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 オーストラリア国内でビジネスを行うには、何らかの形で現地法人を設立しなくてはならないことは、前回書きました。今回は単独で現地法人を立ち上げる形態でなく、現地企業と何らかの形で提携する方法について書いていきます。
 
 

現地企業と提携するメリット

 
 この企業形態の特長は、既存の企業と提携することによって、現地法人を立ち上げる必要がなくなるため、人件費や事務所の家賃など、諸経費を大幅に抑えられることです。「既存の商材をオーストラリア国内に売り込む」 業種に適した形態と言えます。
 また、オーストラリア国内で商材販売の代理店契約を結び、不慣れなオーストラリア市場の開拓や販売促進、その後のアフターサービス、メンテナンスなどを提携先に任せられることにより、商材の品質管理や向上に専念できるというメリットもあります。
 現地企業との提携は、お互いの得意分野を完全に住み分けする方法から、「目的に応じて株式を保持し、資本投入や人員を派遣する」 という、もう一歩経営に踏み込んだ形まで多岐にわたります。
 
 

現地企業との提携は万能なのか?

 
 ビジネスを成り立たせるうえで最も難しい市場開拓を、必要最低限の経費で、現地に精通する既存の企業に任せられるので、失敗のリスクも削減できますし、ある意味、この形態が一番理想だと言えます。
 ただこれは 「※ きちっと全ての条件がハマれば」 とアスタリスクが付いてしまいます。 この 「ハマれば」 の絶対条件として、オーストラリアに進出する日本企業が求める条件を満たす企業が現地に存在することが必要不可欠です。
 日本企業が求める条件を備えた企業を探すのは、本当に至難の業です。「計画通りに物事を推し進め、約束の期日に仕上げる」――日本ではごくごく当たり前の常識ですが、これはオーストラリアでは、ほぼ実現不可能な常識です。
 
 たとえば、技術系の商材をオーストラリア国内で販売するとします。商材は製品としてそのままオーストラリアに持ち込まず、部品を持ち込み、現地で組み立てるものとします。もちろん組み立て手順や方法は、事前に日本から派遣された技術者がノウハウを教えるものとします。それでも、不思議なことに、レクチャー通りに組み立てているはずなのですが、日本では出ていた予定数値が出ないことがしばしばあります。もちろん商材によっては、気象条件や環境等によって数値が異なるのは止むを得ない場合もありますが、それを言い訳にできないほどの誤差が出るのです。
 過去に三菱自動車がオーストラリア国内で車を生産していた時期がありました。オーストラリアは輸入車に対して高関税を掛けているので、お手頃価格で手に入る “国産車” は歓迎されました。また三菱自動車の生産工場は、アデレードという田舎の地方にあったので、雇用促進、地方過疎化を防ぐ意味でも、大歓迎されていました。
 しかしオーストラリア国産の三菱自動車の評判は散々なものでした。なぜならこの車が、頻繁に壊れるからです。特に、何千と回転と振動を繰り返すエンジンの故障が、多く発生しました。
 私もこの車を持っていたので、故障の多さに悩まされました。大げさではなく1,2ヶ月に一度調子が悪くなり、その都度修理を頼むので、最終的には 「輸入車を買ったほうが安く済んだのでは」 と思えるほどでした。
 故障が多かった理由の一つとして、品質に関する認識の違いが挙げられます。エンジンの組立段階では、設計段階との誤差が出るものですが、そこには同時に許容範囲というものが存在します。許容範囲が仮に 「1mmから2mmの間」 だとします。日本で組み立てる場合には、誤差の許容範囲内ちょうど中間地点、1.5mmに合わせますが、オーストラリアの場合には、両端の1mmまたは2mmに照準を定めます。このわずか0.5mmの差が、何千回と回転と振動を繰り返すエンジン部分では命取りになり、歪みや緩みを産み出し、引いては故障を引き出し、短命に終わってしまうのです。
 
 ただ、同じ技術系でも組立の必要な製品ではなく、部品を主軸に現地企業と提携をした企業は別でした。商材となる部品は一般家庭では必要でない、特殊性の高いもので、値段は割高でしたが消耗品のため、機械を活動させるには定期的にその部品を購入する必要がありました。おかげで部品が産み出す利益は、日本サイドと現地の提携先の両者ともに満足の行くものでした。
 
 

商材がサービスの場合は注意を

 
 余談ですが、製品として形のあるものを商材として提供して成功した例はありますが、形のない 「日本式のサービス」 を商材とすると、成功例がほとんどありません。オーストラリアでヒットするのは、国内にはない、日本的な “かゆいところまで手が届く” サービスです。これは 「すごい」 と評価されます。この部分を無視して、“日本式” という看板だけを掲げても、一時期は繁盛するかもしれませんが、その後長続きはしません。形のない 「日本式のサービス」 を本当に商材にするのであれば、現地法人を設立し、直接オーストラリアに乗り込むのが最良と言えます。 
 
 現地企業との提携は、お互いに弱点を上手くカバーし合い、利益を享受するのが目的です。どちらか一方が満足するだけでは、ビジネスは長続きしません。「両者が満足する結果を出し続ける、ウィン・ウィンの関係」――それが現地企業との提携を成功させる秘訣でもあり、反面、難しさでもあります。
 
 
 なお、今回述べたケースはあくまでも一例であり、事業者や各企業によって事情は異なります。「この業種だから絶対にこの会社形態でなくてはだめ!」 ということはありません。進出に関しては、私たちコンサルタントのような専門家とよく話し合い、経営方針に沿ったベストな選択をされてください。
 
 
 
 
  南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第19回 現地企業との提携という選択肢
 

 執筆者プロフィール  

永井政光 Masamitsu Nagai

NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント

 経 歴 

高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。

 オフィシャルホームページ  

http://www.nmaust.com/

 ブログ  

http://ameblo.jp/nm-australia/

 
 
 
 
 

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