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緊急事態宣言が解除された今こそ備えること

 
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早川大氏による防災セミナーの様子
5月25日。新型コロナウイルスによる感染症対策として発令されていた緊急事態宣言の全面解除が正式に表明された。これを受けて、6月19日からは県境を越える移動やプロスポーツの試合開催を容認し、その後も段階的に外出自粛やイベントの開催制限などを緩和していく方針だという。
 
全国的な新規感染者数や入院患者数も落ち着き、ようやく峠を越えたかに見えるものの、人々の往来が増えることによる流行の第二波も懸念されている。安倍晋三首相も状況によっては2度目の緊急事態宣言の可能性もあると述べた。
 
昔から「勝って兜の緒を締めよ」と言うように、当然ながら油断は禁物である。常日頃からあらゆる事態に備えておかなければならない。しかし、具体的にどのように備えておけば良いのか。また、実際に有事や災害が発生した時に、企業はどのように対処するべきなのだろうか。
 
そこで今回は、防災士・危機管理アドバイザーとして防災・減災・防犯に関する助言や提言を始めとする多くの活動を行っている、株式会社kipuka(キプカ)の代表取締役である早川大氏に話をうかがった。
 
 

災害に備えた適切な計画と運用の重要性

 
東日本大震災以降、社内に防災やBCPの担当部門を設ける企業も増えている。また、今回の“コロナ禍”の影響で、俄然注目が集まっている。そもそもBCPとは、事業継続計画(Business Continuity Plan)の略称で、企業などの組織が災害や事故などにより事業の維持ができなくなる場合を想定し、いかに業務を停止させないか、停止したとしてもいかに最短の期間に抑えたうえで業務を継続していくかを、あらゆる視点から策定する計画である。
 
さらに、より戦略的な広い視野のもとで、BCPを含めた緊急時への備えを円滑に運用・管理するための事業継続管理、BCM(Business Continuity Management)という考えもある。ただ、早川氏によれば、それらを言葉そのままに行ってはならないという。
 
「BCP/BCMについて、手段と目的を取り違えて策定されるケースが多く見受けられます。例えば、テレビゲームのドラゴンクエストでは勇者が魔王を倒しに行きます。それがゲームをクリアするための目的だとしても、物語のうえでの目的ではありません。魔王を倒すことで得られる平和が目的であり、魔王を倒すことはあくまでも手段です。つまり、会社の事業維持を“目的”とした場合、“手段”とはBCP/BCMであり、それを策定すること自体が目的ではないのです」
 
中には、分厚いマニュアルにBCP/BCMをまとめている組織もあるそうだ。しかし、突発的に起こる災害などの緊急時に、本のようなマニュアルだと読み切れないケースも多々あり、現場が混乱に陥ってしまう可能性がある。すると、必要な支援を受け入れることができなくなるなど、復旧のスタートラインに立つまでに大幅な時間がかかってしまう。だからこそ、目的を達成するための手段として簡潔に、かつ適切に運用できるようにまとめておかねばならない。
 
 

見落としがちな対応に当たる人員への配慮

 
また、早川氏は、企業がBCPを策定するうえで、BCP/BCMに対応する人の生活環境も視野に入れた計画にすることを重視しなければならないとも述べている。
 
「危機管理の担当者やBCPに関わる人員が夜中でもすぐに参集できるか、公共交通機関を使用しなくても大丈夫かなどを、事前に確認しておく必要があります。そして、最も大切なのは、災害が起きても担当者本人やその家族がケガをしない環境なのかということです。本人がケガをしてしまったら対応に支障が出るのは当然として、本人が無事でも、その家族にもしものことがあった場合、本人の参集に時間がかかってしまったり、精神的なダメージを負ってしまったりする場合があります。BCP/BCMでは会社の事情だけではなく、事業を継続するために対応する人の生活環境も視野に入れた策定をしなければいけません。これは一番、見落とされやすいことでもあるんです」
 
現場の混乱や、対応に当たる人員に不測の事態が生じた場合、復旧のスタートラインに立つまでに時間がかかってしまう。すると、日常の業務に戻るまでの時間にもロスが生まれ、企業の損失が増えてしまう。では、そのための対策はどうすれば良いのか。それは、学校や会社などで行われている、防災訓練にヒントがある。
 
早川氏によれば、防災訓練とは本来、BCP/BCMが実際に機能するかという検証の場でなければならないものの、日本国内で行われている防災訓練の多くは、消火器などを使った体験会になってしまっているという。しかし、災害による被害から復旧から復興に移行する時間は、数日から数ヶ月が必要とされる。だからこそ、VRを使ったシミュレーションを基本とした被災対応疑似訓練やアクシデントで始まる訓練、マニュアルを使わないで各自の判断で行う訓練など、実践的な訓練が望ましい。
 
 

得た教訓を“次の事態”に活かすために

 
上記のように、実際に起こり得るケースを想定し、より現実的なBCP/BCMを策定すること、そしてマニュアルの作成時には多様な分野の人々とタスクチームをつくり、さまざまな視点からBCP/BCMに取り組むことが大切なのだと早川氏は訴えている。さらに、早川氏は非常に興味深いことも話してくれた。それは、防災についての教訓や、過去の伝承が現在までに伝わっていないということだ。
 
「伝承が衰退することで、東日本大震災における大規模な津波被害のような事態が起きていると感じます。本来は過去に津波が来た場所は“住んではいけない場所”だと伝えているはずなのです。しかし、それがどこかで止まり、忘れられていると思います。これにより“水や波が一定の条件下になると大量に街中まで流れ込んでくる”という情報が共有できていませんでした。
 
一つ事例をあげると、とある水害が起きた地域では、その地域の方々はそろって初めての水害だとおっしゃっていました。でも、隣の地域の方々に言わせると、その地域は過去に何度も水害があったそうです。しかし、河川の工事により安全神話が生まれ、いつの間にかその話も聞かなくなってしまったということでした。
 
実は、よくよく調べるとその地域は『遊水地』として古い地図に書かれていました。それがいつの間にか忘れられ、紙に小さく書かれて残るだけになったと思われます。非常に残念ながら、それが住んでいる方々に伝わることはありませんでした。このことから、防災は机上で論議するのではなく、過去に現場で起きたできごとを中心に地域の人同士で伝え合うことがとても大切な作業だと考えるようになりました」
 
過去の事例における反省や、教訓を次に活かすこと。その重要性は決して忘れてはならないだろう。今回の“コロナ禍”も終息して終わりではなく、終息してからが新たなスタートなのだと認識しなければならない。そのような、次を見据えた意識を常に持ち続けることが、危機管理における基礎にして、最も大事なものではないだろうか。
 
■株式会社kipuka
https://kipuka.co.jp
 
防災・危機管理のビジネス最前線
vol.2 緊急時に対する実践的な備えと次への教訓
 (2020.05.27)

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