B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 

語学力向上は、ビジネス成功の最重要課題なのか?

 
 近年の急激な国際化に伴い、日本でも語学力の向上――特に英会話力の重要性がクローズアップされています。バブル期には “日の沈まぬ国” とまで称された日本経済と日本企業も、国際市場では、残念ながら海外の企業に遅れを取っているケースが見られます。この凋落には様々な理由が考えられますが、その一つとして、語学力の問題が上げられています。
 世界で一番使用されている言語は中国語ですが、その使用されている範囲や共通性を考えると、国際的な公用語は間違いなく英語でしょう。また、近年インターネットは我々の世界では切っても切れないツールになっていますが、あるリサーチ会社が行った調査の結果、インターネット上で最も使用されている言語も、ダントツで英語という結果が出ました。 
 オーストラリアは多くの国から集まってきた移民で成り立っている国です。日本人である私も含め、移民たちは各々の文化や言語を持っていますが、公の場での公用語は、やはり英語を使用しています。
 
 では、国際公用語でもある英語を学び向上させることが、ビジネス成功への必要不可欠の要素か。言葉は、自分の意思を伝えたり、相手の意図を理解するためのコミュニケーションツールです。これは交渉事などが発生するビジネスの世界では必須のものです。よって問いへの答えは 「イエス」 ですが、現在日本社会で用いられている、盲目的にTOEICなどの英語検定で点数を取る語学力の訓練には、クエスチョンマークがついてしまいます。
 極論になりますが、英語に限らず語学は、その言語が使用されている国に生まれれば自ずとネイティブスピーカーになれます。純粋な英語力といわれれば、20年近くオーストラリアに住んでいる私よりも、オーストラリアに生まれた10歳の子供のほうが優れていると言わざるを得ません。
 
 では純粋な英語力が優れている子供がビジネスの商談ができるかと問われれば、こちらの答えは 「ノー」 です。海外でのビジネス成功には語学力が必要不可欠と一概に言われていますが、そもそも語学力とはいかなるものなのでしょうか。
 
 

語学力とは一体何ぞや?

 
 「語学力がある」 とは、お互い理解しあえる言語で、意思疎通などのコミュニケーションを図れることですが、ただ話せれば良いというものではありません。先ほどから述べているとおり、言葉が話せればビジネスが成功するのであれば、誰でも優秀なビジネスマンになれます。相手を説得又は納得させる知識と、話術、それにユーモアも含めたトータル的なものが、私の考える語学力です。
 
 国際社会に乗り遅れてはなるまじと、日本でも入学試験はもちろん、入社試験や昇給などの際に、TOEIC等の英語検定試験で一定以上の点数を取ることを義務付けようとする動きがあるようです。しかし、TOEICで英語を勉強して高得点を出すのはもちろん素晴らしいことではありますが、これだけでは、海外でビジネスを成功させるには不十分です。
 一言で英語と言っても、地域や国によっては同じ言語とは思えないくらい、言い回しや発音に違いが出ます。私たち日本人が日本で教育を受けている英語は、いわゆる米語であって、英語の発祥地であるイギリスで話されているクイーンイングリッシュとは、同じ英語であっても、表現や単語が異なります。
 たとえば、米語で建物の1階を指す場合には、日本と同様に1階表記ですが、オーストラリアを含むイギリス圏ではグランドフロアー表記になり、2階が1階表記になります。
 またエレベーターも、イギリス圏ではリフトと名前が変わります。その他にも、もう日本でもごく一般的に使われている、食べ物を持ち帰る意味の 「テイク・アウト」 は、オーストラリアでは別の意味になりますので注意が必要です。ちなみにオーストラリアの飲食店で食べ物を持ち帰る時には、「テイク・アウェイ」 という言い方になります。昔 『マッド・マックス』 というオーストラリアの映画が大ヒットしましたが、当時のオーストラリア英語(オージー・イングリッシュ) は訛りがひどく、アメリカで上映した際には、英語の映画にも関わらず、英語の字幕がついた逸話が残っているほどです。
 同じ西洋文化の国で、英語が母国語の国であったとしても、ここまで異なります。これが、英語が母国語ではない国などになれば、同じ英語とは思えないくらいの違いが出てきます。インド、シンガポール、香港などは、もともとはイギリスの植民地でしたので、彼らが話す母国語の他にも、英語が公用語として日常的に使われていますが、独自のアクの強いアクセントがあり、慣れるまでは彼らが何語を話しているかわからない。そんなこともままあります。
 
 

インドでの洗礼

 
 以前に知遇を得た方から、こんなエピソードを聞かせていただきました。その方は某企業のサラリーマンで、オーストラリアだけではなく世界各国に駐在員として滞在した経験をお持ちでした。オーストラリアはちょうど3ヶ国目の国で、この国の英語はオージーイングリッシュと言われているが、思いの他訛りもきつくなく、文化圏に赴任できて助かったとおっしゃっていました。
 この方は、以前は経済発展が目覚しいインドに駐在していたそうです。インド人はオーストラリア人以上にアクセントに特徴があり、性格の押しの強さにも四苦八苦されたようです。そんな中、別の人間が、日本本国から追加の駐在員として彼の元に派遣されてきました。その人は日本でも超一流大学を卒業し、頭脳も明晰で、会社からも幹部候補生として期待された人材でした。彼は会社からの期待に応えるべく、赴任前に英語を猛特訓し、最終的にはTOEICで900点オーバーの点数を叩き出すまでになっていました。
 そんな優秀な人材でしたが、結論から言えば、意気揚々とインドに乗り込んできたものの、任期期間を待たずに、半ノイローゼの状態で日本に帰国する羽目になってしまったのです。
 その大きな理由は、コミュニケーション不足からくるストレスでした。「TOEICで満点近い点数を出したから、英語に関しては問題ない」――この考えは赴任初日で吹き飛んでしまいました。まず、彼らの話していることが理解できない。続いて自分の話している英語も相手に理解してもらえない。自信があっただけに、得意分野が通用せず、そのショックはかなり大きかったようです。
 
 ひとくくりに英語とまとめても、これだけ異なります。また世界共通の公用語だとは言え、ヨーロッパ各国では、驚くほど英語が通じません。「英語が通じない国では、何もできません」 では、ビジネスにはなりません。相手のせいにしていては何も始まらない。それがビジネスだからです。
 
 
 長らく続けてきた連載も、いよいよ次回が最終回です。ではどうなれば、語学力向上とビジネス成功につながるのか。詰まるところ、海外でビジネスをするうえでのキモは何でしょうか。次回、そのお話で締めくくりたいと思います。
 
 
 
 
  南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
vol.26 語学力とビジネスの本当の話(前編)

 執筆者プロフィール  

永井政光 Masamitsu Nagai

NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント

 経 歴 

高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。

 オフィシャルホームページ  

http://www.nmaust.com/

 ブログ  

http://ameblo.jp/nm-australia/

 
 
 
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事