B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 
Jリーグ鹿島アントラーズのC.R.O、中田浩二さんに日々の仕事ぶりや鹿島アントラーズのクラブ経営手法について語っていただくシリーズ。今回は連載2回目です。
 
 

若手とのギャップ

 
glay-s1top.jpg
――この記事が公開される19日、中田さんはリオデジャネイロオリンピックの仕事で現地にいますよね。オリンピックに出場する各国のサッカー代表チームは、主に23歳以下の選手で構成されています(他に23歳以上の選手が3人まで参加可能)。若く見える中田さんも実は37歳ということで、若い選手と仕事をするときや、アントラーズの10代の選手らと接するときに、世代間のギャップを感じることもあるんじゃないですか。
 
それはあります。一言でいうと、軽い子が多い(笑)。僕らの若い頃は良くも悪くも上下関係があって、先輩と接するのって緊張したし、話しかけづらかったものです。今の若い子たちに、そういう感覚は薄れているのかなぁとは思います。だからといってみんな、決して性格が悪いわけではないんです。まぁ、時代の流れでしょうね。
 
――逆に考えると、中田さん自身が年をとったという言い方もできるかもしれないですね(笑)。
 
あ、それは思います。もしかしたら僕だって若い頃は、先輩方に「軽い奴だ」と思われていたのかも(笑)。年を重ねて様々な経験をしてきたことで、若い人たちがそのように見えるようになったのかもしれない。
 
――いずれにしても、若い選手に限らず選手とフロント双方の目線に立って橋渡しをするのも、C.R.Oとして求められている部分だと思います。
 
そうですね。選手の意見も吸い上げるし、逆にフロントから選手に伝えたいことも、僕を経由して言わせてもらうことがあります。
 
――引退して2年も経っていないですから、一緒にプレーした選手も多いはず。フロントからのお願いごとも、中田さんから伝えていけば素直に受け入れてもらえるんだろうなと思います。
 
確かにその辺りは割とスムーズです。ただこの先、世代交代が進むとどうなるんでしょうね。僕の現役時代を知らない選手にも、伝えることは伝えないとならない。そこは選手時代の経験が生きるんじゃないかなと思っています。
 
 

指定管理者となるメリットは大きい

 
――ではあらためて、前回に引き続きクラブ運営の話をうかがいます。クラブ創設20周年の2011年に掲げた経営ビジョン、「ビジョンKA41」に沿った事業運営が着々と進んでいるというお話でした。
 
重点項目として取り組んでいるのは、スタジアムの多様化、選手育成システムの強化、新しいパートナーシップの構築――の3つです。クラブの収入は主に、スポンサーからの広告収入、スタジアムの入場料収入、テレビ放映権料などを元手にJリーグから配分される分配金などがあります。それ以外で新たな収益の柱にしようとしているのが、重点項目の1つでもあるスタジアム運営に関わるものです。
 
――アントラーズは2006年にカシマサッカースタジアムの指定管理者の権利を取得しています。これは自治体の指定を受けて、公共施設、つまりスタジアムの管理運営を代行できる制度だとか。
 
そうです。自治体からの委託とは言え、自らスタジアムを運営すれば、借り物として使用するよりは事業の幅が広がります。カシマスタジアムは都市公園法に縛られないこともあり、会場内で直火が使えるというメリットがあります。そこで、指定管理者として各売店ブースにガスを引き、いつでも安全な形で火が使えるようにしました。そのため、会場内での直火の使用が禁止されている他のスタジアムでは味わえない、アツアツのグルメを提供できるわけです。その結果、いくつもの売店メニューがJリーグのスタジアムグルメグランプリで殿堂入りするまでになりました。指定管理者としてハード面を充実させたことが、ソフトの品質向上につながった一つの例です。
 
――おいしい食べ物があるのは、お客さんにとっても観戦に訪れる楽しみになりますね。
 
その通りだと思います。お客様のスタジアムでの観戦体験が向上すれば、必ずクラブの収益に良い形で跳ね返ってきます。また、指定管理者のメリットとして、マッチデーの売店使用料がクラブの収入になるようになりました。ただ、マッチデーは年間で20試合くらいしかない。1年は365日ですから、決して稼働率がよいとは言えません。試合日以外、主に平日でも収益を高める必要がある。平日のスタジアムにも人が集まれば、スタジアムを拠点に地域との関係性を深めていくことができます。
 
 

マッチデー以外にもスタジアムを有効活用

 
――平日も集客できれば、スタジアム周辺も賑わいそうです。
 
そのために、スタジアム内のコンコースをウォーキングゾーンにして、平日は無料で開放しています。他にも、スタジアム内でフィットネスクラブ、「カシマウェルネスプラザ」を運営しています。自社運営ですから、トレーニングマシンにスポンサーの器具を導入することもできますし、そういう連携を取れるという意味でも、自分たちで運営することにメリットがあります。僕も集客のためのPRも兼ねて、会員の皆さんと一緒に汗を流すこともありますよ。
 
――他にも様々な施設があるそうですね。
 
クラブの歴史などを見学できる「アントラーズミュージアム」や、スキンケアを施す「アントラーズスキンケア」、整形外科医療とリハビリテーションを受けられる「アントラーズスポーツクリニック」などがあります。一番新しいのがスポーツクリニックで、2015年の8月からスタートしました。
 
――医療分野にも事業の幅を広げているんですか。
 
地域貢献を目指す事業の一環です。スポーツクリニックで診療を担当するのは、アントラーズのチームドクターたち。スポーツに取り組む方々が怪我をした際には、プロ選手と同等の治療とリハビリが受けられます。また、この周辺は医療過疎の地域でもありますから、ご高齢者の皆さんの筋力増進など、健康で元気に生活できるようなサポートもしています。ただ、このクリニックの運営はイービストレードという我々のスポンサーが担っています。アントラーズの関わりとしては、クリニックの誘致、チームドクターおよびメディアカルメソッドの提供、そして施設ネーミング権の提供ということになります。
 
――スタジアムの指定管理者として様々な事業を取り入れ、付加価値を高めていることがわかりました。次回はマッチデー以外で、どのようにピッチの稼働率を高めようとしているかについて、うかがいます。
 
 
中田浩二が語る、常勝軍団の育て方
vol.2 スタジアムの付加価値を高めて地域に活力を
(取材:2016年7月)

 著者プロフィール  

中田 浩二 Nakata Koji

株式会社鹿島アントラーズFC C.R.O

 経 歴  

1979年7月生まれ。滋賀県大津市出身。1998年、帝京高校から鹿島アントラーズに加入。数々のタイトル獲得に貢献した。2005年にフランスのマルセイユに移籍。2006年からはスイスのバーゼルで活躍し、2008年に鹿島に復帰する。2014年に現役を引退。日本代表では1999年の FIFAワールドユース選手権で準優勝、黄金世代の1人として注目を浴びる。2000年シドニーオリンピックU23代表、2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップでも代表選手として大会に臨んだ。J1リーグ通算 266試合33得点、国際Aマッチ57試合2得点。現在は鹿島のC.R.Oとして多方面で活躍している。著書に『中田浩二の「個の力」を賢く見抜く観戦術―サッカーが11倍楽しくなる!』(ワニブックスPLUS新書)がある。

 鹿島アントラーズオフィシャルサイト 

http://www.so-net.ne.jp/antlers/

 ツイッター 

https://twitter.com/nakata_cro?lang=ja

 
 
(2016.8.18)
 
 
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事