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ビジネス 川上徹也の「買いたい」のヒミツ vol.5 売れる1行の書き方 川上徹也の「買いたい」のヒミツ コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

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 もし、あなたが本屋で働く書店員だとします。20年前に発売された文庫本を読んでとても感動しました。何とかその本をもっと多く人に読んでもらうために売り伸ばしたいと思った。さて、あなたならどうするでしょう? 
 これは実際にあった事例です。その書店員が、POPに書いた言葉によってその本はあれよあれよと売れていき、何とミリオンセラーにまでなりました。彼がどのような言葉を書いたかは、このコラムの後半で。
 
 

「人」と「お金」を集める最強の武器とは?

 
 こんにちは。コピーライターの川上徹也です。今までの4回のコラムで「物語で売る」ことの重要性を訴えてきました。販売においてこの「物語」とクルマの両輪になるのが「言葉」です。せっかく、いい「物語」を発見できても、それに見合う「言葉」が発見できないと、残念な結果に終わってしまいます。
 
 私は、“相手の心を動かし行動したくなるような1行を書いたり話したりできる能力”のことを「キャッチコピー力」と呼んでいます。キャッチコピーというと広告コピーを書くコピーライターを連想します。しかし、「キャッチコピー力」は、今や一般のビジネスパーソンにこそ必要な能力です。「キャッチコピー力」があれば、商品を売ることもできるし、企画を通すこともできます。「人」と「お金」を集める最強の武器が「キャッチコピー力」なのです。
 
 まずは、キャッチコピー力を高めるためのシンプルなたったひとつの大原則をお伝えします。
それは、受け手に「自分と関係ある」と思ってもらうことです。
 
 ネット社会になり情報が飛躍的に増えている現在では、自分に関係がないと思われた時点であっという間にスルーされてしまいます。物を売る時も、その商品を自分と関係があると思ってもらわなければ、お客さんは買ってくれません。
 
 

自分ごとにしてもらうための5つの要素

 
 では何を語れば、人は自分と関係があると思うのでしょう?
 自分ごとにしてもらいやすくなる、5つの要素を以下にまとめてしました。
 
①ニュースを知らせる
新しい情報は人の好奇心を刺激します。すると自分と関係があると思ってもらいやすくなります。
 
②得することを提示する
人は自分が得することには関心をしめします。
 
③欲望を刺激する
自分が心の底にもっている欲望を刺激されると、興味を抱いてしまいます。
 
④恐怖と不安でやさしく脅す
人は恐怖や不安に弱い生き物です。それを解消してくれるものを無視できません。
 
⑤信用を売りにつなげる
人は信用する相手の言葉は、内容に関わらず聞こうと思うものです。
 
 以上の「語るべき要素(=What to say)」を訴求すれば、人は「自分に関係がある」と思いやすくなり、その情報をスルーできにくくなります。商品であれば買ってもらいやすくなるのです。
 
 

一枚のPOPからミリオンセラー誕生!

 
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掲載許可:さわや書店
 冒頭の文庫本を売り伸ばしたいと思った書店員に話を戻しましょう。彼の名前は松本大介さん。岩手県盛岡市にある、さわや書店の書店員でした。彼が読んで感動した本とは、1986年にちくま文庫から発売されていた『思考の整理学』(外山滋比古著)です。松本さんがそれを読んだ2007年当時、20年で17万部というロングセラーではありました。彼はその本をさらに売り伸ばすために一枚のPOPを書きました。
その文面は以下のようなものでした。
 
“もっと若い時に読んでいれば・・・”
そう思わずにはいられませんでした。
 
 これは、上記の5つの要素のうち「⑤信用を売りにつなげる」を使ったキャッチコピーだと言えるでしょう。人は、発信者から「弱み」や「実感」を感じ取ると共感して信用しやすくなるのです。
 
 自らの「弱み」「実感」を強い言葉で表現したPOPによって、『思考の整理学』はさわや書店で特異的に売れ始めました。それを聞きつけた出版社が、このフレーズを本の帯のキャッチコピーとして使うようになりました。すると全国的にどんどん売れ始め、1年半あまりの期間に『思考の整理学』は累計50万部を突破するまでになったのです。
 
 2009年、出版社は帯のキャッチコピーを変えました。前年、東京大学と京都大学の生協の書籍販売ランキング1位になったのをうけて、以下のようなものにしました。
 
 東大・京大で一番読まれた本
 
 日本を代表する2つの大学の学生に読まれたという「権威」に乗っかったキャッチコピーです。権威を利用するというのも、「⑤信用を売りにつなげる」のひとつの方法です。このキャッチコピーによって売り上げに拍車がかかりました。2010年1月、『思考の整理学』はとうとう100万部を突破するミリオンセラーになったのです。
一人の書店員が書いたPOPがこんなにも波及していくなんて、言葉が持つチカラは本当にスゴイですね。
 
 
 最終回の次回は、さらにどうすれば、世の中に影響力のある「強い1行」を書くことができるかについて、詳しくみていきます。 
 
 
 
編集部より:著者の最新刊 1行バカ売れ』(角川新書)が好評発売中! ベストセラー『物を売るバカ』の第二弾です。 
 
 
川上徹也の「買いたい」のヒミツ
vol.5 売れる1行の書き方

 著者プロフィール  

川上 徹也 Tetsuya Kawakami

コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

 経 歴  

大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。ストーリーの持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という言葉を生み出した第一人者としても知られ、現在は広告制作にとどまらず、そのノウハウを個別のアドバイスや講演・執筆などを通じて提供している。著書は『物を売るバカ』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)、『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。 最新刊『1行バカ売れ』が好評発売中。

 オフィシャルホームページ 

http://kawatetu.info/

 
(2015.9.16)
 
 
 

 

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