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ビジネス 川上徹也の「売り場に熱を!」 vol.5  問題解決を売る 川上徹也の「売り場に熱を!」  コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

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もしあなたが自分の商品やサービスをもっと売りたいのならば、まず売り場に“熱”を産み出すことから始めましょう。“熱”がない売り場には、お客さんは寄りつきません。
 
 
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広島県庄原市のウィー東城店(写真提供:高原康秀)
こんにちは。コピーライターの川上徹也です。連載の5回目。今回の売り場に“熱”をおこす方法は「問題解決を売る」というものです。この手法は、多くの店にとって非常に重要な商売のヒントになるでしょう。
 
現在の日本には、いろいろなことで困っている方が大勢います。これからますます増えていくでしょう。例えば、高齡者。すごい勢いで超高齢化社会に突入している日本においては、あらゆる場所で様々な問題を抱えている高齢者が数多くいます。交通が不便な場所に住んでいる場合はなおさらです。
 
また子育て世代も同様です。結婚しても親と同居することも少なくなり、夫婦共働きが一般的になった今、子育てや家事で困っている家庭も数多くあります。他にも、深刻な状況ではなくても、少し何か手伝ってもらいたいという人はあらゆる場所にたくさんいるでしょう。
 
そんな人たちが抱えている個々の問題を解決してくれる店は、地域の人にとってなくてはならない存在になります。そうなると、売り込まなくても自然と人が集まる店になるのです。
 
 

トンデ来てくれる家電販売店

 
東京都町田市にある「でんかのヤマグチ」は、いわゆる街の電器店ですが、その枠を大きくはみだして、地域に住む人々の様々な問題を解決してくれる店として広く知られています。
 
店がある場所は町田駅から車で10分以上かかる場所。町田市の道路拡張事業のため、2015年9月に37年続いた店を一旦閉め、同11月から新店舗で営業していますが、駅から遠いことに変わりはありません。
 
そもそも町田は、駅前に大手大型家電量販店が立ち並ぶ大激戦地区です。量販店に比べるとヤマグチの値段はかなり高い。もちろん置いている商品の種類もはるかに少ない。このように普通で考えれば大型家電量販店に勝てる要素は少ないのに、でんかのヤマグチは、なぜか繁盛しています。その理由は、何でしょう? それはヤマグチの裏サービスに秘密があります。
 
「電球1個の交換でもすぐにトンデ行く」
「冷蔵庫が壊れたら氷を入れたクーラボックスを持ってすぐに修理にいく」
「テレビの録画予約等、操作がわからなかったらすぐに設定しにいく」
 
など、家電にまつわるサービスはもとより、それ以外の困ったことであっても、可能な限り対応してくれます。例えば、
 
「部屋を模様替えしたいけど、ひとりでは家具を動かせないから手伝ってほしい」
「旅行に行っている間、毎日来て花の水やりをしてほしい」
「怪我で買い物に行けないから食料を買ってきてほしい」
 
などといった、家電と関係ないサービスも喜んでやってくれるのです。しかも無料。
 
このように何かで困っている人たち、特に近くに身寄りがいない高齡者にとって、でんかのヤマグチは、救世主のような存在です。家電商品を買う時には、多少値段が高くても、お礼の気持ちもこめて、でんかのヤマグチで買うのです。
 
さらに店頭では、両替OK、駐車場やトイレの開放、店内コーヒーサービス、雨の日の傘貸し、などのサービスも実施して、地域の人たちに喜ばれています。
 
 

地方でおこる問題を全て解決する書店

  広島県庄原市東城町にある書店・ウィー東城店は、まさに「問題解決を売る店」です。私はこの店を「奇跡の書店」と呼んでいます。
 
店がある場所は、広島県の北東部で中国縦貫高速道路沿いの山間部です。インターチェンジからは近いですが、公共交通機関はない不便な場所です。またご多分に洩れず、人口の多くを高齡者が占める過疎地域でもあります。ただでさえ、地方で営業する書店は苦しいところが多いのに、ウィー東城店はとても繁盛しています。確かに書店でもありながらいろいろな商品が売られていますし、美容室やカフェが併設されている複合店ではあります。でも、それが一番の理由ではありません。この店が繁盛している最大の理由は、地元住民が困っている問題を解決してくれる店だからです。
 
例えば、ラジカセなどの電化製品が壊れたので何とかしてくれないか、という悩みが高齡者から持ち込まれます。電器屋に持ち込んでも、ラジカセの修理は無理だと断られたので持ち込んできたのです。店長の佐藤友則さんにも、修理する技術があるわけではありません。しかし、何とかできないか調べてみます。メーカーのサイトを見ると、修理センターに郵送するとまだ修理してくれることがわかりました。すると佐藤さんは、そのラジカセを梱包し、伝票に送り先の住所も書いて、あとは依頼者が自分の住所だけを書けばいい状態までしてあげるのです。
 
他にも、「手書きの文章をパソコンに入力してほしい」「同窓会の名簿をつくってほしい」「イベントで使う横断幕をつくってほしい」「引き籠もりの子どもをバイトで使ってもらえないか」などいろいろな相談が持ち込まれます。佐藤さんは、それに対して無下にできないと断らず、できる限り要望に応えることができるように一緒に考えます。
 
当初は、実費以外は全て無料で請け負っていましたが、お礼にと高級な肉や野菜が送られてくるので、現在は実費+500円という料金にしています。
 
現在、ウィー東城店で大きな収入源になっている年賀状の宛て名書き代行印刷も、元は「手が震えて年賀状の宛て名が書けない」という高齢者の悩みを解決してあげることから始まったサービスです。最初は佐藤さんが手書きで対応していましたが、依頼が殺到したので、高性能の印刷複合機を購入して対応しています。
 
このようにウィー東城店は、一書店であることを越えて地元住民にとってなくてはならない存在になっているのです。
 
皆さんの地域にも、きっと何かしらの問題を抱えて困っている住民がたくさんいるはずです。その人たちに、あなたの店なりの方法で、その問題を解決してあげることができれば、きっと自然にお客さんは集まってくるでしょう。
 
 
 
川上徹也の「売り場に熱を!」
vol.5 問題解決を売る

 著者プロフィール  

川上 徹也 Tetsuya Kawakami

コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

 経 歴  

大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。
「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という独自の手法で「企業」「地域」「大学」などが本来持っている価値を見える化し輝く方法を、個別のアドバイスや講演・執筆などを通じて提供している。
著書『物を売るバカ』『1行バカ売れ』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)など多数。 最新刊『あなたの弱みを売りなさい』(ディスカヴァー21)が好評発売中。

 オフィシャルホームページ 

http://kawatetu.info/

 
(2016.3.30)
 
 

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