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映画は喧嘩や。ビジネスもそうやないんかい ―― 映画監督・井筒和幸が私的映画論にからめて、毎回一つのキーワードを投げかける。第6回は 『荒鷲の要塞』 (1968年・アメリカ) から、“戦友”。
 
 
 ボクの『黄金を抱いて翔べ』はもう見に行ってくれたかな? 何やて? まだ? DVDが出たら見るって? ふざけてたらアカンで、んまに~。劇場に行って! 行って! 絶賛やってるから! ガツンとくるよ、特に、男子は、これ見たら絶対に生き方が変わるから。女子は、今の付き合ってる男が頼りなくなって捨ててしまうかもって、いやそれは冗談・・・。でも、コレを見たら、一念発起、乾坤一擲、何かやりたくなってくることは間違いなし! 映画館に来てくだされ!
 実は、『黄金を抱いて~』 も戦友たちの話だけど、ここらで一つ何か頑張ってみようという時、気を許し合えて一緒にやり通せる “唯一無二の友” は果たしているだろうか、と改めて考えてみると、意外にいないものだ。いつも連れだって呑んでいる 「呑み友」 のことじゃない。呑んで甘えられる相手を “戦友” とは呼ばないし、呼ばれた相手もさぞ迷惑だろう。振り向けば誰もいない、実はみんな孤独な一人者ばかりだ。お笑い芸人コンビだって大方は金儲けの 「相棒」 だろうし、政治家の 「同志」 はもっといい加減なもの。先日のドサクサ解散でまた税金だけが無駄に使われるドサクサ選挙の季節になってしまったけれど、“今回、団結して新しい政党を立ち上げました” も当てにならない。見え透いたその場限りの野合で、曲者たちとペテン師の “戦友ごっこ” こそ一番キナ臭いし、信用ならない。不快な年末がやってきそうだ。選挙など行きたくもない。いっそ、選べというのなら、落選させたい議員名が書ける制度に、変わって欲しいものだが・・・。
 
 
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『荒鷲の要塞』 1968年・アメリカ
DVD発売 ワーナー・ホーム・ビデオ
(税込¥1,500)
 不快じゃなく、痛快な映画がここにある。高校の時に見た、血沸き肉躍る戦争アクションだ。舞台は第2次世界大戦、連合軍の反撃が始まろうとする頃。ドイツ南部の、鷲が舞う城と呼ばれる難攻不落の断崖要塞にあるドイツ情報本部に、アメリカの将軍が捕われてしまったので、彼を救出せんと、6人のイギリス軍情報部員たちとアメリカレンジャー部隊の中尉が、パラシュート降下して乗り込む勇ましい話だ。『ダーディー・ハリー』 を演じることなど本人も知る由がなかった、まだ若き日のクリント・イーストウッド(37才か) が、その中尉役だった。彼らは、イギリス情報部の極秘命令でこの作戦に取り組むのだが、部隊員たちの様子が怪しくなってくる。堅い絆で結ばれている 「同志」 「味方」 のはずなのに、城塞のふもとの街に着くなりドイツ軍にすぐに逮捕されたり、なぜか情報が筒抜けで、7人の中に、どうやら二重スパイがいるらしい・・・というわけだ。
 リーダーのスミス少佐は中尉と二人で逃亡して、ロープウェイに乗って要塞に潜入、ついに将軍を見つけ出すまでに至る。ところが、ここからがこの戦争サスペンスの見どころだ。そのドイツ本部の執務室で、スミス少佐は 「戦友」 のはずだった中尉にまで銃を向けて、「オレこそ、実はドイツ情報部のスパイだ。今からこの将軍も取り調べたい、コイツは偽の将軍でアメリカのコメディアン俳優なんだ」 と妙なことを言い出す。そして、ドイツ軍将校たちの前で 「ここにいるうちの部隊員3人も、イギリス軍ではなくドイツ軍の二重スパイなんだ」 と言い放つ。イーストウッドの中尉は、いったい何が真実なのか不信が募るばかりで棒立ちのままだ。だが、次の瞬間、スミス少佐が、中尉にフッと目配せして、初めて、中尉は少佐の心を読む。「戦友」 さえも一旦は騙しておいて、敵の懐に入りこみ、そして、敵たちを混乱させておいて、知りたかった本当の二重スパイの親玉が誰なのか暴き出すという、作戦自体が二重のスパイ大作戦だったのだ。
 この二人の一瞬の目配せ、アイコンタクトがとてもスリリング。中尉に 〈お前がオレを味方と信じてるなら、この丁々発止の修羅場をすぐ察知し、敵を撃つ用意をしろ!〉 と阿吽(あうん) の心理戦をやってのける。少佐を演じたのはイギリスの名優リチャード・バートンだ。そして、イーストウッドとバートンは “戦友” 魂を貫いて、決死の要塞脱出行を始めるのだった。
 
 
 人生こそ戦場だ。誰も、同じ価値観を持つ、頼りになる友を探している。途中でみごとに裏切られることもある。生涯を共に歩む“盟友”に出逢うこともある。戦争活劇が “肝胆、相照らし合う” ことを教えてくれた。映画も、義務教育の一つだった。
 
 
 

 執筆者プロフィール  

井筒和幸 (Kazuyuki Izutsu)

映画監督

 経 歴  

1952年、奈良県生まれ。県立奈良高校在学中から映画制作を始め、1975年、高校時代の仲間とピンク映画『行く行くマイトガイ・性春の悶々』を製作、監督デビュー。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降『みゆき』(83年)『晴れ、ときどき殺人』(84年)『二代目はクリスチャン』(85年) 『犬死にせしもの』(86年)『宇宙の法則』(90年)『突然炎のごとく』(94年)『岸和田少年愚連隊』(96年/ブルーリボン最優秀作品賞を受賞) 『のど自慢』(98年) 『ビッグ・ショー!ハワイに唄えば』(99年) 『ゲロッパ!』(03年) 『パッチギ!』(04年)では、05年度ブルーリボン最優秀作品賞他、多数の映画賞を総なめ獲得。『パッチギ!LOVE&PEACE』(07年) 『TO THE FUTURE』(08年) 『ヒーローショー』(10年)など、様々な社会派エンターテインメント作品を作り続けている。話題作 『黄金を抱いて翔べ』 は、只今、絶賛全国ロードショー中!!

 
 
 
 

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