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ビジネス トップシェフ直伝! 「ダイバーシティ・マネジメントのレシピ」 vol.1 “人種のるつぼ”で総指揮を執る日本人 トップシェフ直伝! 「ダイバーシティ・マネジメントのレシピ」 「スパゴ」ビバリーヒルズ本店総料理長 矢作哲郎

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世界中のセレブが足を運ぶ「スパゴ」ビバリーヒルズ本店
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ウルフギャング・パック氏(左)と矢作氏(右)
B-plus読者の皆さん、初めまして。アメリカはカリフォルニア州、ロサンゼルスのビバリーヒルズにある「スパゴ」というレストランで総料理長を務める矢作哲郎と申します。
 
もしかしたら、僕のことは知らなくても、「スパゴ」という店名をご存じの方は多いかもしれませんね。何しろ、オーナーである親父さん――僕のボス、ウルフギャング・パック氏は、各国のテイストを取り入れたカリフォルニア料理で「アメリカ料理を変えた料理人」と言われ、アカデミー賞授賞式の料理を任されるようなすごい人。僕自身、父の仕事の都合でアメリカに住んでいた20年以上前、アメリカで彼の料理本を見て、「刺身天ぷらウニソース!? 何だ、これ!!」と、中学生ながら衝撃を受けた1人です(笑)。実際にレストランに足を運んで彼の料理を食べたことで料理人を志して以来、料理一筋約20年。不思議なご縁で、今では「スパゴ」ビバリーヒルズ本店で総料理長として采配を振るわせてもらっています。
 
なんだか、この自己紹介だけだと、「料理の連載が始まるの?」――と思われそうですね(笑)。今回僕がこうして筆をとることになったのは、僕の経験が、もしかしたら日本の企業や飲食店の役に立つのではと思ったからです。日本の企業では昨今、多様な人材を積極活用する、ダイバーシティ推進の動きが盛んだと聞きます。同時に、施策がなかなかうまく進まない、とも。
 
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お客様のライフスタイルやバックグラウンドも多岐にわたる
僕のいるカリフォルニア州というのは、メルティング・ポット―― “人種のるつぼ”として知られています。特にロサンゼルスは顕著で、約200名いるうちのスタッフの国籍や民族的バッウグラウンドを見ても20~30ヵ国と、もう、店内でオリンピックが開催できそうなほど(笑)。さらに、有名店だけあって、お客様も世界中から様々な人種、宗教、ライフスタイルの方々が見えます。そうした中、常に最高のパフォーマンスをすべく、スタッフと1つのチームとして戦っているわけです。そこで肝心な旗振り役が、総料理長である僕。アメリカで活躍する日本人の料理人は、和食のジャンルで自分の店を持っている方が多いので、もしかしたら、僕のようなスタイルの日本人の料理人は少ないかもしれませんね。
 
とはいえ、やはり様々な文化・思想を持つ人たちが一緒に働くというのは、簡単なことではないんですよ。僕自身、学生時代にアメリカに住んでいたとはいえ、セコンドとして店に入った10年ほど前は、民族や宗教の歴史などについても無知でしたし、いわゆる“The職人”気質だったので、スタッフとの衝突もしばしば。きっと、知らないところで当時の総料理長が、たくさんフォローしてくれていたのでしょう。もし、僕があの頃のまま総料理長のポジションに就いていたら・・・きっと今のようなチームにはなっていませんでした。
 
じゃあ、その頃と今の僕では、何が違うのか? それは、スタッフたちのバックグラウンドを理解したことが大きかったと思っています。僕が変化したことで現場でのスタッフとのコミュニケーションも変わりましたし、それこそ、多様なお客様を迎える店の運営面でも、いい影響をもたらしてくれました。
 
相手を理解し、認める。これは、様々な国籍、性別、年齢の人たちが一緒に働くうえで重要なことです。これから全3回にわたり、具体的なエピソードを交えながら、僕が多様な人材を束ねながら肌で感じたことや得たことをお伝えし、ダイバーシティを進める企業の経営者の方や、そこで働く皆さんのお役に立てればと思っています。あわせて、様々な国のお客様を迎える当店のスタイルを通して、2020年の東京オリンピックに向けてインバウンドを進める飲食店の皆さんにも、何かヒントを感じてもらえたら嬉しいですね。
 
次回ではさっそく、無知だった自分が“気付き”を得たことによる具体的な環境の変化など、いろいろとお話ししますね。では、また来月お会いしましょう!
 
 
トップシェフ直伝! 「ダイバーシティ・マネジメントのレシピ」
Vol.1 “人種のるつぼ”で総指揮を執る日本人

 著者プロフィール  

矢作 哲郎 Tetsu Yahagi

「スパゴ」ビバリーヒルズ本店総料理長

 経 歴  

父の仕事の関係から中学・高校時代をアメリカで過ごす。書店で偶然手にした、カリフォルニア料理の草分けであるシェフ、ウルフギャング・パック氏の料理本に魅せられた。高校卒業後、帰国前にパック氏のレストラン「スパゴ」に足を運び、料理の道へ進むことを決意。辻調理士専門学校でフレンチを学び、フランス、日本で経験を積む。その後、日本にオープンしたパック氏の系列店で腕を振るった後、「スパゴ」本店へ。現在、総料理長として店を切り盛りしている。

 オフィシャルサイト 

https://wolfgangpuck.com

 
(2017.3.29)
 

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