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第12回 日本とオーストラリアの運輸・物流業界の違い

 
 
 
 日本では時間指定の宅配や、冷凍保存郵送などは、ごく普通に享受できるサービスです。今更ながら私が説明をする必要もありません。
 かたやオーストラリアはと言えば・・・ そもそも荷物が無事に届くかどうかのレベルです。日本からの船便などは運任せで、届かなくても 「仕方がない」 と自分を納得させるしかありません。そんな状況ですから、日本では郵便局で気軽に頼めるクール宅急便での生鮮類の郵送などは、夢のまた夢です。冷凍保存郵送などはクーリエ(国際配達便) や業者専門を除いて、一般家庭向けのサービスでは聞いたことがありません。おそらく初めてこのオーストラリアに足を踏み入れた日本人は、サービスの少なさ、ずさんさを驚くでしょう。
 
 

競争の原理が、日本ほど激しくない

 
 「10年ひと昔」 と言いますが、オーストラリアの運輸・物流業界では、10年前も今も、あまりサービスの質の向上やバラエティーに進歩がみられません。 
 なぜ進歩しないのか。
 その理由は競争原理が働いていないことにあります。日本では各企業が生き残りをかけて、あの手この手で顧客を獲得しようと躍起になっていますが、オーストラリアは競争の原理が、日本と比べて働いていません。市場が小さいゆえに外資が本腰を入れてオーストラリアに進出してこないという理由もありますが、一番はオーストラリアの地理的条件にあります。この国は周りを大海に囲まれ、ヨーロッパ、アメリカ大陸はもちろんのこと、アジアの主要都市へのアクセスも容易ではありません。この地理的条件(不便さ) が、良くも悪くも外圧からオーストラリアを守る盾となり、国内産業が熾烈な競争を必要としない土壌を作り出しています。
 
 

オーストラリアの物流業界の現状

 
 日本でもオーストラリアでも郵便局は物流業界のトップとして君臨しています。特に日本の物流システムの統一性は素晴らしく、安心して全国共通のサービスを受けることができます (ただし、窓口などの接客・応対は人間が対応しているため、個人的な主観で多かれ少なかれサービスの質にばらつきを感じる場合もあるかもしれません)。オーストラリアも表向きは全国共通のサービスを受けられるのが前提ですが、日本と比べて配達方法や荷物紛失の際のクレーム処理等のサービスの均一性にばらつきが出てしまっています。
 たとえば、小包を郵送したとします。通常であれば担当者が玄関口まで配達し、不在の場合には最寄りの郵便局名を記載した不在票を置いていきます。これは我々日本人からすれば、ごくごく当たり前の行動で、郵便局に来させるのではなく、当日の再送も当たり前です。
 しかし、オーストラリアはこの当たり前の業務が機能していません。配達の担当者が呼び鈴も押さず不在と決め込み、不在票だけ置きそのまま退散。こちらが不在票に明記された届け時間を確認すると、「この時間は自宅に居たぞ」 ―― そのようなケースにもしばしば遭遇します。
 
 さらにひどい場合には、不在票を受け取り、指定された郵便局に出向いたものの、荷物が見つからず30分以上待たされたうえに、「あなたの荷物はここにはない」 と冷たく言い放たれたケースがありました。「では私の荷物はどこにあるのか」 と問い詰めると、肩をすぼめて 「たぶん配達の人間が持って帰ったのかもしれない。わからない。明日には来るのではないか」・・・怒りを通り越して呆れかえる回答が返ってきました。
 
 これはまだ普通の小包なので仕方がないと思えますが(日本では思えないでしょうけれど)、私は過去にEMSという国際スピード郵便を利用してとんでもないトラブルに見舞われたことが数回あります。
 EMSは番号を発給されるので、安全かつ、現在荷物がどこにあるのか追跡することが可能な郵便システムです。私はオーストラリアのずさんな郵便事情を理解しているので、重要な荷物は当然EMSを利用していました。 
 ある時、業務上どうしても必要なソフトを日本からEMSで空輸した時のことです。通常であれば1週間程度で手元に届くのですが、この時は2週間以上経っても届きませんでした。これはおかしいと判断し、インターネットで今荷物がどこにあるのか検索すると、なんと!!驚くことにすでに 「配達済み」 になっているではないですか。
 受取人の名前を確認すると、「キャサリン」 となっていました。社内にキャサリンなる人物は勤務しておらず、当然オーストラリアの郵便局にクレームの電話を入れましたが、担当者に繋がるまでに5回はたらい回し。やっと繋がったと思えば 「受理済になっているから我々の責任ではない。キャサリンが受け取ったのだろう」 とのらりくらりと言い訳をしていました。こちらも負けてはなるかと 「EMSの国際ルールに則り弁償しろ」 とやり合い、すったもんだの末に、なんとかソフトの代金を弁償してもらいました。
 
 この話には続きがあり、それから半年後、郵便配達員が、バツが悪そうにぼろぼろになった小包を届けに来ました。そう、それが半年前に行方不明になっていた小包でした。
 
 

なぜオーストラリアの物流業界ではミスが多発するのか

 
 こうなる理由を一言で片付けてしまえば、国民性としか言いようがありません。そこまで言い切ってしまうのは少し乱暴かもしれませんが、オーストラリア人は仕事に対する使命感や責任感が日本人に比べて希薄です。良く言えばイージーゴーイングですが、面倒ごと(もしくは残業など) に巻き込まれたくないという意識からか、責任逃れをする傾向も強いです。問題が発生した際には、これは物流業界に限らず言えることですが、運良く真摯に問題解決に対処してくれる担当者に当たるまで(オーストラリアにも真面目な人はいます)、たらい回しにされてしまいます。
 また以前、依頼を受けて企業調査を行いましたが、ここでも 「簡単に防げるミスなのに、どうしてやらないのか?わざと間違えているのか?」 と思うミスもありました。
 たとえば、荷物の発送をする際のトラックを手配します。そのトラックが指定された朝の6時に荷物の受け取りに来ました。工場の就業開始時刻は6時半だったので、当然工場には誰もおらず、トラックは待ちぼうけ。6時半過ぎに従業員がちらほら現れたものの、積み込む荷物などは用意されていません。結局トラックは積荷を積まずに、空のまま戻っていきました。
 その原因を突き詰めると単純な行き違いです。オーダーする側は 「夕方6時」 のつもりでFAXを送りましたが、受け取り側は 「早朝6時」 と勘違いして悲劇 (喜劇) につながりました。これはオーダーをする際に、時間表示を12時間表示から24時間表示に変えるだけで簡単に防げるミスです。このつまらないミスのために、料金を2倍払わなくてはならなりませんでした。
 
 また製造元から工場へ送られてくる品物と工場が製造元に発注した品物が違うことが多いのにも驚きました。しっかり数えていたわけではありませんが、5回に1回は全く異なる品物が届いていました。この大きな理由は、同じ商品について、製造元と工場とで異なる発注番号を使用し、統一性がなかったからです。どちらかが歩み寄り、共通の番号を使用すれば、ミスの確率がぐっと減るはずです。
 
結論「オーストラリアの物流業界で成功するために、特別なサービスをする必要はない」
 
 オーストラリアの物流業界で成功するために、何か特別なサービスを用意する必要はありません。日本でごく当たり前のサービスを、つまり時間厳守・迅速配送などの、今現在行なっているサービスを持ち込むだけで、評価はうなぎ登りになります。世界的に見て、日本の運輸・物流業界における時間厳守や、多岐多様にわたり充実したサービスは、外国人の目から見れば異様に思えます。「市場が大きいが、競争相手が手ごわい国」 か、「市場は小さいが、競争相手が存在しない国」 か。そう考えた時、一見ぱっとしない国ではありますが、ライバルが存在しないため他国よりも楽に勝利できる国。それがオーストラリアです。
 
 
 
 
「オーストラリアはつまらない」「娯楽が少ない」―― 日本から来られた方々が良く口にされる言葉です。確かにこの国は娯楽が少なく、飲食店はラストオーダーが21時という地域も多く存在します。次回はオーストラリアの娯楽ビジネスについて書き進めたいと思います。
 
 
 
  南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第12回 日本とオーストラリアの運輸・物流業界の違い
 

 執筆者プロフィール  

永井政光 Masamitsu Nagai

NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント

 経 歴 

高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。

 オフィシャルホームページ  

http://www.nmaust.com/

 ブログ  

http://ameblo.jp/nm-australia/

 
 
 
 
 

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