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大方の認識と本音は?

 
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線画帳 / PIXTA
消費税増税が施行され、景気の冷え込みを緩和する施策が始まっている。小欄は確定申告があった3月に軽減税率について取り上げたが、今回はキャッシュレス決済に対するポイント還元制度、事業名「キャッシュレス・ポイント還元事業」あるいは「キャッシュレス・消費者還元事業」について触れてみたい。
 
まず前提として、「キャッシュレス」「ポイント」「還元」と言われても、もはや耳も目も慣れ過ぎて、「普段からクレカやスマホ決済で買い物をしている人はポイントが付いて得かもしれないけど、1000円買って10円みたいな話だろうし、登録とかの手続きが面倒だからいいや」と思っている現金派の人たちはかなり多いだろう。また、こちらは手続きというより使い勝手の問題のようだが、スマートフォン決済アプリをインストールした人の62.8%がその後アプリを利用していないというデータもある(出典:MMD研究所調査)。「FeliCaでの決済に慣れていると「アプリを起動する」「QRコードを表示させる」ということすらも手間に感じられます」というNewsPicksのコメントはその通りだと思う。
 
いずれにせよ、「要は決済事業者つまり民間企業のやることで、キャンペーンのクーポンと一緒だから、今さら購買意欲を左右されるほどじゃない」というのが大方の認識であり本音ではなかったか。
 
しかし実際には、今回の「キャッシュレス」「ポイント還元」は実質的に国がやる事業であり、キャッシュレス決済事業者が消費者に還元するポイントも原資の3分の1は国が出す。また、店がキャッシュレス決済事業者に払う決済用端末の代金(決済事業者にとっては自社の商基盤整備に向けた営業売上)も、3分の2は国が出す。それらのもとは我々の税金だ。である以上、有権者として施策の意義をチェックして然るべきだというのが本稿の出発点である。
 
 

あの店は還元率2%? それとも5%?

 
まず最初のポイント(ここは「注意点」の意)は、店がこの制度に乗るためには「キャッシュレス・消費者還元事業」(以下「還元事業」)の加盟店になる必要があることだ。前々段で「本音ではなかったか」と過去形にしたのも、10月1日の増税時に加盟店になっていたければ利用する決済事業者を通じて9月6日までに事務局へ申請手続きを完了していなければならず、消費者も決済手段の準備作業(銀行口座やクレジットカードとの紐づけ等)を済ませておく必要があったからだ。
 
ただし、申請すればどんな店舗・企業も加盟店になれるわけではない。資本金または従業員数、それに直近3年ぶんの課税所得平均額が多いいわゆる大企業は加盟できない。できたとしても、大手フランチャイズ企業の直営店や大規模フランチャイジー事業者、ガソリンスタンドは還元率2%の事業所として登録される。それに対し中小・小規模事業所は還元率5%だ。いかに政府がこの規模の店や企業――中小企業庁の最新の集計で全体の99.7%を占める――をキャッシュレス化したいかがわかるとともに、中小・小規模事業者支援のための制度という位置づけは事実その通りであることが窺える。
 
なお、どの店がどちらの還元率かについては先月20日、ポータルサイトやアプリで全国を地図検索できるようになった。自宅の近所を表示して見てみるとおもしろいだろう。
 
 

還元と負担を金額でシミュレーション

 
消費者からすれば、もし仮にすべての買い物を5%還元の加盟店で、かつ還元率がフルになる決済手段でまかなえば、税率は2%上がったものの制度期間の来年6月までは差し引き3%の消費税減税ですらある。
 
・・・と、言われても実感が湧かないどころか、どこかでそもそもの計算を間違えていないか不安になるのがパーセンテージによる説明の怖いところだ。だから金額でシミュレーションをしてみよう。
 
消費者が本体1000円の商品を購入したとする。税込価格は1100円で、5%還元店では55ポイント(55円)が消費者にバックされる。店が決済事業者に払う決済手数料は、楽天Payを例にとると税込価格1100円×3.24%で35.64円。手数料は他の決済も合算して日ごとで確定するがわかりやすくするためその一件のみで見ると、小数点以下を四捨五入して36円。期間中のぶんは国が3分の1出すから÷3で12円を決済事業者は国から補助され、店は12×2の24円を、決済処理後の売上金を楽天Payが店の口座に振り込むときに差し引かれる形で負担する(決済事業者が「実質2.16%」と謳うのはこの意味)。―――以上の“売買”を店・決済事業者・消費者のそれぞれについて“消費税額”で見たのが以下だ。
 
【店・事業所】
・商品の販売によって消費者から預かる消費税は、仕入税額控除により、100円から「1000円で売れた商品を仕入れる際にかかった消費税額」を引いた額。500円で仕入れていたら消費税額50円を控除して50円納付。税率8%時は80-40の40円を納付していたから10円増えた計算。
・決済サービスの利用にともなって決済事業者に預ける消費税は、経産省の専用窓口(決済事業者用)に問い合わせると「2.16%に税込」とのことで2円。(※「具体的な処理は各事業所による」とのことなので楽天Payに問い合わせたところ、原稿執筆時点の9月26日では「まだ情報がなく詳しいご案内ができない」と回答を得た)
⇒ 500円で仕入れてキャッシュレス決済で1000円で売ると消費税の増加額は12円
【決済事業者】
・決済サービスの販売によって店から預かる消費税は2円。ただし同じキャッシュレス決済でもクレジットカード、QUICPay、iD決済ぶんは非課税で0円。
⇒ 本体価格1000円の売買を決済して納める消費税は、サービスの提供にかかる課税仕入の消費税額が2円を下回れば差額を納税。上回れば差額を還付される。
【消費者(購買者)】
・消費税額は1100円×5%で55円が還元されるから本来の税額100円と相殺して45円。⇒ 期間中は税率8%時の税額80円との差額35円が純減税。
 
1000円の商品を買うたびに35円純減税になるということは、利率換算すると35÷1000=0.035で3.5%だ。実際はすべての買い物を5%還元店でまかなえるわけではないだろうし、決済手段によって制度利用額にも上限がある。そもそも9ヶ月間の話だ。しかし、だとしても利率3.5%というのは、例えば銀行の定期預金利率でいえばバブル絶頂期の1988~1989年がその金利だった。そう思うと今回はまさに官製バブルが用意された状況なわけで、同じ消費をするなら今しないことにはいかにももったいない。ここまで消費者有利な時代はこの先もう来ないだろうからだ。
 
 

控除、免除、所得税

 
最後は消費をあおる論調になったが、新しい情報は何も盛っていない。制度に関する解説の大半が部分を切り取って図解するかパーセンテージの説明に終始するばかりで不満だったから、実際の金額の動きを包括的なストーリーにしてみたのみである。
 
ちなみに、制度期間中に5%還元店で商品を仕入れまくって来年7月以降に売りに出したらどうなるのだろう。さらに言えば、税の趣旨に照らせばほとんど鬼畜の所業ながら、そしてあくまで理論実験上の最大値ながら、7月に副業で事業を立ち上げて青色申告を申請して、課税売上高1000万円以内(例えば999万9990円)に抑えつつ事業を展開して免税事業者期間の2期満了前に廃業したらどうなるだろう。青色だから確定申告で65万円を2回控除され、消費税90万9090円の納付を2回免除されて計311万8180円。プラス、キャッシュレス決済で仕入れてできた純減税ぶんを持って売り抜ける? 似たようなことを考える人はネット通販界隈には多そうだが、それらの皆さんにはしっかり所得税を払ってもらいましょう。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2019.10.2)
 
 

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