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本書はネットテレビ局「林原チャンネル」で放送中の『田村秀男の経済ひとりがたり』を書籍化した本。「語り」が基調なので読みやすい、わかりやすい一冊になっています。「経済には馴染みがないんだよなぁ」という人も構えずに読める点は、本書が多くの人に読まれるべきだと思う理由のひとつです。
 
というのも、タイトルが謳う「景気回復」に必要な行動が、究極的には一般の読者――市井の人々――にかかっているからです。そのことを端的に示す箇所がラスト近くにあります。
 
「しかし、一部の国民が目覚めても、肝心の政治家たちが目覚めなければ意味がありません。/政治家を目覚めさせるのはやはり“国民の声”です。‥略‥だからこそ、これからは経済に対する理解のない政治家、経済を成長させる意識がない政治家に対して、私たち有権者は選挙を通じて“NO”を突きつけるべきなのです。」(第6章「世界が日本経済の復活を待ち望んでいる」p226)
 
評者から現状認識も加えて補足すると、ここは次のようになると思います。「政治家を目覚めさせ、かつ動かすものは彼らにとっての得、メリットだ。しかし、これを認めると、政治家が稼業(=政治屋)と化している現状を受け入れるとともに、政治家は政治屋でいいと市民の側からお墨付きを与えたことになってしまう。だから得で動かすのではなく、もっぱら得で動くような政治家はしかるべく選挙で落としたうえで、167ページ後半でふれた傾向から反照的に見えてくる要素で動かすべきだ」。
 
167ページ後半にある「傾向」とは、「そもそも日本人は一種の「信仰」と言えるほど国際機関を信用しやすい」という傾向のこと。第5章「日本の経済政策、財務省思考の限界」所収のこの箇所は、財務省が増税したいときはIMF(国際通貨基金)に対して日本へ増税勧告を出させる手口が常套になっている、と喝破します。
 
では、なぜ日本人は国際機関をそんなに信用するのか。他国は「国際機関は上手く使うもの」というぐらいの認識なのに、なぜ日本は違うのか。
 
〈信〉の置き先が国内にないから――GHQに始まるジャパンハンドラーによって解体されたから――でしょう。
 
これを政治家に当てはめるなら、いま仮に「浪漫」の概念を出すとして、いくら「ビジョン」を掲げてもそこに至るまでの内発的な動因は浪漫です。これが抜けているから――外部要因主導になっているから――得で動く政治屋に堕するのではないか。だったら国会はワンイシュー・パーティでかためてもらったほうが、有権者が現実を見やすくなるぶんまだマシです。
 
財務官僚についても同じです。本書はタイトルにあるとおり「消費税減税」と「脱中国」が二大主張ですが、消費税関連の箇所で前面に出てくるのはむしろ「緊縮財政」です。なぜ財務省は緊縮財政路線にこだわるのか。データで見る限りうまく行っていないことは明白なのに――ファクトチェックが多いのは本書の大きな長所です――、なぜ変えないのか。
 
読んでいると「なんでそこまで?」と思うくらい、財務官僚は緊縮財政路線を頑なに守ろうとします。いかに緊縮財政=財政均衡化が省是になっているか、なぜそうなるかについては182~185ページの解説にゆずるとして、不思議なのは、中央官僚でも最も優秀な人たちであるはずの彼らが省是ごとき――あえてこう言います――に準じっきりにならざるを得ないその理由です。まるで省是より優位の〈信〉が空白であるかのように。
 
そして事実、なくなっているのかもしれません。三島由紀夫が予告したとおりに。
 
本書の二大主張のうち「脱中国」のほうに関しては、148~154ページが最も端的に著者の主張がわかると思います。よく読むと「脱中国」はタイトルにしたときのとおりの良さを優先したまでで、著者のニュアンスは「対抗中国」です。政治でも経済でも中国に対抗できる国になるため、中国依存の現状を改めよう、と。つまり国防の観点を含んでいます。149、150ページは日本がどれだけ未回収の投資を中国に対し続けているか、ようは貢いでいるかの解説です。
 
また、154ページ5~10行目からは、聖徳太子の「日出る処の天子、日没する処の天子に~」という例の手紙を思い出させられます。古代日本は中国に対し、冊封体制の緊張感を常に持って対峙していた。あの緊張感がいまの日本にあるだろうか、と。中国といえばマーケットしか頭にない一部の政財界人の平和ボケも、元をたどれば国内に〈信〉の置き先を失った結果だと思います。その意味で、事は政治と経済に収まらない、日本の悲劇です。タイトル中の「国守り」の語を仰々しく感じる人は多いかもしれませんが、中身を読めば正確な表現であることがわかります。
 
以上、本書の長所を評してきましたが、ひとつだけ不満をあげるとすれば、元が「語り」の本の常として、もう少し背景の説明があればいいのにな、と感じる箇所がなくもないこと。一例が138ページ、中国の公式発表データがいかに信用できないかを解説する箇所です。
 
ここで著者は、中国経済の本当の状態を知るためにはセメント生産と自動車生産を見るといい、と教えてくれますが、140ページのグラフではセメント生産のほうが、2019年6月から自動車生産の推移と逆に、上振れしています。これはひとまず評者の知識からは、「大型建造物は官製バブルを演出しやすいから、無駄になるとわかっていてもその場しのぎでウワモノを建てることが中国ではよくある。なのでセメント生産の上振れはかえってよく経済の危なさを表している(=セメント生産で見るのは正しい)」というふうに、正誤はともかくとして自分なりに解釈を合わせられますが、予備知識がない人は「あれっ?」となるかもしれません。
 
ただ、これもケチをつけるならの話であって、本書はそんな細部にこだわるよりも、著者の「語り」の勢いに乗ってどんどん読み進めるほうがいいと思います。大事なメッセージは繰り返し出てくる点も「語り」が元になっている本の一方の――良いほうの――常。それらを自然に吸収するうちに自分も「国守り」に参加できそうに思えてくる、勇気の出る一冊。お勧めです。
 
(ライター 筒井秀礼)
『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』
著者 田村秀男
株式会社ワニブックス
2020年11月15日 初版発行
ISBN 9784847099670
価格 本体1300円
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(2020.11.11)
 
 
 

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