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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

“魅せる格闘技”の申し子が語る
おのれを体現していくための哲学

 
 

地味な「勝利」は欲しくない?

 
負けてもOKとは、一格闘家としていかがなものか、と編集部は意地の悪い質問をしてみる。だが、このインタビューの流れも、すでに “名手・サク” の術中にあるようで、桜庭選手は我々の質問を軽くいなすように答えた。
 
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「もちろん勝つことが大事です。それは格闘家として当たり前の話ですよ(笑)。 でもね、勝つことだけを目的として試合をするのであれば、お客さんがいない趣味レベルのところでやればいいじゃないですか。お客さんが格闘技の試合に何を求めているか、その本質は選手の気持ちなんだと思うんです。つまり、闘志をむき出しにした激しい技の応酬を見たがっている。『勝ちたい』 というハングリーな気持ちの表現にお金を払って、会場まで足を運んでくれているんだと思うんです。単純明快なんですよ。あまり動きがなくて、にらみ合いとかけん制だけがちょくちょく続いた判定の試合より、ハッキリとKOで白黒ついた試合のほうが面白いと思います」

格闘技の世界では、動きのない試合のことを 「塩漬け」 と評することがある。桜庭選手は試合が 「塩漬け」 になるのをことのほか嫌う。つまり、盛り上げるだけ盛り上げる演出をしたところで、動きがない=内容そのものがつまらない試合になってしまっては意味がないというのだ。だからこそ、リングに上がる選手は全身全霊を傾けて、勝ちたい気持ちを表現しなくてはいけない。技の見栄えで観客を沸かしつつ、あくまでも技そのものは、選手が闘志をむき出しにして勝利をつかむためのものでなくてはならないのだ。

「たとえばフェイントひとつとっても、大げさな動きをするのは相手をひっかけるためですよね。勝ちを狙いに行っているんです。それが見ているお客さんにとっても興味深い動きになって試合に引き込まれる。技を一つ繰り出したら二つの効果が出るというのが、一番いいことなんですよ」
 
 

「天才」は練習の中で培われた

 
桜庭選手は “天才タイプ” と言われ続けてきた。変則的な動きや技、仕掛け。そのどれもが、相手だけでなく観客の意表をつくものばかりだったからだ。だが、意外なことに、その場の直感や思いつきで技を編み出すことはほとんどないという。相手との動きの読み合いの中でどの技を仕掛けるかという選択は瞬間の閃きだとしても、繰り出す技の一つ一つは、すべて日頃の反復練習の中で体に染み込ませたものだと。

「練習は嘘をつきませんよ」

リング上でスポットライトを浴びる桜庭選手しか知らなかった取材陣は、ハッと思い当たった。経営者もビジネスマンも、面会や打ち合わせなど様々なシチュエーションで、ごまかしの利かない要素というものが必ずある。経験の幅、人物・見識、胆の据わり具合、教養・・・ それらは、日々の取り組みを通じてしか、身に付かないものなのだ。
 
 

不利な状況で言い逃れをしない

 
しかし、どれだけ練習をしても不利な状況というものは必ずある。格闘技でいえば体重差がその代表だろう。ことに、桜庭選手が出場する総合格闘技の場合、体重が10キロ違えばそれだけで決定的に不利になる。
たとえば2001年3月25日にさいたまスーパーアリーナで行われた 『PRIDE 13』 でのヴァンダレイ・シウバ戦だ。シウバ選手と桜庭選手はこの試合を皮切りに因縁の対決へと導かれていくのだが、初戦となったこの試合では、実に15キロ近い体重差があった。桜庭選手の階級はミドル級。ミドル級では、相手よりたった3キロ体重が軽ければ致命的なハンデを負う。相手が覆いかぶさってきたときにブリッジで返しきれないからだ。それがその5倍近い体重差だったのだから、とてつもなく不利な条件で戦わざるを得なかった。
さらにこの試合では、インフルエンザに侵された体で、解熱剤を打っての強行出場だった。だが、これらの不安要素を、桜庭自身は不利だとは思っていなかった。いや、有利不利を考えることを禁じていた。


「体重差に不安があるくらいなら対戦を取り消すか、受けなければいいですよ。体重差はわかったうえで試合を受けたわけですから、それは言い訳にはしないと決めていました」
 
 

劣勢下で結果を出すということ

 
シウバ戦の初戦は敗北を喫してしまったが、そのほかにも、こうした体重差などによる不利は常にささやかれ続けてきた。だが、桜庭選手の試合を全体的に見ると、不利や劣勢を跳ね返して勝利をもぎとった試合が多いことに気付く。仮に負けたとしても、敵に背中を見せるような負け方は一度もしなかった。不利な対戦や劣勢の中で結果を出していく。なぜ桜庭はそれができるのだろうか?
 
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「ぼくは負けず嫌いなんです。たとえ前の試合で勝ったとしても、いいのを(いい技を) 入れられていたらどうしても腹が立つ。『次は絶対に同じやられ方をしないように』 と意識しながら練習していますね」
「自分の試合は1~2回は見ますけど、それ以上は見ない。試合をしながら自分で感じていたことと、客観的に見た姿がどうなのか、チェックする程度の見方ですよ。だいたいは試合中に自分が感じていたことと同じです」
「前と同じ手は食わないように、自分のペースと闘い方に持ち込んで、自信を持って技が出せるようにする。そのために練習を繰り返す。それを継続しているだけです」
 
 
 
 

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