B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

コロナ禍を機に拡大

glay-s1top.jpg
 
カプセルトイ(ガチャガチャ、ガシャポン)が人気です。バンダイの特設サイト「ガシャポン45周年プロジェクト」を見ると、現在は第5次ブームの真っ最中のようで、ショッピングモールやアミューズメント施設にガチャガチャが並んでいます。
 
中には店内のテナントを丸々使った例もあります。例えば、福岡市に本社があるルルアーク社運営のガチャガチャ専門店「ガチャガチャの森」は、2018年頃からイオンモール系を中心に出店を増やし、2020年以降はまさにオープンラッシュ。公式サイトの新着情報ページには、「新規オープン!」の字がダーッと並びます。他、北海道帯広市に本社を置くトーシン社が運営する「C-pla(シープラ)」も、首都圏で攻勢を強めています。
 
玩具業界紙『トイジャーナル』によれば、カプセル玩具の市場規模は2000年以降、250億~330億円のレンジで推移していました。それが2019年に400億円台に乗り、2022年の売上額は前年比35.6%増の610億円(一般社団法人日本玩具協会調べ)。工場出荷額ベースで720億円とする別の調査もあり、まさにブームです。
 
きっかけはコロナ禍だったようです。パンデミック当時、接客系の業種を中心に、商業施設で空きテナントが続出しました。電気代も人件費もかからないガチャガチャ専門店はおそらく、最初は簡便な集客ツールとして施設から重宝されたのでしょう。商品の補充以外は基本的に放置で済むことから長らく“軒先商売”に甘んじてきたガチャガチャが、ひょんなことから商業の表舞台に初めて出て、そこで地道に評価を高め、ついに優良テナントの地位を確立した――とまで言うと、想い入れが過ぎるかもしれませんが。
 
 

ミニチュア愛好と偶然性愛好

 
しかし、カプセルトイにはそんな想い入れを許容する素地があります。
 
一つは「ミニチュア愛好」です。根付や盆栽を出すまでもなく、日本には、景物を縮小して愛でる文化的伝統があります。それを支える精緻な工業技術もあります。カプセルトイのミクロコスモス性は、日本の精神文化の一象徴でもあるのです。
 
次に「偶然性愛好」です。これは現代の実社会においては、時に主体性のなさ、あるいは責任主体の不在として批判の対象になりますが、南アジア由来の民族らしい、最後の最後は自然に任すことを好む心性の表れでもあります。お金を入れてハンドルをガシャガシャッと回して、でもお目当ての物が出てこないかもしれない感覚は、ギャンブルのそれではありません。どちらかといえばおみくじの感覚のはずです。
 
その意味で、目当ての商品を引き当てるまで一回に何度でも回す(買う)のはガチャガチャの本旨から外れます。メーカーの売り上げには貢献しますが、「大人買い」の一言で片付けてそれが普通になること、またそれを煽るようなマーケティングを業界が取り入れることは、ガチャガチャのためにならないと思います。
 
 

キン消しから「コップのフチ子」へ

 
そして今回のブームからはガチャガチャのメディア性が注目だと思います。
 
先のバンダイの特設サイトによると、カプセル玩具の第1次ブームは1983年。当時大人気だった漫画『キン肉マン』のキャラクター消しゴム(キン消し)が火付け役でした。キン消しは400種以上のキャラクターを1987年までに計1.8億個販売。子どもを中心に大盛り上がりを見せました。
 
ただ、キン消しはまだ、「共通して盛り上がれるネタ」の範疇でした。よっぽど好きな一部の子は、雑魚キャラ3つとレアキャラ1つの物々交換を持ちかける、などといった経済行為の走りを実践していましたが、大半の子たちにとってキン消しは、「持ってる?」「俺まだ」「ぼく当たったよ」「いいな~」ぐらいの、単純なコミュニケーションの具でした。もう一つの雄、スーパーカー消しゴムも同様です。
 
それが1994年のバンダイ「ハイグレード(HG)シリーズウルトラマン」の登場を機に、中身の高品質化が一気に進みます。赤や青の単色だったフィギュアがフルカラーになり、造形が精緻になりました。2000年前後頃からはバンダイ、ユージン(現タカラトミーアーツ)、海洋堂のベンダー3社がそれぞれの得意分野――バンダイは『セーラームーン』『エヴァンゲリオン』などメジャーアニメ、ユージンは『ToHeart』などの美少女作品もの、海洋堂は動物や昆虫などのリアルな造形――でクオリティ合戦を繰り広げ、ガチャガチャ本体の技術革新もあいまって価格帯が高いほうに広がり、カプセル玩具はすっかり子どもだけのものではなくなります。
 
そして2012年、「コップのフチ子」が女性を中心に大ヒット。大人の女性がカプセル玩具に親しむ基盤を醸成しました。また、この年はスマホの普及台数がガラケーを抜いた年でもあり、「フチ子」はSNSの写真投稿を通じて広く全国に拡散されます。既存のメジャーコンテンツでなくてもヒットを狙えるということで、これ以降、“オリジナル企画もの”が新たにカプセル玩具のジャンルに加わりました。
 
 

企業コラボの例に見るカプセル玩具のメディア性

 
今回から「メディア性」に注目だとする根拠は、企業コラボの増加です。PR Timesで「カプセルトイ コラボ」で検索をかけて結果一覧を見ると、2020年からリリースが急増しています。20年、21年、22年、23年と年ごとに件数を追うと、急増ぶりがよくわかります。
 
企業がブランディングの一環でオリジナルカプセル玩具の展開を始めたのは、アイデアがユニークでおもしろく、かつクオリティが高ければ、メジャーコンテンツでなくても一定の拡散が狙える可能性を、「フチ子」が示したからだと思います。フチ子さん、恐るべし。
 
兵庫県加古川市のマテハン機器設備メーカー「オークラ輸送機」は、昨年夏、主力商品であるベルトコンベアのミニチュアをカプセルトイにしました。カプセルに同封するリーフレットには、遊び方の説明の他に、自社ECサイトに飛ぶQRコードを記載。メインの目的であるEC部門の販促に役立てています。
 
BtoB系の企業が一般の人々に認知されるのはそもそも難しく、多くの企業がマスコットキャラクターをつくるなどしています。しかし、商材が最終財でなかったり、マテハン機器のように間接材だったりすると、商材とキャラクターが主客逆転してしまい、結局何の会社か知ってもらえないままになることがあります。社名を刷り込む以上の効果は期待しないならともかく、それでは本末転倒です。
 
オークラ輸送機は賢明にも、キャラ表現という迂回路を通さず、商材をそのままミニチュア玩具にしました。「ラジオ関西トピックス ラジトピ」の記事によれば、遊んだことがある学生が「この企業見たな」と思い出す効果も狙っているそうで、カプセル玩具がリクルーティングメディアになっています。
 
過去のブームで品質を鍛え、企画性とメディア性を新たに獲得したカプセル玩具。これからに注目です。
 
 
(ライター 横須賀次郎)
(2024.1.10)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事