このパラレルキャリアを積極的に推進し、社会人が自身の価値観を社会で表現することによって“キャリアを社会に還元する”ための活動を行っているのが、NPO法人二枚目の名刺です。パラレルキャリアを持つことで、どのような成果が生まれるのか。そして、社会人や企業にはどのような変化がもたらされるのか。代表の廣優樹(ひろ ゆうき)氏に話を聞きました。
人材育成の結果が社会貢献につながる
NPOの事業に共感した社会人6人程度がチームを組み、NPOと共同で新しい社会の仕組みづくりに取り組む3~4ヶ月のプロジェクトです。当法人は、社会人とNPOをつなぎ、プロジェクト全体の推進をサポートしています。
――NPO法人二枚目の名刺を設立しようと思われた経緯をお聞かせください。
2009年、社会人7年目。僕は金融業界で働きながら、“食料分野の未来”について関心を持つようになっていました。そこで、ビジネススクールに留学したタイミングで金融の勉強と並行して農業のプロジェクトに取り組んだんです。その一つがベトナム農産物の対日輸出促進策を考えるプロジェクトでした。これまでの自分の仕事とは異なる分野への挑戦をする中にあった、予想もしないような出会いや、たくさんの刺激になるできごとが、自分の人生の中で大きな変化点となりました。会社の名前に頼らず、自分の名前で勝負する。前向きな失敗もしながら、これまでの枠を超えた挑戦する機会、そして価値観が揺さぶられ人生の刺激になる機会を多くの人に届けていきたいと思ったのが、設立のきっかけです。
――社会人が副業としてNPOの事業に参加し、社会に貢献するためのサポートを行うのが貴法人の活動目的なのでしょうか。
確かに、一般的にNPOは社会貢献を目的としているイメージが強いかもしれません。ただ、当法人は「自分の思いを社会で表現したい」、「会社の枠を超えてアクションしてみたい」という方の挑戦の機会を提供しているんです。NPOの変化と社会人の変化を同時に起こし、社会の変化につなげていくことを、“2枚目の名刺”というコンセプトを使って実現していきたいと考えています。
近年、企業の人材育成において、社内で育成できない要素を社外に越境させ体得させようとする“越境学習”が注目されています。また、会社に依存せず、自らの意思をもってキャリアを築いていく“キャリア自律”も、人事業界のキーワードです。2枚目の名刺を持った時の“人の変化”について、企業が関心を持つようになり、さらに「NPOの活動に社員が参加することは、人を育てることにつながる」と考えるようになってきたと実感しています。
人材を開放するのは企業の持つ社会的責任
そう考えています。企業の人事担当によるネットワーク団体「日本の人事部」が主催し、厚生労働省や経済産業省が後援する、人事・人材開発・労務管理などの分野におけるイノベーターの表彰制度「HRアワード」にて、2016年に当法人の活動が表彰されました。それは多くの企業の人事部の方々に、当法人の活動が「人材育成にもつながるんだ」と認めてもらえた瞬間でもあったんです。
――社会人にとっても、自身の成長につながるのは大きなメリットだと思います。
ええ。かつての副業は、小遣い稼ぎとして会社に隠れてするイメージでした。しかし、収入だけが目的ではなく、その人の生き方としての副業が世間でも認められるようになってきたのは、大きな意味があると思います。つまり、副業の目的は金銭報酬だけでなく、自身の成長や、やりがいにもある。社外で何かをする時の良さは、成長とやりがいについて自分が選択できることだと思っています。社会人は、会社に勤めて数年もすると、立派な“会社人”になっていくんです。自分の思いよりも、会社の前例や枠組みばかり気にするようになる。そして自分の選択ではなく、与えられたタスクがそこにあるわけです。でも、2枚目の名刺は社外の取り組みですから、“自分の人生のオーナーシップ”を意識する良い機会だと思っています。会社の枠を越えて思いを共有したり、新しい取り組みに挑戦したり、自分の価値観を表現する選択肢、それが2枚目の名刺なんです。
――最近は働き方改革の一環として、副業を認める企業も増えてきていますね。
そうですね。でも、副業が認められていても実際にしている人はそう多くないようです。その背景には「何をすれば良いかわからない」、もっと言うと「何をしたいかわからない」という理由があるんですよ。当法人は「何かをしたいけど、何をすれば良いかわからない」人に、変化のきっかけを届けたいと思います。サポートプロジェクトに参加すると、価値観を前面に打ち出し、社会課題に向き合うリーダーたちと出会える。それによって、自身の価値観を再定義するきっかけとなり、社会と自分の立ち位置やつながりを相対化して認識できるんです。自分は何者なのか、何を実現したいのかがわかれば、その次のステージが見えてきますね。2枚目の名刺は選択肢です。決してしなければならないものではなく、選択肢の一つとして、自らの人生を切り開くきっかけにできると良いですね。
――サポートプロジェクトに参加する際、必要となるスキルはどうすれば良いでしょうか。
副業で収入を得る場合、自分ができることをして、その分の対価を得るわけです。しかし、サポートプロジェクトは、必ずしも自分ができることだけをするわけではありません。その分野の知見はなかったり、仕事ではしたことのない役割に挑戦したりすることにも意味があります。社会人の成長とプロジェクトの成果のバランスをいかにして取るかは、非常に難しいポイントとなりますが、僕は社会人の成長とNPOの社会貢献的な成果という、双方にとって良い形を目指しています。
――廣代表ご自身も、本業として商社に勤めているそうですね。兼業を行ううえで、企業や組織に求めるものを教えてください。
近年は深刻な人手不足が叫ばれているからこそ、人材を大手企業が独占するのではなく、もっと社会に開放すべきだと考えています。それは企業の社会的責任でもあると思うんです。人材を外に出すのは本人の成長にもなるし、やりがいにもなる。そこで得られた成長が企業にも、社会にも良い成果として還元されると思います。
僕自身も、当法人で得た成果を活かして本業での価値を高め、2枚目の名刺を持つ意味を自ら体現していきたいですね。本業を持ちながら、どこまで組織をマネジメントできるのか、どこまで成果を還元し、自分の価値を高めていけるのか。僕はそれにこだわってチャレンジを続けています。
行動する者にだけ、新たな機会が訪れる
現在、公務員の方が当法人の活動に参加しています。そこで「公務員もこんな活動を行っているんだ」と、世間に広く発信していきたいですね。近年、地方自治体を中心に、公益事業ならば公務員が副業をしても良いと認める動きが広がっています。これまで法律上の制限を受けていた公務員が越境しやすくなるわけです。それをより活発に行えるよう促進し、支援していきたいと思います。
ほかにも、当法人の活動に人材を送りたいという企業も増えています。そのような企業の取り組みも伝えていきたいですね。より多くの社会人が行動を起こすための選択肢を広げていきたいです。
――貴法人の活動によって、新たに行動する人が生まれる。社会全体を巻き込んでいくと。
その形を目指したいですね。「行動すれば次の機会が訪れる。何もしなければ、次は絶対にない」。それを学んだのが、自分が最初に携わったプロジェクトでした。犬も歩けば棒に当たるということわざがありますよね。これには二つの意味があるんです。1つは「余計なことをしなければ災いはなかった」という意味。そして、もう1つは「行動した人だけが、新たなチャンスに行き当たる」。僕はその後者を信じています。
オフィシャルサイト
https://nimaime.or.jp/