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Jリーグ鹿島アントラーズのC.R.Oとして、クラブとスポンサー、サポーター、行政機関などのステークホルダーの間に立ち、ビジネス面でクラブをサポートする業務にあたっている中田浩二さん。このシリーズでは中田C.R.Oの日々の仕事ぶりに加え、リーグ最多のタイトル獲得数を誇る鹿島アントラーズがどのようなクラブ経営を行っているのかを、インタビュー形式で中田さんに語ってもらいます!
 
 

「常に勝つ!」がクラブを支える伝統

 
――来月からいよいよ、リオデジャネイロオリンピックが始まります。中田さんも仕事でリオに行くと聞きました。
 
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そうなんですよ。サッカーの試合解説の仕事をしてきます。解説のために、現地でU23日本代表や彼らが対戦するチームの練習見学などもする予定です。当初、これは僕個人へのオファーだったのですが、クラブに相談したところ不在期間が1ヶ月と長期にわたることから、会社業務の一環として行かせていただくこととなりました。選手とは違う立場で大規模な国際大会を経験するのは初めてなので楽しみです。アントラーズのC.R.Oとしての立場も自覚しつつ、体験したことをクラブにも還元できるような経験をしたいですね。
 
――ところで、Jリーグの1stステージはアントラーズが見事優勝しましたね。
 
ありがとうございます。でも、今のJリーグは2ステージ制なので、年間王者を決めるチャンピオンシップの挑戦権を取っただけ。何かを成し遂げたというには、まだ早い。選手もそのあたりはよくわかっていると思います。僕も裏方でクラブを支える役ですから、年間優勝に向けてサポートを続けたいです。
 
――リーグ戦のタイトル奪取は2009年以来とは言え、そのおごりのなさはリーグで最も多くのタイトルを獲得しているクラブならではという感じがします。
 
アントラーズがなぜこれだけタイトルを獲得できているかというと、やっぱり、クラブの前身である住友金属工業蹴球団時代からJリーグ創世記まで、選手としてチームに所属していた元ブラジル代表のジーコの影響が大きいと思います。ジーコは勝利に執着する人でした。どんなにいい内容の試合をしても勝たないと意味がない。その、「常に勝つ」というジーコイズムがクラブの伝統的なポリシーになっているんです。
 
選手たちも自分が満足できるプレーをするだけでなく、チームが勝つために何ができるのかを考えて動くことが求められている。だから、チーム内でも常に、激しいレギュラー争いがある。世代交代をしてもそのポリシーが根付いていることが、強さを維持し続けるためには必要であると考えます。
 
 

現場とフロントの距離が大事

 
――それは現場で仕事をする選手や監督、コーチだけでなく、クラブ運営に関わるフロントまで全員がそうした意識でいるからこそ成り立つものなんでしょうね。
 
その意思統一を助けるという意味で、練習場とクラブハウスが同じ敷地内にあるのは、大きいと思います。物理的な距離が近いと、選手とフロントのスタッフ間でコミュニケーションが自然と増えますからね。場所が離れているとお互いが普段、どんな活動をしているのかってわかりづらい。これはサッカークラブに限らず、どの企業でも同じことだと思います。
 
例えばですけど、契約交渉時にフロントが「今は赤字でお金がないから、今年は年俸アップできないよ」と選手に言ったとします。選手としてみれば、「俺らは頑張って試合に勝っているでしょ? フロントは何にお金使ってきたの?」と感じるかもしれない。これは、いい状況ではないですよね。そう考えるとやっぱり、同じ敷地内でみんながお互いの状況を把握しているというのは大きいことです。
 
僕は現役の頃から、クラブハウスの事務所にたまに顔を出していました。別にお金の流れに目を光らせていたわけじゃないですよ(笑)。でも、顔を出すだけでも、「あ、スタッフさんがまた増えているな」とか、気付くこともありますからね。
 
――確かに、部署間の距離が近いって大事ですよね。それにしても、アントラーズのホームタウンである茨城県南東部の鹿行(ろっこう:鹿嶋市・潮来市・神栖市・行方市・鉾田市の5市で形成)地域は人口もそう多くはないですし、クラブ運営には難しい土地だと思います。それでもJリーグがスタートして以来、常に人気のあるクラブで、実績も残しているところがすごいですよね。
 
カシマサッカースタジアムを軸とする30km圏内の人口が70万人くらい。確かに関東の他のチームに比べるとあまり恵まれた立地ではありません。だからこそ、アントラーズは勝ち続けることによって存続してきたクラブです。でも会社としては、たとえ勝てない時期があっても、サポーターの数を維持できて収入も上がっているほうがいいですよね。その部分は企業努力として当然取り組むべきことです。
 
 

危機感を持って事業を運営

 
――その企業努力の面で、アントラーズは他チームの先を行っている部分が多いのでは?
 
確かにアントラーズはJリーグが始まって以降、クラブの成功モデルの1つとして見られてきたと思います。でも、「クラブの将来は、決して約束されていない」という危機感も、常に持ってきました。それは、自分がフロント業務についてみて、より感じる意識です。もし試合に勝てなくなってお客さんが集まらない状態が続いてしまうと、この地域でクラブを運営するうえでは、命取りになってしまうんです。
 
――そうならないためには、クラブとしてさらに安定した基盤をつくっていかないといけないといけないでしょうね。
 
そのために考えられたのが、「ビジョンKA41」です。これはクラブ創設20周年の2011年に掲げた経営ビジョンで、現在はそれに則った運営が進んでいます。リーグの成績だけに左右されず、真に人気のある、地域に深く根ざしたクラブであるために、スタジアムを中心とした街づくりを目指す。そして、鹿行地域のシンボルとしてアントラーズを発信していく。その取り組みが地域に活気を生み出していくような、地域に貢献し得るクラブになるのがアントラーズの使命でもあるわけです。
 
――では、次回から「ビジョンKA41」の具体的な内容と、その取り組みについてうかがっていきますので、引き続きよろしくお願いします。
 
    中田浩二が語る、常勝軍団の育て方
vol.1 地域に深く根ざしたクラブであるために
                               (取材:2016年7月)

 著者プロフィール  

中田 浩二 Nakata Koji

株式会社鹿島アントラーズFC C.R.O

 経 歴  

1979年7月生まれ。滋賀県大津市出身。1998年、帝京高校から鹿島アントラーズに加入。数々のタイトル獲得に貢献した。2005年にフランスのマルセイユに移籍。2006年からはスイスのバーゼルで活躍し、2008年に鹿島に復帰する。2014年に現役を引退。日本代表では1999年の FIFAワールドユース選手権で準優勝、黄金世代の1人として注目を浴びる。2000年シドニーオリンピックU23代表、2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップでも代表選手として大会に臨んだ。J1リーグ通算 266試合33得点、国際Aマッチ57試合2得点。現在は鹿島のC.R.Oとして多方面で活躍している。著書に『中田浩二の「個の力」を賢く見抜く観戦術―サッカーが11倍楽しくなる!』(ワニブックスPLUS新書)がある。

 鹿島アントラーズオフィシャルサイト 

http://www.so-net.ne.jp/antlers/

 ツイッター 

https://twitter.com/nakata_cro?lang=ja

 
 
(2016.7.20)
 
 
 
 

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