
自分の奥に眠っているものを探るように撮影を行った
当初の予定では、『海街diary』を撮り終わってから、『海よりもまだ深く』の撮影に入るつもりでした。でも、脚本を書いていたら予定より早くできあがっちゃって(笑)。そうしたらもう、「今撮りたい」という気持ちになってしまった。『海街diary』は四季を通して撮影していましたから、その春と夏の撮影の合間に撮れるのではと考えまして。阿部さんにスケジュールを確認してみたら、ちょうど空いていたので「じゃあ撮ろう」と。

樹木さんは、出演を決めていただくまでが少し大変でしたね。台本をお渡ししたら、後日その台本を返されてしまいまして。「わかっていると思うけど、こういう何でもない人を演じるのが一番難しいのよ」と言われました。“犯罪者”であったり“殺人を犯した息子を庇う母親”であったりすれば、役づくりをするにあたっての“とっかかり”がありますよね。でも、今回お願いした役には、そういった役に入り込みやすい特徴的な部分が何もないんです。「だから、樹木さんにしかできないんです」「いや、できない」と1時間くらい押し問答をして、なんとか台本を受け取っていただくことができました。
感情をどこまで説明するのか
母親の「お風呂場でも聞けるから」というセリフだけにするのか、息子の「寂しいんだな、母さん」というセリフも入れるのか。セリフを盛り込みすぎると嘘くさく感じてしまうので、観る人がどこまで共有できる感情なのか、なるべく客観的に判断しなければいけません。
どこまで感情を説明していいのか迷う場面は多々ありますが、そういうときは、このエピソードは100人中5人に伝わればいい、これは60人くらいには伝わってほしい、とバランスを考えて撮ります。このラジオの話だと、息子のセリフは入れずに、10人くらいに伝わってほしいと思って撮りました。全てのシーンを全ての人にわかるようにすると、“わかりやすい映画”になってしまうので気をつけています。それに、「このエピソードは私にしかわからない!」と思える場面があったら、観ていて楽しいでしょう(笑)。
