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それは節税なのか?脱税なのか!
―税金に対する経営者のタイプの違いと考え方の変遷 後編―

 
 

5、悟りを開いた経営者

 
 先月号では、同族型会社経営者が、税金対策でハチャメチャなことをして懲り、力まかせ節税も無駄となり、合法的節税商品購入で、むなしさを感じ、節税オタクで資金繰りが悪化し、、、
 
「何やっても無駄じゃん!まともにやるのが一番だ!」
 
そういった悟りの境地に至るまで、ふと気がついたら会社経営20年。そんな趣旨のことを書きました。
 
 
 定年近くになって会社を創立し、3年目で税務調査を受けた会社の調査立ち合いが最近ありました。超一流大学を出て、超大手企業を何箇所か経験し、定年間際に創業された方です。まだ社員10人にもならない企業ですが、企業理念や様々なステークホルダーに対する企業の社会的責任もしっかり自覚し、小さいながらも企業とはどうあるべきかをよく考えておられる社長でした。
 私自身が税理士業界へ入って35年以上経過します。このように最初から立派な方も居られますが、通常は先月号で記載したような経営者もたくさんいるのが実態でしょう。そういった経営者でも、長くても、20年位会社の経営をしていると悟りが開けるようです。
 もっとも、中小企業の7割は赤字ですから、節税対策なんて縁がなく、如何に利益を出したらいいのかに腐心している経営者が多いのも事実です。
 会社の決算は期間計算です。利益の先送りをしたり経費の先取りをしたとしても、そのツケは翌期に回されるだけ、一度無理な在庫圧縮をしてしまうと、売上総利益率の異常さを隠すために、ずっと圧縮し続けなければならなくなります。結果として、どの数字が本当の会社の利益なのか皆目分からなくなり、“羅針盤なき会社経営” という航海を続けざるを得なくなります。こんな恐ろしいこと、というより無謀なことできますか? 会社経営をする以上、しっかりした羅針盤、つまり年度ごとの適正な決算をすることが、企業成長の要であるはずです。
 
 


6、体力のある会社とその経営者

 
 中小企業の経営者と接して40年近く、その間、高度経済成長期の絶頂期、そしてバブル経済の破綻、失われた20年と最近のリーマンショック後の経済悪化などがありました。様々な企業とその経営者と接してきましたが、生き残っている会社は 「体力のある会社」 です。つまり内部留保に努め総資本に対して自己資本比率の高い会社、つまり自己資本の部の資本金以外の利益積立金等の内部留保の厚い会社を、私は 「体力のある会社」 と言っています。最近は赤字続きでも内部留保の厚い会社は、体力があるがゆえの底力を保持し、M&A等の条件も良くなります。
 私は地域金融機関の外部監査人としての仕事を10年以上続けている過程で、実に多くの中小企業の決算書を拝見し、そして金融機関の、その貸出先に対する経営分析資料や、自己査定資料を見続けてきました。
 そこでつくづく感じるのは、中小企業こそ、上述した意味での体力がなければ駄目だ!という点でした。そのことを意識づけるのが私たち職業会計人の仕事であるはずです。中小企業にはその会社の税務・会計顧問である税理士や公認会計士がほぼ100%関与しています。
 金融機関監査でつくづく感じるのは、この中小企業を指導するこれら職業会計人の役割の重大さです。
中小企業はいつ何時どうなるか分からないので、そのために個人資産は十分に保有していなければ駄目だ!という考え方もあります。しかし、当然のことですが、節税に走りすぎたり、役員報酬の取りすぎや役員退職金の取りすぎで体力をなくしている会社だってたくさんあります。いずれにしろ、最後は経営者の見識が問われます。
 
 


7、中小企業経営者の税金観
 

 税理士は職業柄、常に節税を求められます。そして経営者の方の “ズレた期待(方向の違った期待)” へ応えるべく、あるいは応えなければ無能者扱いにされることを恐れて、節税策に邁進しがちです。
  私自身は、公認会計士として、地域金融機関の監査業務を通じて他の会計事務所が作成した様々な中小企業の決算書のあり方をみて痛切に感じるところがあり、公認会計士業界関連の会報に 「中小企業金融への側面援助と職業会計人の意識改革」 と題して、財務の健全化という命題を訴えたことがありました。
 この文章を読んだ、全く見ず知らずの公認会計士の方が、わざわざ私の自宅の電話番号を調べて、「いやー先生の言うとおりです。そのことをどうしても伝えたくて」 と電話してくださったこともありました。今もよく覚えていますが、共感していただける方が一人でもいるとやりがいが出てきます。そして仕事も楽しくなります。そういえばこのB-plusは 『仕事を楽しむWebマガジン』 です。仕事にやりがいを持つ、誰かが評価してくれている、これが遊びでも仕事でもその行動の原点になるのでしょうか?
 
 閑話休題、話がそれました、戻しましょう。
 
 最近、気になる題名の書籍が目に留まりました。それも元同族会社社長の著書です。
 「税金情報はお上の考え方ばかり、税金を取られる側の情報がないのはおかしい」 との視点で書かれた 『これは節税か、脱税か!―グレーゾーンを突き進んだ非常識な税金対策―』(かんき出版) という書籍です。「はじめに」 の部分には、「税理士に言われるままに税金を払っていませんか?会社の税金問題ですが、実際に節税と脱税の間に大きいグレーゾーンがあります。何をどう選ぶかは代表者であるあなたです」 とあります。そして 「同族会社の経営の現実は、個人、同族の金儲けが最優先です。事業の社会的意義や貢献など、甘っちょろいことを言っている余裕はありません」 と続き、またこんなことも書いてあります。
 「・・・言い方は良くないのですが、同族会社の経営とは、大半が、会社代表者の身内の利益を第一義的に考えた経営です」――とはいうものの、彼自身、「先代はその金儲けに徹しながら砂の城が崩れるように会社を壊さざるを得なくなった」 とつぶやき、「人は金儲けで見えるものも見えなくなり、社会性を見失うとビジネスも会社も、社会から退場を余儀なくされることになります」 と結びます。
 結局著者の先代は会社をつぶしているのですね。公私混同、私利私欲の結果かもしれませんが、「官僚のお手盛り、天下り、無駄使い、空出張、隠し金、政治家への不正献金、収賄がなくなる時、庶民の脱税もなくなると思います。しかしそんなことは未来永劫ないというのも私の確信です。」――この著者の一面の見方でしょうが、官僚のお手盛りやら、天下り、無駄使い、空出張、隠し金が何故行われるのか、その諸悪の根源の一つが予算準拠主義であることは、本稿vol.2「予算単年度主義の実態」(22年3月号) でも触れましたし、何故隠し金ができてしまうのかは、本稿vol.12「埋蔵金はなぜできるのか?― 徳川埋蔵金伝説から霞が関埋蔵金まで―」(23年1月号)をご覧ください。 
 
 
 
 

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