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◆今度ばかりは延長はない?

 
 「中小企業等金融円滑化法」――通称“モラトリアム法”――が、今年3月末、ついに最終期限を迎える。さすがにもう延長はないとされる中、「切れたら倒産の嵐」 「死に体の日本経済にトドメが刺される」 などと不安ばかりが先立つ様相だ。しかし、そもそもこの法律についてはその成立過程もその性格も、正確には知られていない。「金融機関とコミュニケーションを密にして、企業再生の熱意をトーンダウンさえさせなければ、恐るべきことではない」――長年にわたり地域金融機関の会計監査人をしてきた著者の視点からはそう断言できる。なぜか。その理由を述べよう。
 
 

◆そもそも「中小企業等金融円滑化法」とは何か

 
 サブプライムローン破綻の影響で起こった世界的規模の金融危機。それは我が国の中小企業にも多大な影響を与えた。そして “意識朦朧” 記者会見で有名になってしまった中川昭一金融担当大臣時代の平成20年11月、金融危機・景気低迷による中小企業の資金繰り悪化等への対応策として、金融機関の貸出先に対する自己査定のうち 「要管理債権」 にあたる条件緩和債権の見直しについて、監督指針及びマニュアル別冊の改正が行われた。その後政権交代があり、民主党・国民新党連立内閣の亀井静香金融担当大臣の時代にできたのが、現在まで金融円滑化法あるいはモラトリアム法と呼ばれている 「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(平成21年11月)である。
 
 しかしこの法律、中身は金融機関にリスケジュール(元本返済猶予・期間延長・借換等借入条件の減額変更) 対応への努力義務を迫るものであり、中川金融担当大臣時代の金融検査マニュアル(中小企業編) の改訂時の対応と本質的に変わるものではない。つまり、中小企業や住宅ローンの借り手が金融機関に返済負担の軽減を申し入れた際に、できる限り貸付期間や金利等の貸付条件の変更等を行うよう努めること、などと規定するものであり、あえて言えばそれ以上でも以下でもない。
 
 

◆3月の法律終了後に予想される銀行動向

 
 当初は2年間の時限立法として施行され、期限を迎えても中小企業の業況・資金繰りが厳しいことから今年3月末まで延長されていたこの法律によって、多くの中小企業が手を差し伸べられ、延命できたことは事実である。そして、実は金融機関側にとっても、貸付条件の変更を行うと、従来であれば不良債権として開示義務が課される「要管理債権」 となってしまい、貸倒引当金の繰入という追加金融コストを計上しなければならなかったものが、この金融検査マニュアルの改定後は 「要管理債権」 つまり不良債権にしなくて良くなったわけなので、自己資本比率を悪化させずに済むというメリットがあった。
 企業にとっては、今後の金融機関との付き合い方が、自分たち借り手の体力ばかりでなく貸し手側の金融機関の体力(自己資本比率) がどう変わるかということとも密接に絡んでいる以上、この金融円滑化法は、一般に騒がれている借り手からの視点ばかりでなく、貸し手である金融機関側からの視点も重視するべきだ。
 
 金融円滑化法が終了しても、金融機関が貸付条件の変更等に対応すべきなのは変わるものではないうえに、債務者区分が 「要管理先」 以下にならない要件は円滑化終了後も影響を受けない旨の金融担当大臣談話が発表されてもいる。ただし、企業への対応は、金融機関側の体力によっても、すなわち追加の個別貸倒引当金の計上という二次ロスに対応する余力がある金融機関と余力がない地域金融機関とでも異なってくるので注意が必要だ。これなどは金融機関側の視点に立って初めて見えてくることである。
 
 

◆中小企業金融円滑化法活用企業の出口戦略とは

 
 今現在、全国で約400万社を超える中小・零細企業のうち、約10%近くの30万社から40万社が金融円滑化法によるリスケジュールを行っていると推測されている。円滑化法が終了した後のこれらの企業の出口戦略はどうしたら良いのか? これを煎じ詰めると、再生型スキームか、クローズ型スキームか、つまり出口は 「生き残る」 と 「死ぬ」 の二つしかない。
 
 生き残りの再生型スキームは経営改善先と抜本再生先とに適用される。(ちなみに、「先」 と書くのは金融機関の視点からは 「改善に介入する先」 「抜本再生に介入する先」 の意味になるからである。)その企業が経営改善先であれば問題ないが、抜本再生先の場合は、金融機関としてはリスケジュールで支えるということになる。しかしそれが単なる延命に終わっては何にもならない。
 
 クローズ型スキームが適用される廃業支援先となると、これらの企業から貸付条件の変更等の申し込みがあった場合、金融機関は機械的に応じるのではなく、事業継続に向けた経営者の意欲、経営者の生活再建、当該債務者の取引先等への影響、金融機関の取引地位や取引状況、財務の健全性確保の観点等を総合的に勘案し、慎重かつ十分な検討を行うこととなる。――といえば聞こえはいいが、それを受けた企業の最終的な選択肢は、実際のところ、任意整理や事業分割・営業譲渡等だ。
 ただし、地域密着型の金融機関であればあるほど、「あなたのところは廃業支援先になりました」 とはなかなか言いづらい。であれば、債務者の納得性を高めるための十分な説明を行ったうえで、債務整理等を前提とした債務者の再起に向けた適切な助言や、債務者が自主廃業を選択する場合の取引先対応等を含めた円滑な処理等への協力を含め、債務者や関係者にとって望ましい解決策が適切に実施されていくものと思われる。
 
 

◆腹をくくって自助努力を

 
 その際に重視されるのが、昨年7月に金融庁監督局からも発表があった 「金融機関のコンサルティング機能」(リンク先PDF) である。しかし、その実態はどうか? 各種アンケート調査や著者自身の地域金融機関監査の経験からも、なかなか望ましい結果は出てこない。金融機関のコンサルティング機能も、10年も前から 「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(リンク先PDF) で取り上げられているものの、コンサルティング機能を発揮しようと動いている金融機関は37%にしか過ぎないというデータもある。主な理由は人材不足である。他には企業再生支援機構や中小企業再生支援協議会との連携等の出口戦略もあるにはあるが、これらを利用できるのはごく一部の企業だ。生き残るための出口戦略は自助努力しかないと腹をくくるべきだろう。
 
・取引金融機関への決算説明や事業計画説明は必ず行っているか?
・月次決算は、月初めに毎月金融機関に説明しているか?
・銀行員に定期的に訪問してもらうようなキッカケを作っているか?
・銀行員が訪問してきた時の社内の雰囲気はどうか?
・プロパー融資を目指すような行動をしているか?
・帝国データバンクへ情報記載されて恥ずかしくない財務状況か?
・経営者自身の経営姿勢にどこか後ろめたいものがないか?
 
 経営環境は依然厳しくても、上記のような点の見直しと改善はいつでも実行できるはず。まずはそこから始めることが求められる。
 
 
 地域金融機関としても、金融円滑化支援から漏れた取引先をどのように扱うか、地域金融機関として本来の仲介機能は維持できるのか、倒産企業が急増してしまったらどうなる? といった点は思案しているはずだ。そう考えると、この法律は、債務者区分判定の方法論として、より一層統一された判断根拠が確立されるようになるのを促した一面もあった。
 現場を知る者としては、円滑化終了後の対応不備に対する苦情・クレームへの対処ができるのかといった、コンプライアンス態勢との関連も気になるところだ。いずれにしても、企業にとって以前にも増して金融機関との密接なコミュニケーションが重要になることは確実である。地域金融機関の会計監査人の経験として、「包み隠さず全てを開示することが大切です」 と念を押しておこう。
 
 
 
(公認会計士 渡辺俊之)
 
 
 
 

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