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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

ラグビーはまさに社会の縮図
圧倒的な個が牽引する最強組織論

 
 
よくラグビーの関係者から 「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」 という言葉を耳にする。ラグビーには高いレベルのチーム意識が必要であり、この言葉はそれを代弁するものだ。しかし、大畑氏はそれをすべて理解したうえで言う。「でも、ぼくの場合はヒーローになってやろうと思ってた(笑)」。いったいどういうことなのだろう?
 
 

少年・大畑大介の「表現媒体」

 
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 ぼくがラグビーを始めたのは小学生の頃なんですけど、特にめちゃくちゃラグビーが好きで始めたというわけではないんですね。大阪で育ったので、周囲は阪神ファンばかり。ぼくは天邪鬼な性格だったので、「アンチ阪神、アンチ野球」 を唱えていて、野球なんて絶対にやるもんかと思っていたんです(笑)。でも、運動神経は良かったから、草野球をやらせると打てたし、走れたし、自分の小学校だけでなく他のチームからも誘いを受けるほどのものは持っていたんです。高校生のときは陸上部の選手より足が速かったし、サッカーをやっても 「少なくとも大学サッカーまでは絶対に通用する」 と言われていました。そんな中、どうしてラグビーというスポーツを選んだのか? 一言で言うと、「自分を最も表現できるスポーツだ」 と感じたからです。
 小学校3年生のときに、初めてラグビースクールに入ったんですが、3年生ともなればそれなりに社会性もあるわけで、早く入った子たちの間でちょっとしたコミュニティができているわけです。ぼくとしては早くそこに入って皆と打ち解けあいたい。でも、そこまでの社交性が自分にはない。さてどうしよう? そんなことを考えて少し悶々としていたんです。その状況が、練習でダッシュ競争をしたときに一変したんですね。ぼくが一番速かったんですよ、圧倒的に。それがわかった瞬間、皆に認められた。男の子の社会ではよくありませんか? 力を認められることがすなわちその人間のアイデンティティが認められるになるという。まさしくその典型だったんですよね。
 そんな発見をもたらしてくれたラグビーに、俄然魅力を感じるわけです。今まで出せなかったものがラグビーを通じて出せた。ラグビーでなら自分をもっと表現できる。そう思うようになったんです。
 
 
 
まだ少年だった大畑氏はラグビーに自分の居場所を見出した。「20年はラグビーを続けたい」 とまで思ったほどだという。大畑氏が言うには、どんなものでも20年続けれは形になるうえ、自分の中で大きな自信になると考えていたとか。わずか10歳程度の子供がそこまで考えること自体すごい。しかし、実際に初志貫徹し、20年以上もラグビーに携わってこられたエネルギーはもっとすごい。どうやってモチベーションを維持したのだろうか。
 
 

どんどんハードルをあげてくれ

 
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ポジションはスリークォーターバック。圧倒的な走力で敵陣を駆け上がる
 まず最初に決めていたのは、20年続けること。それはトップレベルでなくても、継続ということを大事にしていました。でも、実際にプレーをするからには高い次元でやりたいし、トップもとりたい。常に自分の中で結果を求めるべく、ハードな道を選んでいましたし、自分にもプレッシャーをかけました。早い段階から 「日本代表に入る」 と公言していたし、もちろん大局的な目標だけでなく、目の前に必ず指針となる目標を置きました。たとえばその試合でいくつトライをとる、とかね。初めて日本代表に選ばれた1996年のアジア選手権でも 「3試合で10本とります」 と宣言して達成しました。2006年5月14日に大阪の花園ラグビー場でグルジア戦に出場したときも、「絶対にここで世界記録を塗りかえますんで」 と試合前に宣言していましたからね。(編集部注:実際にこの試合で3トライを挙げ、テストマッチ通算65トライの世界記録を達成。さらに引退までに69トライに記録を伸ばした)
 「どうして、有言実行ができるのか」と、恥ずかしながらよく聞かれるのですが、行動した後に結果が出るという考え方ではないからだとぼくは思っています。思い描かないと達成できないんですよね、目標って。ぼくは、自分が思い描けることはすべて達成できることだと思っているんです。自分が背伸びしてようやく届くか届かないかくらいの高さの目標を思い描いて、どうやってそこにたどりつくかの道筋を考える。目標を見据えたうえで、いろんなプランを練る。だから、基本は自分の考え方というか、目標設定の仕方次第なんじゃないかなと思うんですよね。
 
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 だからか、人を妬むようなネガティブな考え方でラグビーに向き合ったことはないんです。ラグビーは激しいスポーツだから、どうしてもケガの可能性が少なくない。自分がケガをして試合に出られないとき、周りのメンバーが出て活躍するわけですよ。それでヤキモチを焼いて 「ケガしちゃえ」 と思う人もいるかもしれないけど、ぼくは一度たりともそれを思うことはなかった。カッコつけて言っているのではなくて、「俺のほうが活躍したる!せやから、どんどんハードル上げてくれ」 と思っていたんですよね。
 スポーツ選手にとってケガをしたり出場機会がなくなるということが続けば、確かに壁にぶつかったと言えるかもしれません。でも、大事なのは個の力なんですよ。壁を感じられることはものすごく幸せなことなんじゃないかな。自分に対しての期待の表れが壁なわけでしょ? 悩みや不安や緊張感が、壁になるわけでしょ? だったらそれにチャレンジしたらいいだけ。そのためには自分を信じてないと、壁が出現した時点で終わってしまいますよね。
 
 
 
 

 

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