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著者近影
 皆さんこんにちは。ガラスデザイナーの川上麻衣子です。私は女優としての活動の他、ガラスデザインの仕事も続けています。ガラス工芸は私のライフワーク。今回は短期集中連載ということで、ガラス制作にまつわる私の体験から、もしかしたら皆さんのお仕事のヒントにしていただけるかもしれないお話をしていきます。全3回、どうぞよろしくお付き合いください。
 
 

ガラスづくりは意外な展開の連続

 
 ガラスの工法はいろいろありますが、きっと皆さんがイメージするのは、工房で職人さんが、先に真っ赤に溶けたガラス玉を付けた吹き竿に息を吹き込みながらくるくる回して、器をつくっている様子だと思います。このいわゆる 「吹きガラス」。私もデザインを試作する際は工房に入って職人さんと一緒に吹きますが、吹きガラスは本当に、瞬間の判断の連続なんです。「やってみたら全然違う形になった」 なんて、ザラにあるんですね。そんな時、デザイン画の通りに戻せるかっていうと、陶器と違ってガラスは無理。じゃあどうするか?
 
 人によってやり方は違うと思うけど、私はその偶然性を利用するタイプです。違ってきたら違ってきたで一度つくってみてから考えます。「後戻りできない」 からこそ、意外性を積極的に評価するんです。私の場合は素材が制約してくることではありますが――と言いながら、そのほうが自分の性格にも合ってるんですけど(笑)――、皆さんのお仕事も、描いていたイメージに固執するより出てきた展開に乗ったほうがうまく行くことって、あるんじゃないでしょうか。
 
 

芯がしっかりあれば自由度は広くていい

 
 もちろん、「ここは譲れない」 っていうこだわりは、作品ごとにあります。芯がずれていたら根本的な問題なので、何度でもやり直します。職人さんから 「何でそこにこだわる?」 って思われることもありますね(笑)。それでもやり直しに付き合っていただいて、最終的に 「譲れない芯」 と意外性がうまく合わさった作品に仕上げていくんです。
 
 そこは職人さんとの相性もありますし、こちらが意図をどう伝えているか、それがどう受け取られるかの、コミュニケーションの問題です。実際私も、「このイメージはこう伝えればこの職人さんはこうつくってくれる」 とわかってきてからは、こだわるところにこだわりながら、その都度の意外な展開を活かせるようになりました。
 
 「やってみないと」 っていう状態を怖がりすぎないことが大事なんでしょうね、きっと。そのために、その作品についての核を、自分の中にちゃんと持ってないといけないと思います。そうでないと、コミュニケーションの問題以前に、職人さんの側にもイメージが喚起されませんから。「それおもしろいな。やってみたいよ」 と感じて私のイメージに入ってきてもらえるようでないとダメ。私の場合は、大学から出たわけでも徒弟制の中から出てきたわけでもなく、遠い北欧のデザインにすごく影響を受けているので、発想が日本の方と違うところがあるみたいです。それが強みだと思います。「これは俺たちからは出てこないなあ」 って職人さんに思ってもらえる意外性を、持ち続けたいですね。
 
 

ギャップを乗り越えるたくましさ

 
 ちなみに、ガラス工芸の世界はここ10年ぐらいでだいぶ変わっています。もともとは職人の、男性の世界で、徒弟制度の中で鍛えられて出てくるのが普通でしたが、美術系の大学で吹きガラスを教えるようになって、ガラスデザイン科もできて、徒弟制度以外のところから作家やデザイナーが育ってくるようになったんです。すると、女性が増えてきたんですね。おもしろいことに(笑)。
 
 ガラスづくりの現場は、工房は暑いわ、材料は重いわ、服は汚れるわで、すごくタフな世界です。そうすると、男性のガラス作家志望者はだいたいの方がくじけちゃうんです。辛抱が利かないというか、自分の思い込みからどうしても抜けられないというか。完成したガラスの繊細で美しいイメージと制作現場とのギャップに、対応できないんでしょうか。その点、女性はたくましいですよ。体力的と精神的、両方の意味で。
 
 「強い」 ということで言えば、ガラスも、実は強いです。たとえば、陶器は欠けるでしょう。でも、ガラスって、割れることはあっても、欠けることはなかなかありません。しかも、おもしろいことに、薄いガラスほど強いんです。意外でしょう? どうしてなのか、その理由は次回、私が大好きなガラスの 「凛とした強さ」 とあわせてお話しますね。
 
 
(構成:編集部) 
 
 
 
透明なチカラ ~あるガラスデザイナーの工房から~
vol.1 イメージ通りにならなくても

 執筆者プロフィール 

川上麻衣子 Maiko Kawakami
ガラスデザイナー/女優

 経 歴 

スウェーデン出身。インテリアデザイナーの両親のもと、幼少期からスウェーデンと日本を行き来して過ごす。14歳でテレビドラマに出演し、『3年B組金八先生』の生徒役で一躍人気者に。映画『でべそ』では第6回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞を受賞。女優業と並行してガラスデザイナーとしても、北欧のガラス工芸に影響を受けた作風で定期的に作品を発表。2005年からは隔年で個展を開き、旺盛な創作活動を続けている。

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