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就職指導に血液型診断?

 
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タカス / PIXTA
20年以上前になるだろうか、韓国では、たしか大学の就職課が学生に「君はA型だからこの企業がいい」「君はB型だからこの企業は合わない」というふうに血液型で就職指導をしているというテレビ報道を見て、そんな馬鹿な、と思ったのを覚えている。いわゆる血液型診断ははたして“診断”か、それとも“占い”か。日本でも「体をめぐるものなのだから、そりゃあ、性格や考え方にも多少の影響はあるさ」ぐらいの曖昧な感じで肯定されている血液型診断だが、それを就職に結びつけるのはいくらなんでも、と思ったのだ。
 
しかし、就職指導に何らかの方法論を持とうとする発想そのものは馬鹿にすべきでない。地方の“金の卵”を一括大量採用して仕事についてこられる者だけ育てた時代が日本にもあったことを考えれば、あらかじめ志望者をタイプに分けて特性に合いそうな職場を勧める姿勢は誠実ですらある。
 
そしていま、日本の中小企業においても、人材採用に志望者のタイプ分析を導入する動きが広まっているという。背景にあるのは人手不足。『日経トップリーダー』2017年8月号では、賃貸仲介などを手がける不動産会社が新卒採用の選考過程にアメリカ発のタイプ分析手法である「エマジェネティックス」を使い、内定辞退者を激減させた例が紹介されている(内定承諾率が40%→91%)。この企業では採用後の育成でもエマジェネティックスで似たタイプの先輩をメンターにつけることで新人の離職率を抑えている。以前にこのB-plus誌で連載を持った小山昇氏の株式会社武蔵野も、同じくエマジェネティックスを導入してチームの生産性を上げている。
 
 

“成長”=共同幻想なき時代の共同幻想

 
各社で新人教育が始まる4月は「こいつは有望だぞ!」とか「彼は失敗だったかな」とか、「なんだこの会社!」とか「ここに来て良かった」などと、双方の評価と思惑が入り乱れる難しい時期だ。この時期に会社が組織として定見を持って教育にあたるかどうかはその後の人材の成長を大きく左右する。また、彼ら彼女らによって担われる社業の未来も然り。
 
であるならば、一種の共同幻想が双方で共有されたほうがいい。
 
かつて「高度経済成長」「所得倍増計画」が社会全体の共同幻想だった頃は社内でもそれをモデルにできたが、もう難しい。代わりに現れたのが企業ごとの企業理念だが、これは共感を得られるかどうかが相手(人材)の資質に左右される(外部依存性がある)点で、共同幻想にするには本来不向きなものだ。
 
それよりむしろ、“成長”それ自体を互いの共同幻想にしてはどうかというのが本稿の趣旨である。
 
確立された個人幻想をもとにそれとマッチングする理念を掲げた企業を求めるエリート層はこの際措こう。いずれにしろそのボリュームは少ないはずだ。むしろ現代の労使のミスマッチは誰もが確立した個人幻想の持ち主であるという刷り込みに起因している疑いもある。
 
企業が自社の理念への共感(とそのもとでの成長)を求めるのも、人材が共感を求められることへの反作用的心理から伸び悩み時にドロップアウトしてしまうのも、無理筋を通そうとする弊は同じ――。このことを双方から理解できれば、あまりに普通で漠然とした“成長”こそ、共同幻想なき時代の共同幻想になりうるのではないか。
 
 

共通言語を豊かに

 
ただし、普通で漠然としているからこそ、それをめぐる共通言語は豊かでなければならない。共通言語が豊かであるとは、双方が自分にとって“成長”とは何かについて意識的に理解し、双方から言語化できることである。しかも、相手都合からの“成長”も尊重しつつだ。さらにしかも、“成長”の定義が自分の側でも相手の側でも変化する――そこでなら企業理念が共同幻想に変わることは大いにある――可能性まで互いに視野に入れつつだ。
 
一見してわかるように、これは実はかなり高度な言語化(概念化)の能力を伴う作業である。キャリアカウンセリングやメンター理論、タイプ分析などの方法論も、コーチングなどの能力開発ツールも、究極的にはこの作業を助けるためのものに他ならないというのが筆者の位置づけだ。
 
例えば社内で「社会全体の共同幻想があった世代」と「もはやなかった世代」が互いに無理解をつのらせているとして、もし“成長”をめぐる共通言語が豊かであれば、互いに成長観の違いを見出しこそすれ、最終的に反目し合う結果にはならないだろう。また、これから増えることが確実視されるシニア人材の活用においても、「もはやなかった世代」の、例えば経営者や幹部職クラスが、「あった世代」のシニア人材を使って同じ職場で働くことを考えれば、“成長”をめぐる共通言語はいくら豊かであってもあり過ぎるということはない。
 
 

ハイレベルな知見と身近な知見

 
そしてこれらの観点からは、例えばタイプ分析であれば、エマジェネティックスや同じくアメリカ発の「ストレングスファインダー」、またコーチ・エィ社の「タイプ分け」のような静的かつ操作的診断によるものよりも、「エニアグラム」や「ウェルスダイナミクス」のように、レベルの発展という垂直的・動的な概念が組み込まれているもののほうが、“成長”という共同幻想をめぐる共通言語にはなりやすいと思われる。以前にエニアグラムを勉強した経験からもそう考える。
 
また、共通言語を持つうえでは、人材採用や人材育成をめぐる最新のハイレベルな研究について労使双方が理解を深めることも有効だろう。例えばリクルートワークス研究所のWebサイトにはそれらの知見が大量に、オープンで閲覧できるようになっている。2015年度研究プロジェクト「採用を変える、採用で変える」を読み込むだけでも、就職して働くということを/雇用して競争優位を獲得していくことを“成長”の共同幻想に照らして双方が言語化する助けになるはずだ。
 
厚生労働省の『多様な人材活用で輝く企業応援サイト』も、ネーミングはさておき事例紹介のページは大いに参考になるはずだ。働く人の“成長”を聞き取りのライフヒストリー形式でまとめているので、「こういうときにこういう転機があるのか」「こういう遇し方もできるんだな」というふうに主体的に読んで納得できる。中小企業は戦略人材と業務人材を募集段階からそうそう分けるわけにもいかないことを考えると、こちらは身近という意味でも役立つだろう。
 
共同幻想なき時代の共同幻想はどう花開かせられるのか。仕込みの季節はいまだ。

 
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2018.4.4)
 
 

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