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コラム ドクターの手帖から vol.3 医療にも協働作業の時代が来ている ドクターの手帖から  メディポリスがん粒子線治療研究センター長/医師

コラム
 
抗がん剤や手術に加え、最新のがん治療として認知されつつある新しい放射線治療――「粒子線治療」。その第一人者である菱川良夫医師が、医師と患者の“共闘”の中からポジティブなドラマを語る連載、第3回です。
 

粒子線がん治療施設で初のJCI認証

 
 今回は、医療の現場である病院も、医療を受ける患者さんも、ともに変化の時代を迎えているというお話。キーワードは「考えること」そして「責任を持つこと」です。
 
 政治、経済や文化においてグローバル化が言われて久しい中、医療の現場でも近年、国際標準への適応の必要性を説く声が大きくなっています。医療の国際標準化とは、医療行為の水準だけでなく、医薬や医療機器など幅広い分野に関わるものです。そしてさらに、海外から日本を訪れる人たちへの対応も課題の一つ。つまり、人の移動が活発になる中で、日本語を話せない外国人の患者さんでも、日本の病院で安心して医療を受けられる体制づくりが急がれています。
 
 そんな日本の医療の変化を示す一例が、医療施設によるJCI(国際的な医療施設の認証機関)の認証取得です。JCIは、もともとアメリカで始まった、医療施設を中立な立場で審査・評価する活動の国際版。本部のあるアメリカでは、JCI認証の有無によって保険の支払いに差がつくため、外国に行った際も、JCIの金のロゴマークが掲示されている病院を選ぶことが一般化しています。
 
 前置きが長くなりましたが、私が勤務する鹿児島県指宿市の「メディポリスがん粒子線治療研究センター」も、このJCI認証を外来施設として2013年10月に取得しました。国内では8番目(現在10ヶ所)、粒子線によるがん治療施設では世界初のこととなります。
 
 

病院の安全性への課題意識を新たに

 
 JCIから認証されるためには、本部から派遣される専門の看護師らによる、厳しい審査にパスしなければいけません。これが大変難しい。費用もかかりますし、スタッフの協力と共通理解を高めることも容易ではありませんでした。
 
 一番に求められるのは、病院(医療)としての、さらには施設としての安全性です。たとえば、手洗いの徹底。もちろん医療関係者として普段から清潔を心がけてはいますが、爪の先まで一定の手順に従ってまんべんなく洗えているかを間近でチェックされると、さすがに緊張しました。各スタッフに口頭で質問をすることもあって、「今ここで火事が起きたら、あなたはどう対処しますか?」といった様々なリスクに関する設問に、的確な判断をしてすらすらと答える必要があります。
 
 また、ロビーなどに置かれている植木が、患者さんの動線に張り出しているとみなされると、安全な場所に移動させます。ちゃんと通路の脇を選んで置いたつもりでも、審査の担当者は「これだと患者さんが足を引っかけやすい」と、私たちが気付かない問題点まで目を配っていました。正直、ここまでするのかと思いましたね。
 
 このような細かい改善を積み重ね、晴れて認証を取得するまでに2年かかりました。この短くはない時間が、国際標準化というハードルの高さを表しています。JCI認証は一度取得したらそれきりではなく、更新制です。次は3年後。すでにチームを作って、更新に向けた準備を始めています。経験して痛感したのは、病院の安全性は、外から与えられるものではなく、自分たちで考えて高めていくものだということ。これで大丈夫と安心せず、常に課題を持って行動することが大切だと改めて教えられました。
 
 

医師と患者の「協働作業」に向けて

 
 さて、JCIから学んだ、自分で考え、行動するという姿勢は、これからの医療において、医師と患者さんの双方に強く求められるのではないでしょうか。
 私はよく、アメリカの作家・ジャーナリストであるノーマン・カズンズの言葉を引用してお話しします。それは、難病治療には患者さんと医師の「協働作業」が重要である、というものです。前回のコラムで触れた「治る」という気持ちを持つことも、この協働作業に患者さんが主体的に取り組むことにほかなりません。
 
 セカンドオピニオンの権利を行使することも同様です。病気になったら病院に行って、どうするかは医師にすべて任せるという旧来のあり方を考え直す必要があります。患者さんも自分で調べ、考え、医師が示す選択肢の中から、自分で治療法を決めるという時代が訪れている。言い換えれば、医療の協働作業への参加とは、患者さんも自分が受ける治療に対して責任を持つ、ということです。厳しいようですが、自分の体について真剣に考えを重ねることが、よりよい生き方にもつながると私は確信しています。
 
 もちろん、私たち医師が重い責任を負っていることはこれまで通りです。私はがんの患者さんに治療法を提案する時、その治療を自分の家族に受けさせられるかどうかで判断しています。親や妻、子どもに対してもこれが最善の方法だと言えなければ、目の前の患者さんに勧めることなどできません。医師は医師として、できるだけのことをします。だから患者さんにも、必ず治るために覚悟を決めていただきたいのです。共に考えましょう、共に闘いましょう。 
 
 
 
 
 ドクターの手帖から
vol.3 医療にも協働作業の時代が来ている 

 執筆者プロフィール  

菱川良夫 Yoshio Hishikawa

メディポリスがん粒子線治療研究センター長/医師

 経 歴  

1974年、神戸大学医学部卒業。医学博士。放射線科専門医としてキャリアを積み、90年にヨーロッパ放射線治療学会小線源治療賞を受賞。2001年から2010年3月まで兵庫県立粒子線医療センター院長を務め、2010年4月から現職。神戸大学客員教授、鹿児島大学客員教授、順天堂大学客員教授を兼任。粒子線治療の第一人者として普及啓発活動に力を注いでいる。著書に『「がんは治る!」時代が来た』

 オフィシャルホームページ 

http://www.medipolis-ptrc.org

 フェイスブック 

http://www.facebook.com/yoshio.hishikawa

 ブログ 

http://ameblo.jp/ptrc

 
(2014.7.9)
 
 
 

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