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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

日本の成長戦略に寄与する
物流企業のイノベーション

 
 
「拡大してきた宅急便ネットワークを有機的に連動させることで、スピードと付加価値を持った物流をリーズナブルに、かつクラウドのようにご利用いただける」 と構想の実現に自信を持つ木川氏。構想の発表にあたっては、「ヤマトグループが企業物流に本格参入」 という報道も一部あったようだが、その点はどう捉えているのだろうか。
 
 

コアコンピタンスを利用した社会貢献

 
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 本格参入というのは少し誤解があるかもしれません。そもそも、宅急便には企業発個人宛であるB to Cや企業間のB to Bの荷物もありますから、当社はこれまでも企業物流を担ってきているわけです。「バリュー・ネットワーキング」 構想の目的は、あくまでもお客様に 「物流の改革」 を提供すること。つまり、これまでのto Cに加えてB toの企業間物流の領域でも小口配送の仕組みを高度化させるのです。だから、大口貨物を輸送したり大量の荷物を担う物流業務をアウトソーシングで請け負ったりできる物流企業と覇権を争おうと考えているわけではありません。当社の強みは小口貨物の配送なので、そのカテゴリーでスピードアップ、品質向上、コスト削減を実現するサービスにしていくのです。
 そして、宅急便サービスをさらに進化させていく中で、より地域に密着した活動を展開していきます。その例として、宅急便の配送網を利用した地域活性化があります。とりわけ、高齢化が進んで過疎化が進む地方でお役立ちできる可能性が高い。たとえば、行政サービスとして民生委員の方々が独居老人のお宅を回ったりしますよね。安否確認や困りごとがあればお手伝いをする。でも、過疎地ではその担い手が少なくなっています。勤めている方がいても対価を充分に支払えるほどの余裕が自治体にはなかなかない。結果としてサービス品質が落ちてしまう。
 当社の配送網を使えば過疎地で働くセールスドライバーが荷物を届けた先で、お客様の健康状態を確認することができます。頼まれごとを聞くこともできるでしょう。つまり、本業を全うしながら行政サービスを代行できるのです。こうした展開をすることで、社会的問題である高齢化などへの対応をし、企業として社会貢献を果たせる。宅急便の料金をいただければ、届け先でのちょっとした配慮やお手伝いに関しては多大なコストはかからないので、利益追求は考えていません。自分たちの本業である配送網を使って世の中のお役に立てることにこそ、意味があると思っています。
 
 
 
同社の社訓には 「ヤマトは我なり」 という言葉がある。「 『全員経営』 の精神を表している」 と木川氏は語る。日頃現場で汗を流しているスタッフたちには、当然ながら苦労も多いはず。そのいっぽうで、辛さを吹き飛ばすくらいの感動も現場仕事を通じて起こるもの。同社では、そうした感動体験を共有できるよう動画を作成し、社内研修などで活用しているそうだ。
 
 

不変の企業風土が新たな価値を創造する

 
 作成した動画は海外のスタッフ研修でも使われています。彼らも同じように感動し、涙を流してくれます。「ヤマトは我なり」 という言葉を体現した社員たちのエピソードを目にすることで、自分の果たすべき役割について理解してくれるのです。
 東日本大震災の直後、現地の社員やセールスドライバーたちは率先して被災地支援のために活動してくれました。そんな自発的に現地で頑張ってくれている社員たちがいる中で、経営陣は何が行動で示せるのかを考えました。特に、経営トップが会社の理念を行動で示す機会というのは、そうそう巡ってくるものではありません。したがって、その時が来たら瞬時に決断し行動しなくてはならない。私にとってそのタイミングは、あの東日本大震災の直後にやってきたのです。
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 そして決断したのが、「宅急便1個につき、10円の寄付」 という活動でした。その結果、社内のモチベーションはさらに上がりました。セールスドライバーたちは 「宅急便の取り扱い数が増えれば、寄付できるお金も増える」 と張り切って仕事をしてくれたのです。私はとても感動しました。なぜなら、年間純利益の4割近い金額を寄付するという途方もない決断は、避けようもなく会社に負担をかけることになるからです。株主様に対してもそうです。ですが、みんながこの提案を快諾してくれた。株主様の中には 「いかにもヤマトらしい活動だ」 とご評価くださる方もいました。その時私は、普通ではできないようなことを、当たり前のこととしてできる風土を持つ企業、「ヤマトは我なり」 と全てを自分のこととして感じ、動ける人材が集まっている企業、それこそがヤマトのDNAなのだと実感しました。
 経営とは、取捨選択の歴史です。時宜に応じて捨てるものと拾うものを考えながら、将来の企業としてのあり方を創造していく。そして経営陣がしっかりと方向性を示し、舵取りをするのが企業のあるべき姿。目先の利益を重視するのではなく、企業が永続的に社会的使命を果たしながら成長する術を考え続ける。どうしようもなく追い込まれた状況で行うイノベーションではなく、先んじてイノベーションを起こすための発想を常に持ち続ける。それこそが、お客様に役立つための新たな価値を創造する、ヤマトグループの進むべき道なのです。
 
 
 
 
(インタビュー・文 佐藤学 / 写真 Nori)
 
 
  会社概要  
ヤマトホールディングス株式会社
  所在地  
東京都中央区銀座2-16-10
  オフィシャルサイト  

 
(この情報は2013年12月1日現在のものです)
 
 
 

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