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イノベーションは、一人の単純な「気づき」から生まれる。<5の4>

 
――アメリカを反面教師としつつ、目先のことに振り回されずシッカリと足元を見て歩くことの重要性を説く4回目。「GMは国策に溺れた」としたうえで、前回に続き経営者の責任について考える。
 
 
■経営者の根性と勇気がいる
 
(9月号からの続き)・・・ とは言え、日々の戦いの中で経営の中心位置にあるのが品質とコストである。この両者は「アチラを立てればコチラが立たない」という二律背反が起る。この矛盾は収益に直結しており、いつの時も矛盾の原因を徹底追究しておかなければ、少しの気の緩みで収益に甚大な損失が発生する。
 
 ここで、コストと品質の二律背反の関係について考えてみたい。
 コストカットは、財務を短期的にみると収益を確保するのに有効であるが、中長期的なスパンでは企業の安定成長に弱体化が起こりかねないという、両刃の剣である。弱体化とは、一つには社内のモチベーションの低下であり、一方でそれはさらに「技術の革新性がなくなる」という重大な欠陥を引き起こす。
 たとえば、必要以上のコスト削減は品質低下を起こしやすく、品質低下は社員のモチベーションを低下させる要因の一つになり、そうすると企業はいずれ「収益性悪化スパイラル」に嵌まる。
 モチベーションという動機は、良い商品を作って、世の中に貢献しているという高い精神性があるから維持・持続できるものである。そのモチベーションが下がれば、人の心や気持ちは、目に見えないところから蝕まれていく。つまり、経営者がヒューマンパワーの重要性を分からないと、経営方針・指針のすべてが「絵に描いた餅」になる。
 先の7.8月号にも書いたとおり、経営陣が問題に気付いたときには、すでに消費者離れが起こっており、主力商品・サービスは、市場から姿を消している結果になりかねない。
 
 マーケターは、消費者(市場)と試験研究と商品開発を結びつける役割を果さなければならないが、マーケターが藪にらみになっているケースが多い。見方によっては、世の中の変化に「気づく」ことがないとも受け取れる。
 大企業の多くはマスをターゲットにした商品開発をしているが、先進国である日本国民が発展途上国のように消費を活発化することはもはや見込めない。日本国民のトレンド・風潮は、すでに大量消費の生活様式を卒業して文化・芸術を大切にした生活様式に切り換わろうとしている。その答えが、一つには少子高齢化という道へ歩む風潮に現れている。
 文化的・芸術的志向と少子高齢化の因果関係を正確に報告している文献は見当たらないが、私は1800年代初頭にイギリスで起きた産業革命以降のヨーロッパの歴史を検証すれば因果は容易に見て取れると考えている。
 すなわち文化・芸術を大切にしていこうとする国民は、モノを大切に使って生きようとする。このことは時間軸にも空間にも現れる。たとえば、親から子へ、子から孫へと代々で物が使い続けられ、特別な職人の技は伝承されていく。そうした時間軸での現れが伝統工芸になり、さらには芸術になり文化に昇華される。また、空間をデザインするのは建築やディスプレイに代表されるが、これもまた美への憧れからであり文化に結びついていく。
 モノを大量生産して大量消費するという「モノの経済」から、無形のサービスであるところの「心の経済」に移行すると、時間も空間も、すべてを超越できる経済が生まれるようになる。つまり「モノの経済」は必ず「心の経済=コトの経済」に移行すると考えるのが正しい。
 ところが今、日本は国を挙げて“国内需要喚起”のシュプレヒコールである。国内需要喚起は、モノの経済を中心にした政策スタンスであり、サービスを中心にした総生産を志向するスタンスではない。だが、日本政府が取り続ける「モノを中心にした経済政策」に矛盾のあることを誰も言わない。
 
 

橋本英夫 イノベーション基礎学 ハッピー

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