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コラム BRT47 vol.5 B級グルメは救世主になれるか? 外食の虎・安田久のBRT 47 飲食プロデューサー

コラム
 
 こんにちは、安田です。地方の食文化を語るうえで、最近見逃せないのがB級グルメ。全国で大規模なコンテストが行われるほどの盛況ぶりで、他県に負けじとばかりに次から次へと新しいご当地グルメが出てきていますね。この中には、昔からその土地で慣れ親しまれてきたメニューもあれば、最近生み出された新しいメニューもあります。いずれにせよ、ご当地では身近とされる食材を使いながらも、珍しさを打ち出し、さらに価格的にも敷居が高くない料理です。脚光を浴びる理由も、各地でB級グルメを起爆剤に地方活性化をしようという機運が高まることもわかりますね。
 
 ただ、このB級グルメ、果たして本当に地方活性化に直結する奥の手と言えるのでしょうか? 今回は、安くて手軽で人気が高い、けれどもその裏にあるB級グルメの落とし穴を探ってみましょう。
 
 

なぜB級グルメの路面店はない?

 
 B級グルメの 「B級」 は、高級志向の 「A級」 に対して、日常的に食べられる手軽さをもって 「B級」 と言われているようですね。手軽に食べられて、全国的に話題になっている。素晴らしいことです。しかし、話題性があるにも関わらず、テレビやメディアで盛り上がっているほど外食に浸透していないとは思いませんか?
 たとえばデパ地下でも、一部はあるのかもしれませんが、私はほとんど見かけません。経営的に考えれば、売れれば売れるほどテナントを出したがる業者も増えるはずです。また、「売れる」 ということは、店を出して攻めの姿勢を出していけるようになるはずです。しかし、B級グルメはそうなっていない。
 
 実はこれは 「ストーリー」 の問題ではないかと私は考えています。ストーリーとは、歴史だったり、職人の哲学だったり、その 「食」 の付加価値となる情報が消費者の気持ちに届くまでの、道のりのことです。「この料理にはこれこれこういった歴史があり、その地方を語るうえでは欠かせない。だからこそ、土地の雰囲気を感じたいと思う人が口にし、味覚から地方を感じていくのだ」――これが料理のストーリーです。
 料理のストーリーは、明文化されたものでないケースが多くあります。たとえば、讃岐うどん。「香川県を “うどん県” とする」 と言いきったユニークなCMが話題になったのは、記憶に新しいですね。それだけ 「香川県(讃岐)=うどん」 という土地と食の結びつきは全国に浸透しています。だからこそ、「香川県に行くなら、本場の讃岐うどんを食べよう!」 というモチベーションが喚起されます。これが、消費者が素肌感覚で得ているストーリーです。
 
 

料理が内包するストーリー性

 
 実は、郷土料理はどれも基本的にこのストーリー的素肌感覚を兼ね備えています。もっとわかりやすく言えば、「その土地の名産を食べないと、地方に行った気がしない」――そんな感覚でしょうか。そして食べながら、また、食べるための下調べをしながら、付加情報をインプットしていく。
 
 ところが、B級グルメには、これが確実にあるとは言い切れません。
  地方の名産物は比較的高価なものが多いです。数百円で食べられる名産物(名物料理)は数えるほどしかないでしょう。つまり、ストーリー的な興味への裏付けがなされているものは、偶然か必然か、高級志向に偏っているのですね。
 どのようなビジネスでも似たことが言えるかもしれませんが、基本的に商売は高級志向のほうが長続きします。安さを売りにした店は一時的には爆発的に人気が出るかもしれませんが、ロングテールの人気は獲得しにくいものです。飽きが来たり、ブームが去ったりと理由は様々ですが、火が点いた人気を継続させるだけの持久力が、ブランドに備わっていないのですね。また、東京で路面店を出す際に、安さが主な武器になっていると、お客の回転率をめまぐるしく上げなくてはいけないため、体力的にかなり大変なのです。
 
 いっぽうで高級志向の料理は、奥深いストーリーを求めてやってくるお客さんが対象です。目的が明確ですので、満足さえすれば、次にまたそのストーリーを味わいたいときに、再び来てくれます。実は飲食店は、新規のお客さんを獲得することよりも、2回目、3回目と来てくれるリピーターを獲得することのほうが難しい。ここは多くの飲食店経営者が勘違いしていることです。もしかしたらB級グルメが決定的に日常化していないのは、「とりあえず話題だから食べてみようか」 という新規客の獲得にだけテコ入れが進んでしまい、リピーター獲得のための方策がまだ薄いからかもしれません。
 
 

テコ入れの余地がある演出面

 
 ただし、だからといって郷土料理やそれに使われる特産品が無敵の品というわけではありません。大きな弱点もあります。それは、差別化です。考えてみてください。松坂牛と近江牛の違いをすぐに答えられますか? 松坂牛のしゃぶしゃぶと近江牛のしゃぶしゃぶ、どちらが好きか、明確な理由をもって答えられますか? おそらく、まずそこに大きな違いは見いだせず、「どちらも高級牛肉だからおいしい」 という理由にとどまってしまうのではないでしょうか。
 
 日本には47都道府県があり、それぞれに名産物・特産素材がありますが、実は米・魚・野菜・肉、その全てにおいて、大方の都道府県は、それぞれのブランドで自慢の一品を持っています。(もちろん、内陸部では魚が手薄など、一部の事情はありますが。)つまり、どれだけ高級志向にしていても、松坂牛と近江牛のように素材が似てしまうのです。調理方法を変えようとしても、食べ方だって、そこまで劇的な変化は持たせられない。
 そうなると、たとえば海外の人が土地の雰囲気を料理の何で味わうか、それは現時点では、演出面の工夫によるところが大きいでしょう。
 
 この点を実感したければ、私がプロデュースした 「九州黒太鼓」 という店に行ってみてください。ここは、その名の通り、“九州産のおいしいものを扱う” というコンセプトの店です。この店では、各県を代表する米・魚・野菜・肉のトップクラスの名産品を使っており、どの県のものでも、肉ならばしゃぶしゃぶとすき焼きの両方が楽しめます。こうした公平なメニューストックに加え、店の中を神輿が練り歩いたり、ご当地焼酎などのボトルを入れてもらった場合には、店員が全員で独自の掛け声をかけるなど、様々な工夫を凝らしています。また店員は、名産の魅力をお客さんに語れるようちゃんと教育し、オペレーションにも力を注いでいる。こうした演出面の付加価値創造は、地方へ興味を持たせるために、大変有効であると実感していますね。
 
 
 
 
 外食の虎・安田久のBRT47 ~Business Revitalization Trend~
vol.5 B級グルメは救世主になれるか?

 執筆者プロフィール  

安田久 (Hisashi Yasuda)

外食産業プロデューサー・元 『マネーの虎』 レギュラーメンバー

 経 歴  

1962年、秋田県男鹿市生まれ。アルバイト経験をきっかけに飲食業界へ。現場を15年間経験の後、35歳で「監獄レストラン アルカトラズ」をオープン。外食産業関係者を含め大きな支持を得た。2002年には人気テレビ番組『マネーの虎』にレギュラー出演し、知名度が全国区に拡大。その後、2004年に地方活性化郷土料理店第1弾として、秋田県モチーフの店「なまはげ」を銀座に出店。以後「47都道府県47ブランド47地方活性化店舗」を理念に、銀座を中心に郷土料理店を次々と展開。2012年からは飲食店経営者を徹底的に鍛えなおす“虎の穴”「外食虎塾」を主宰している。

 オフィシャルホームページ  

http://www.yasudahisashi.com
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