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ビジネス トップシェフ直伝! 「ダイバーシティ・マネジメントのレシピ」vol.3 多様性への理解はビジネスチャンスに トップシェフ直伝! 「ダイバーシティ・マネジメントのレシピ」 「スパゴ」ビバリーヒルズ本店総料理長 矢作哲郎

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「スパゴ」ビバリーヒルズ本店で腕をふるう矢作哲郎氏
B-plusの皆さん、こんにちは。「スパゴ」ビバリーヒルズ本店の総料理長、矢作哲郎です。この記事も、あっという間に第3回、最終回を迎えました。前回は、この連載の核となる、宗教や国籍、文化も異なるスタッフたちと、僕が今のチームを築けるに至った実体験をお話ししましたね。
 
宗教や民族、年齢、性別が異なる多様な人材がいれば、全員が全員のことをわかりあえるとは限りません。それでも、相手の背景を知り、わかりあえない事実まで理解すれば、わりきってうまく付き合える。これは、移民の多い国ならではの寛容さがあってこそ成り立つのかもしれません。日本の企業がダイバーシティ・マネジメントを実践していくうえで、この点を意識していけば、きっとみんなが実力を発揮できる、良いチームがつくれると思いますよ。
 
それに、様々な文化や宗教、民族について知ることは、職場内だけでなく、グローバルなビジネスを展開するうえでも、大きなチャンスになるんじゃないかなぁ。例えば、日本では2020年の東京オリンピックに向け、飲食業界もインバウンド対応を急速に進めていますよね。しかしながら、その多くが外国語対応程度に留まっていて、内容にまだまだ改善の余地があるように感じられます。
 
というのも、前回でも少し触れた通り、やはり、宗教や国ごとに特有の食文化があります。最近では、日本でもムスリムが食べられるハラルフードの専門店などが増えてきているようですし、宗教によって食のタブーがあるというのは、皆さんもなんとなくはご存じですね。でも、前述のイスラム教について「豚肉を食べてはいけない」という知識はあっても、アルコールもNGということや、豚以外の食肉についても細かな決まりがたくさんあることは、知らない人も多いのでは? 他の例を挙げると、ユダヤ教の場合は水中生物もヒレやウロコのないもの――甲殻類や、ウロコの目立たないウナギも食べられないし、肉と乳製品を一緒に食べることなども禁じられています。こうした食の制限についての情報が、日本ではあまり浸透していないのが現状です。
 
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食文化も様々な来店者たちを、料理で最大限にもてなす
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毎晩メニューが入れ替わるのも「スパゴ」の魅力!
「スパゴ」本店のあるカリフォルニア州はメルティング・ポットですし、世界中から様々なお客様が来られます。席数も多いので、おかげさまで毎日が運動会のような忙しさです(笑)。その中でも、文化や宗教、さらにはヴィーガンやベジタリアン、もちろんアレルギーをお持ちの方まで、多様なお客様にできる限り対応しています。だって、食べられない食材がある方にも、食事を楽しんでもらいたいじゃないですか。当店では毎晩メニューが替わるし、メニューには載っていない料理でも、お客様のリクエストに即興で応えることが日常茶飯事。制限がある中でどれだけやれるかが、僕たちの腕の見せ所なんですよ。
 
そうした引き出しを、僕を含め、スタッフ全員がたくさん持っているのは、大きな強みです。これって、多様なバックグラウンドを持つスタッフがいる――“ダイバーシティ”な環境による恩恵でもあるんでしょうね。正直、ここまで細かく対応しているレストランは、飲食激戦区のビバリーヒルズでも珍しいと思います。だからこそ、当店は決して安くない単価にも関わらず、お客様はわざわざ足を運んでくださり、ビジネスとしても成り立っているわけです。
 
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ビバリーヒルズにお越しの際は、ぜひ
日本の飲食店は、外国語メニューには対応していても、内容は対応の範囲が限られていることがほとんど。大きなお店となると、メニューが画一化されていることが多いので、即興で料理をアレンジすることも難しいのかもしれません。でも、それって、もったいないと思いませんか? 日本に来たいけど、食の問題で来られない・・・という方も、海外にはたくさんいるはず。逆に、多様なお客様を受け入れられる態勢を強化すれば、2020年、海外からかなりの集客を見込めると思いますよ。もしみんなやらないんだったら・・・僕が日本でレストランを開こうかな(笑)。
 
ダイバーシティにしてもインバウンドにしても、どちらにも共通するのは、やはり相手のバックグラウンドを知る大切さ。これは、僕がビバリーヒルズで働く中で、身を以て実感したことです。この話が、多様化する人材やお客様への対応につまづいている日本の経営者や管理職の皆さんの、お役に立てれば幸いです。もし実践してみて「うまくいった!」という方がいれば、ぜひ、教えてくださいね。「スパゴ」ビバリーヒルズ本店で、お待ちしています!
 
 
トップシェフ直伝! 「ダイバーシティ・マネジメントのレシピ」
vol.3 多様性への理解はビジネスチャンスに

 著者プロフィール  

矢作 哲郎 Tetsu Yahagi

「スパゴ」ビバリーヒルズ本店総料理長

 経 歴  

父の仕事の関係から中学・高校時代をアメリカで過ごす。書店で偶然手にした、カリフォルニア料理の草分けであるシェフ、ウルフギャング・パック氏の料理本に魅せられた。高校卒業後、帰国前にパック氏のレストラン「スパゴ」に足を運び、料理の道へ進むことを決意。辻調理士専門学校でフレンチを学び、フランス、日本で経験を積む。その後、日本にオープンしたパック氏の系列店で腕を振るった後、「スパゴ」本店へ。現在、総料理長として店を切り盛りしている。

 オフィシャルサイト 

https://wolfgangpuck.com

 
(2017.5.31)
 

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