実業団に入るという目標に向けて10代の長﨑さんは、高い意識でソフトボールに向き合ってきた。当時の練習法をうかがってみると、自分の成長のために自分自身でよく考えてトレーニングに励んでいたことがわかり、驚かされる。

自分で考えて決断し、行動する

中学校の頃は実業団に入ることを目指していたから、どうすればチーム関係者の目に触れられるかと考えたうえで、進学する際の高校も自分で調べて自分で決めました。もちろん、私が目標を達成できたのは、指導してくれたり、支えてくれたりしてくださった方々のおかげ。それでも、最終的に自分の進むべき道を決断するのは、自分です。やりたいことがあったら、それができるようになるために自分で考えて行動するスタンスは当時から変わっていないですね。 中高生の頃も、毎日の練習は自分でノートを取りながらメニューを決めていました。例えば、スイング練習を1日300回するなら、ただ300回バットを振るんじゃなくて、どういう種類のスイングを何回するのかなど、細かい部分まで突き詰めて、練習が終わった後は今日はどこがよくできた、どこがダメだったか――と振り返る。それは現役を引退するまで、変わらずに続けていました。 目標とする実業団入りを果たしてからは、ルーキーイヤーから大活躍。しかし、思わぬ不調に苦しんだこともあったという。

過去に頑張っていたから今が輝く

1年目は自分でもびっくりするくらい好成績で終えられたんです。でも2年目はとても苦しみました。そもそも入団当初は1年目からレギュラーで出られるとも思ってなかったんです。まだ18歳だったから、体力的には高校レベルで体ができあがってなかったし、まずは1年かけてチームの雰囲気などに慣れればいいと思っていた。でも、思いのほか良い成績を残せたせいか、「高卒のルーキーが調子に乗ってる」と妬まれてしまうこともあって、そういう周囲の雰囲気につぶされてしまいそうになったんです。「こんなに苦しい思いをするなら成績が悪いほうがよかったなぁ」と考えることもあったくらいで。だから2年目のシーズン中はずっと辛くて、練習も身が入らない感じでした。 切り替えができたのは、シーズンも終盤になってから。なぜかふと、自分を客観的に見られる瞬間があって、「私、ちょっとダサいなみたいな」と思えたんです（笑）。自分を一歩引いた所から見てみたら、実業団に入れたのは自分の力だけで実現できたことじゃないと気付けた。技術を教えてくれた方や、プレーを続けるため支援をしてくれるたくさんの方々、自分のために労力を割いてくれた方々の時間まで無駄にしてしまっているように感じました。それで「このままじゃダメだ！」と自然と気持ちが前向きになったんですよ。 現役を引退してから、ソフトボール教室などに参加すると子どもたちから、「夢を叶えるためにはどうしたらいいですか」という質問を受けます。でも、全員がその夢を叶えられるわけではないんですよね。だから私は、「夢を叶えることも大切だけど、叶えるまでに出会った人や、一生懸命取り組んできたことを大切にすることが大事だよ」って伝えています。私自身もそれに気付けたから、悔いなく現役を過ごせたと思いますし。 今を楽しく生きることは当然、すごく大事です。でも、今を楽しく生きることができているのは、去年頑張っていた自分がいるから。なので、今を楽しく生きるためには、常に先のことをイメージして考えておくことも大事だと思います。先のことを考えるからこそ、今やるべきことを今やらなきゃいけないし、そこに全力で取り組むから今を楽しめるんだと思います。そして、その積み重ねが自分の未来を輝かせてくれるんです。 （取材：2024年3月）