勝負を分ける“間”と駆け引き
野球ではバッターボックスで投手と向き合い、剣道では間合いの中で相手と対峙する。競技は違えど、どちらにも相手の動きや心理を読み、勝負の機を捉える瞬間がある。そうした駆け引きの中で、二人は何を感じ、どこに意識を向けているのだろうか。
立浪 野球では、一球ごとに考える時間があります。その中で、「ここにボールが来たから、次はこっちに来るのではないか」「今の球をファウルにしたから、次はこの球を狙おう」といったひらめきや直感から判断していくんです。当然、自分の予想したコースに100%来るわけではありません。投手自身も、狙ったところから大きく外してしまうことがありますから、お互いに正解がわからない中で勝負をしています。その点、剣道はより一瞬の判断が勝敗に直結する競技のように感じますね。
鍋山 剣道では、相手が打つ機会を狙っているのか、打たれないように守ろうとしているのか、その気持ちや兆しを読み取ることが大切です。相手がこちらの打ちを避ける気配を見せた時は、さらにその動きを誘って逆をつくるか、避ける前に打つのか、瞬時に判断します。さらに、その動きを引き出すために、どの程度のプレッシャーをかける必要があるのかまで考える。そうした相手との探り合いに、剣道の技術が表れるんです。
立浪 そうした駆け引きにも、やはり好不調はあるんですか?
鍋山 もちろんあります。ですから私は指導する際、どのような心構えで相手と向き合えば自分の力を発揮できるのかを、選手自身に考えさせるようにしています。選手を起用する際も、勝敗だけでは判断しません。構えや体のバランスが崩れていれば気持ちの揺らぎを感じますし、逆に直前の試合に負けても心身が充実していれば、「次はやってくれる」と見て起用します。野球でもチャンスに強い、弱いといった違いはありますよね。
立浪 ええ。ただ、鍋山さんがおっしゃったような精神面を安定させるためにも、まずは技術を身に付けることが何より重要だと思います。いくら読みが当たって偶然打てたとしても、それだけでは意図したバッティングを続けることはできません。例えば、追い込まれて三振したくない場面で、ボールをぎりぎりまで引きつけてファウルにし、粘った末に来たチャンスを仕留める。そうした技術の習得が、狙ったシチュエーションに持っていくための要素なんです。ましてやプロ野球は毎日のように試合があり、基本的には同じ動作を繰り返します。それを続けていると、時には自分自身の動きがわからなくなることもある。だからこそ、基本となる反復練習を徹底することが大切なんです。それをおろそかにしていては、選手として長く活躍することはできないと思います。