんでした。なぜだろうと調べてみると、その店舗では、店員が独自の判断で別のPOPを使っていたのです。そのキャッチコピーは「昔懐かしい味、今も昔も変わらぬ贅沢を」というものでした。内容はほとんど同じでも、よく使われるような手垢がついた常套句で、実感がこもっていない1行でした。結果として弱い言葉にしかならず、多くのお客さんの心を動かせなかったのです。
 
 
 このように、1行のキャッチコピーの力で、商品の売り上げが大きく変わることはよくあります。ただし、言葉だけで売れたものは長続きしません。やはり商品の品質などの価値が高いことに加えて、継続して共感を得ていく「物語」が必要になってきます。
 
「物語」と「言葉」は、お客さんを買いたい気持ちにさせるクルマの両輪なのです。
 
 
この連載はこれで終わりです。半年間、ありがとうございました。
 
 <連載了>
 
編集部より:「“買いたい”のヒミツ」は今回で終了。次回から川上徹也さんの新しい連載が始まります。お楽しみに! 
 
 
 
 
川上徹也の「買いたい」のヒミツ
vol.6 「こだわりバカ」になるな

 著者プロフィール  

川上 徹也 Tetsuya Kawakami

コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

 経 歴  

大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。ストーリーの持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という言葉を生み出した第一人者としても知られ、現在は広告制作にとどまらず、そのノウハウを個別のアドバイスや講演・執筆などを通じて提供している。著書は『物を売るバカ』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)、『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。 最新刊『1行バカ売れ』が好評発売中。

 オフィシャルホームページ 

http://kawatetu.info/

 
(2015.10.21)
 
 
 

 

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