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ノウハウ 株式会社One & Only 代表取締役 森島真弓 Womenomicsの経営論 vol.1 性別による住み分けから性差を尊重する社会へ 株式会社One & Only

ノウハウ
 
 昨今の教育事情で一番の問題は、子どもの教育よりも 「モンスターペアレント対策」 だと言われています。モンスターペアレントとは自己中心的で理不尽な要求をする親を意味するものですが(他業種で言えば「クレーマー」)、常識の範囲を超え、かつしかるべき理由や根拠がないことを主張する人にいかに対応するか、現場レベルで難しい判断を迫られています。
 しかし、人を 「モンスター」 にするのも、「クレーマー」 に仕立てあげるのも、会社側の対応による可能性が高いです。私は保育事業・サービス業(ベビーシッター・家事代行)・小売業(アパレル)の3業種を経営していますが、どの業務もクレームによって成長しているといっても過言ではありません。どんなクレームにも学ぶべき点があり、その本質を見抜くことによって、円満な解決や、それに伴う信用の回復もしくは信頼の構築が可能になることもあります。
 昨今、消費者意識や権利意識の高まりから、苦情社会になっていることは否めません。会社側もそれに合わせたサービス向上が求められます。そのような状況の中、いかに上手にクレームと向き合い、さらには会社側の意見を理解していただけるかが、同業種の中でも生き残っていく重要なファクターであり、本物のサービスを提供できる鍵だと考えています。今回は私の経験から、モンスターペアレントやクレーマーとのより良い関係の作り方をご提案させていただきます。
 
 

クレームの本質を見極める

 
 本来、クレームは会社で気付くことのできない製品やサービスの欠陥を指摘していただく 「意見」 です。中には不条理な要求が伴う悪質なクレームも多いので、つい 「モンスターペアレント」 や 「クレーマー」 と決めつけて処理してしまいがちです。しかし、この判断は絶対にタブーです。クレームの中には本当に自分たちが気付かなければならない重大な失敗が隠れている可能性があるからです。まずは真摯に受け止め、謙虚な気持ちで話を聞き、こちらに非があれば速やかに謝罪をすることが必要です。
 ある保育園では、お子様が怪我をしてしまったことに苦情を言いに来られた保護者から園長が逃げてしまったことから、保護者からは園長へ辞職の訴えが起こされ、周りの保育士からも、苦情に対応できない園長は信頼をなくし、離職者が数名出るという事例がありました。苦情処理に向き合わなければ必ず内外からの問題が生じますが、上手に解決すれば、今まで以上の信頼を得る可能性があるのです。この保育園の例では、問題を大きくしてしまったことと、苦情の中に怠慢な動きがあった保育士を発見する手がかりがあったにも関わらずそれを改善する機会を逃してしまったという失敗もありました。
 ところが、クレームに不条理な要求を伴うものや、金品などを請求するような話が含まれる場合は「いいがかり」の可能性が高くなります。たとえば、弊社の輸入子ども服店に 「初めて使用したのに傘が壊れてしまった」「初めて着たのにパンツがほつれてしまった」 というクレームを持ち込まれるお客様が時々いらっしゃいますが、いざ実物を手にするとかなりの使用感がある場合がほとんどです。そのようなお客様には必要以上に保障をしてしまうと 「いいがかり」 の希望通りになってしまい、終わりが見えません。ですから、毅然とした態度で対応し、話を聞きながらも相手が納得していただけるラインを探し、不当な要求には一切答えない姿勢を示す必要があります。
 その他、愉快犯タイプというクレーマーの方もいます。苦情を言って自身のストレスを発散することを目的にしています。ですから、落としどころや結論がないまま、こちらに時間ばかりかかる対応をさせる点が特徴です。このタイプに対しても、丁重でありながら毅然とした対応をとり、短時間で完結させることがコツです。時間つぶしに付き合っては、相手の思うつぼです。
 
 

クレームの裏にある心理状況

 
 弊社は 「ひとり親育児支援サービス」 に協力しています。あるとき、あるお客様からのご依頼を行政からいただきました。そのお客様は大手シッター会社2社と訴訟中ということをうかがい、弊社としては細心の注意を払い、シッターを手配いたしました。ただ、シッターだけでは心配だったので、初回は私が同行することにしました。待ち合わせの保育園に少し早く着くと、保育園から1人をおんぶ、1人を抱っこして大きな荷物を持って出てこられた依頼主を見つけました。その懸命に子育てをする姿に、なぜか私は涙が出てきました。きっと、訴訟は様々な理由が重なったことからのものだったと思います。私は、その方に本当に必要なのは、子どもを大切に預かってくれるシッターと、そして彼女の苦しみを理解する大人だと判断しました。そして、初対面でありながらも私の気持ちを伝え、全面的に協力させていただくことをお話ししました。最初はいぶかしげな表情のお母様でしたが、私の熱意が伝わったようで、以前のシッター会社を訴訟した経緯もお話しくださいました。若干、理由としては納得し難い面もありましたが、苦情を出すにはその方なりの理由があり、その理由に対して 「クレーマー」 と一方的に決めつけられたことや、マニュアル通りの不誠実な対応をされたことが一番許せなかったというお話でした。
 私は、日々の育児の大変さ、そして “ひとり親である” というお母様の不安を、もしも会社やシッターが理解していたならば分かりあえたはずだったと感じました。現にそのお母様は、弊社とは友好的にお付き合いいただき、今ではパートナーとして共に育児の幸せや辛さを分かち合っています。親が穏やかな気持ちになることにより、ゆとりのある育児ができます。それによりシッターも萎縮せず、柔軟にサービスが提供できるようになります。相互の理解や話し合いが大切だと痛感した事例です。
 
 

勝つは負け

 
 クレームによっては、「ここはお客様が矛盾している!」 と確信できる場面が必ずあります。しかしながら、図星を指摘することは絶対にしてはいけません。対等な口喧嘩ではなく、あくまで仕事上のトラブルですから、『勝つ』 ということは結果として 『負け』 に匹敵します。相手に悔しい思いを残させて自社の立場を守るよりも、気持ちよく花を持たせて差し上げる、さらに言えば矛盾に対しても逃げ道を作ってあげられるほど配慮の深い対応がベストです。特に育児に対しては正解がないだけに、親心を傷つけないようにすることが大切なのです。
 クレームの本質や解決方法の糸口に大差はありません。ですから、自分なりの柔軟さで、社員にも徹底指導し、「クレームだ!信頼獲得のチャンス」 くらいに構えられると素晴らしい会社ではないかと思います。
 
 
 
 
モンスターペアレントやクレーマーの問題には奥深い社会背景が潜んでいます。次回はその面を掘り下げて分析いたします。 
 
 
 
 
 Womenomics(ウーマノミクス)の経営論 ~子育て事業からの提言~
 第3回  モンスターペアレントやクレーマーと仲良くする方法

 執筆者プロフィール 

森島真弓 Mayumi Morishima

株式会社One & Only代表取締役

 経 歴 

大学在学中に派遣会社を起業し、順調に推移させた後、大学を卒業して広告代理店に就職。結婚、出産を経て退社し、フリーのコンサルタントとして活動した期間をはさんで渡米。アメリカで見つけた子供服に魅せられ、2003年に子供服輸入販売業として(株)MRK. INTERNTIONAL(現・One & Only)を起業。2008年からはベビーシッターサービスを新たに開始。経営者としての経験の豊富さに2児の子育てを通じて得た視点と発想を加え、ウーマノミクスの時代に即した事業を展開している。

 オフィシャルホームページ 

http://www.little-star.biz/

 
 
 
 

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