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キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。火はかねて、人の文明を支えてきた重要な存在であり、感覚を揺さぶるとともに、言いようのない安心感をもたらす。今回は、キャンプであえて焚火をしない選択を取ることで発見できる、内省の機会や自然の豊かさについて考えていく。
 

◎ 「災害時でも自分なら何とかできる」という自信を育む

 
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9月1日。防災の日。どれくらいの人が、この日をきっかけに防災について考えるだろうか。人には「正常性バイアス」と呼ばれる心理がある。よほど切迫した状況でなければ、「自分は大丈夫」と考えてしまう傾向だ。そのため、多くの人は「災害は起きないだろう」という前提で生活し、防災への備えもどこか他人ごとになりがちである。
 
このコラムを書いている時も台風が日本列島を縦断した。各地で警報や避難指示が出されていた。このような状況でも、実際に避難をした方はどれぐらいいただろうか。
 
過去に浸水などの被害を経験している地域ほど危険を敏感に感じ取り、早めに行動する人が多いと感じる。一方で、大きな災害を経験していない地域では、「今回も大丈夫だろう」と考えてしまう人も少なくないように思う。もちろん、私もその一人である。しかし不思議なのは、多くの人が「大丈夫」と思っている一方で、どこか漠然とした不安も抱えていることだ。便利な時代になったはずなのに、なぜ私たちは不安を感じるのだろう。
 
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現代の利便性を高めた象徴ともいえるのが、スマートフォンではないだろうか。スマホ1台あれば、電話やメッセージのやり取りだけでなく、地図、天気予報、懐中電灯、インターネットによる情報収集まで、生活のほとんどが成り立ってしまう。まさに万能な道具である。
 
以前、若い人に「スマホなしで、駅で待ち合わせができますか」と尋ねたところ、「できません」という答えが返ってきた。昔は駅の伝言板を利用したり、「〇時に改札前」と決めて待ち合わせたりすることが当たり前だった。もちろん、それだけスマホが私たちを助けてくれているということでもある。しかし、その支えが突然なくなったとき、人は思っている以上に無力になるのではないか。

私自身、スマホを壊してしまったことがある。その時、家族に電話をかけようとして気づいた。覚えていたのは自宅の固定電話番号だけ。家族の携帯電話の番号は一つも思い出せなった。「記憶力が落ちた」というより、「記憶する必要がなくなった」のだ。便利さと引き換えに、私たちは少しずつ自分の能力を外部へ預けるようになったのかもしれない。
 
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防災講習で「災害時に一番必要だと思うものは何ですか」と尋ねると、「電気」という答えを耳にする。確かに現代社会は電気によって支えられている。家電製品はもちろん、トイレですら停電すると使えない機能が多く備わっている。スマホも同じだ。スマホがあれば、知らない土地でも迷わずに歩ける。暗くなればライトにもなる。雨雲の動きまでリアルタイムで確認できる。本当に便利である。だからこそ、その便利さを失うことが怖い。
 
アウトドアには「観天望気(かんてんぼうき)」という言葉がある。雲や風、空の色、鳥や虫の動きなどから天気を予測する昔ながらの知恵だ。今では天気予報アプリを開けばすぐに答えがわかる。しかし、アウトドアでは空を見上げることが安全につながる場面も少なくない。雲の高さや風向きの変化に気づくことで、雨を避けたり、危険を回避できたりすることがある。便利な道具は素晴らしいが、それは自分の能力を不要にするものではなく、自分の能力を補うための道具であってほしい。
 
災害時には、その万能な道具であるスマホが使えなくなることもある。モバイルバッテリーを持っているから安心、と考える人もいるだろう。しかし、基地局が被災すれば、通信そのものができなくなる。電気があっても、情報が届かないこともある。だからこそ最後に頼れるのは、自分自身の知識と経験、そして周囲の人とのつながりではないだろうか。私は便利な道具を否定したいわけではない。むしろ積極的に活用すべきだと思っている。ただ、それに頼り切ってしまうことで、本来自分に備わっていた力まで失ってしまうのは少し惜しい気がする。
 
私は普段、子どもたちや大人を対象にアウトドアスクールを行っている。その中で火おこしやロープワーク、自然観察などを体験してもらうことがある。すると、参加者から「最初は不安でしたが、こんなこと、自分にもできるんですね」という言葉をよく聞く。私は、その一言がとても好きだ。火をおこせるようになることが目的ではない。ロープが結べるようになることが目的でもない。「やればできる」という感覚を持ち帰ってもらうことこそ、一番大切だと思っている。
 
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災害は、できれば一生経験したくない。しかし、もし突然その日がやってきた時、人を支えるのは最新の道具だけではないはずだ。自分で考え、判断し、行動する力。そして「何とかなるかもしれない」と思える自信。その積み重ねが、落ち着いた行動につながるのではないだろうか。
 
だから、私は時々キャンプへ行く。火をおこし、空を見上げ、風を感じる。地図を広げて現在地を確認し、天気予報を見る前に空の様子を眺めてみる。便利な道具を使わないためではない。便利な道具を正しく使うために、自分自身の感覚も忘れないようにしたいからだ。アウトドアは「不便を楽しむ遊び」だと言われることがある。だが、私は少し違う考えを持っている。アウトドアとは、不便を通して、自分の力を思い出す時間なのではないだろうか。
 
防災とは防災用品をそろえることだけではない。「自分なら何とかできる」――そんな自信を育てることも、防災の一つなのだと思う。
 
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イナウトドア(同)では親子向けスクールや焚き火体験なども行っております。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
https://www.inoutdoor.work/school
 
 
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森 豊雪
学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。
 
※保有資格
・NCAJ認定 キャンプインストラクター
・JBS認定 ブッシュクラフトインストラクター
・日赤救急法救急員他
 
イナウトドア 合同会社
〒238-0114神奈川県三浦市初声町和田3079-3
URL https://www.inoutdoor.work
X(旧Twitter)@moritoyo1
 
 
 

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