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 オーストラリアに進出した日系企業は、多かれ少なかれ、現地人の勤労に対する姿勢に戸惑いを持つでしょう。これは何も特別なことではなく、逆にオーストラリアの企業が日本に進出すれば同じような戸惑いを受けるはずです。企業が外国に進出する際に起こりえる永遠のテーマ ――現地人従業員との共存。今回はこのテーマについて書いていきます。
 
 

現地人の雇用は必要不可欠

 
 現地で人を雇い入れる側の日本企業がオーストラリア人の文化や勤労に対する姿勢に理解を示すべきなのは当然ですが、中には日本人の考えからは受け入れがたい事柄もあります。「日本では考えられないが、現地では当たり前」 ――その妥協点を模索することに苦労します。実際に、日本人とは異なり、自己主張の強い現地の人間とのちょっとしたトラブルは日常茶飯事です。
 
 「オーストラリアにはビジネスチャンスが広がっているが、現地人との面倒なやりとりは避けたい」 ――これはかなり虫の良い話で、この苦労を避けたいのであれば、オーストラリアに進出するべきではないと私は考えています。ただ現地の日系企業の中には、この面倒を取り除く方法として、従業員をオール日本人で固める企業もあります。この方法だと、経営者は日本式のやり方でも従業員との軋轢が最小限に抑えられます。「それで万々歳ではないか」 ――確かに、一見、日本人経営者にとっては最良の方法と思えなくもないのですが、この方法は設立当初こそうまくいっても、後々様々な問題が発生する可能性を残します。
 まず、有能な人材を確保できない。日本人、しかも永住権保持者のみに限られた求人枠では、優秀な人材をオーストラリア国内で確保することは非常に困難です。また、就労ビザを発給しようとしても、近年一段と取得までのハードルが高くなったため、業績は伸びたけど人材確保が追い付かないという最悪のケースに発展することもあります。
 次に考えられるのは、ビジネス展開の可能性や、将来性が限られてしまうケースです。現地で生まれ育った日本人ならともかく、我々日本人の英語は、ネイティブスピーカーに比べれば、たかが知れています。日本語対応で、日本人社会のみのビジネスでは市場が限られてしまい、すぐに天井が見えてしまいます。また、日本人社会のみを対象としていると、日本の景気の波に翻弄されてしまい、安定した会社経営が行えなくなります。
 
 現地に深く根を下ろして、安定した会社経営を続けるには、現地への融合は必要不可欠です。そのために、英語のネイティブスピーカーで、文化や時事に詳しい現地人を採用することは避けて通れない選択なのです。
 
 

現地の雇用者との揉めごとを最小限に抑える

 
 現地人の雇用は避けては通れず、それには必ずストレスが伴います。ただ、ストレスを最小限にすることはできます。その意味で、ビジネス立ち上げ時には日本人従業員で固め、次に比較的文化や考え方が近い東アジアの従業員を採用し、最後にオーストラリア人を雇用するやり方は悪くないでしょう。徐々に現地化を推し進める方法であれば、規模が限られている日本人市場にとどまらず、最終的に現地市場に食い込むことができます。
 生まれも育ちも違う現地人の雇用には、予想しえないストレスを感じることも多々あります。本来であれば業績を上げるために労力や時間を使うところを、内部統率に翻弄されてしまうようだと、うまくいく仕事もうまくいかなくなってしまいます。「急がば回れ」 の諺があるように、まずは 「現地の風習に慣れる」 ことも、オーストラリアでビジネスを成功させるには必要です。
 
 オーストラリアに限らず、海外は契約社会です。日本であればわざわざお金を払ってまで作成する必要がない小さな事柄でも、何十枚もびっしりと書かれた契約に接することがあります。もちろん被雇用者が企業と契約する際には、それこそ箸の上げ下げまで明記したような、細かな契約書を手渡されます。契約書には一般的な内容の他に、ジョブディスクリプションと呼ばれる、その役職ごとに細部まで明記された業務内容も含まれています。
 ただ、オーストラリアに進出している日系企業の多くが、この契約書を軽視する傾向にあります。実際に相談を受けた際に、某企業が従業員に渡している契約書を見て愕然としました。わずか2~3枚の契約書に一般的な内容が書いてあるだけで、契約書はすべての従業員に対して一律同じ。ポジションや業務内容に合わせた契約書はありませんでした。契約者がイエスともノーとも取れるあいまいな表現でアバウトに記載されていたので、従業員はそれを自分に都合良く解釈してしまい、社長は後々、「これでは会社が成り立たなくなる」 と悲鳴を上げることになってしまいました。
 契約書の作成は専門家に依頼をするので余分な出費を強いられます。ただ、「転ばぬ先の杖」 ではありませんが、オーストラリアでビジネスを成功させるには、内部のリスク要因から会社を守る必要性もあります。契約書の重要性を理解されてください。
 
 

毅然とした態度

 
 海外での日本人の評価を聞いてみると、「まじめで勤勉」 「信頼できる」 などなど、比較的ポジティブな評価を耳にします。ただ、この言葉を額面通りに取ることはできません。裏返すと、「扱いやすい、交渉しやすい」 との意味になり、「タフで、したたか」 など、海外で生き残るのに大切な要素が含まれていないと気付きます。もう少し乱暴に言えば、「なめられている」 ――これが日本人の現状です。
 不思議なことに、日本人の経営者や上司は、同じ日本人に対してはかなり強く対応するのですが、相手が現地の人間、特に白人になってしまうと、とたんにトーンダウンしてしまいます。実際にあった話ですが、日本人の従業員が電車の遅れで遅刻してしまいました。その人は遅れる旨を会社に電話していたのにも関わらず、会社に到着と同時に、30分くらいのお説教を食らいました。遅れた時間は5分くらい。お説教は30分。個人的には、遅刻に対するお説教の時間が長すぎるようにも思えます。ただ、こんな強面の上司も、現地従業員が連絡もなしに30分近く遅れて出社して来た際には、「おはよう~ どうした?」 「電車が来なかったので」 「そうか」 と、ほんのいくつかの会話を交わしただけで、無罪放免でした。
 
 その他にも、日本人が権利として休暇を申請すると、「長すぎる」 とか 「繁忙期だからずらしてくれ」 と素直に受理されない場合があります。これが現地の人間ですと、「どこに行くの? 楽しんできて」 と全く異なった回答が来たりします。これでは現地の人間になめられるどころか、能力のある日本人も不満を募らせ、会社から去る原因の一端に成りかねません。
 私は、おかしな点は然るべく指摘し、時にはお説教も必要だと思います。ただその場合には、人種や国籍にかかわらず、公平であるべきです。また、時に現地の人間から理不尽な要望を受けた際には、毅然とした態度で接することも必要です。あいまいな返事ではなく、「イエス、ノー」 の意思表示を明確にする。これがオーストラリア人と接する最良の方法です。
 
 
 
次回はオーストラリアに進出するにあたり必要な準備を、具体的に書いていきます。
 
 
 
  南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第17回 現地人の従業員との共存につい
 

 執筆者プロフィール  

永井政光 Masamitsu Nagai

NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント

 経 歴 

高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。

 オフィシャルホームページ  

http://www.nmaust.com/

 ブログ  

http://ameblo.jp/nm-australia/

 
 
 
 
 

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