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花見とプラスチック

 
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Mariner_Photo / PIXTA
読者の中には、GW中は公園のバーベキューで、その前は花見で、使い捨てプラカップやプラフォークの世話になった人が多いのではないか。筆者も大いに世話になった。一日桜を愛で、楽しく飲み、食べ、さて解散となってポリ袋に総菜のトレーやら油で汚れた紙やらプラカップやらを詰め込んで公園の一角のごみ収集場所に来てみれば、普段街中で見ない大きさのコンテナ(4t車用?)が2つ3つ並び、ごみが山積みになっていた。「プラスチック類」「燃えるゴミ」「ビン・カン」と札がかかり、コンテナ間はベニヤ板で仕切られてはいたが、分別の“歩留まり”はいかほどだったろうか。自分たちの組はごみを袋で分けていたから間違いはなかったと思いたいが、分類の知識が間違っていればそれまでだ。大きな顔はできそうにない。
 
一昨年からプラスチックごみによる世界規模の海の汚染の問題が注目され、世界中で「脱プラ」の動きが起こっている。イギリスではBBCの海洋ドキュメンタリー番組『ブループラネット2』をきっかけに世論が起こり、エリザベス女王が王室の脱プラを宣言したことで決定的になったようだ。日本でも、ウミガメが泣きながら血を流して鼻に刺さったプラスチックストローを抜いてもらうSNS動画を見た人は多いだろう。スターバックスが2020年までに世界の全店舗で使い捨てプラスチックストローを廃止すると発表したことも話題になった。
 
「海洋プラごみ」が生態系に与える影響についてはこれまでも識者や各団体が警鐘を鳴らし続けてきたが、ここに来て一気に世上の関心を得た形である。
 
 

流出源に吸収させる不条理

 
折しも2017年は、過去20年以上にわたり西側先進諸国の廃プラスチックの受け入れ先だった中国が年内一杯で受け入れ(輸入)を止め、世界中のプラスチックごみが行き場を失った節目の年だった。
 
日経ビジネスオンラインの記事によると日本も廃プラスチック輸出量150万tのうち半分を中国に出していた。事業系廃PETボトル(自動販売機併設のごみ箱などで回収)の粉砕フレークを例にとれば、2017年8月の輸出量2万5000tが12月には6000t、翌年1月は270tになっている。わずか5ヶ月で93分の1という激減ぶりだ。代わりにベトナムやタイなどの東南アジア、それに台湾、韓国が増えたが、土地も人口も中国の比ではないそれらの国で93分の92を吸収できるはずがない。また、吸収させるべきでもないだろう。台湾と韓国を除き、それらの国々は中国同様、プラスチックごみの回収・処理システムが社会的に未整備なせいで海洋プラごみの主な流出源になっているからだ。
 
ちなみにプラスチック循環利用協会が2018年12月に主催した講演会では、中・日のプラスチックリサイクル事情に精通した亜星商事株式会社の山下強(孫自強)氏が、「1、2年ぐらいはもつかもしれませんが、半年も経たぬうちに東南アジア各国でも規制を強めていくでしょう」と語っている。今月は5月。山下氏の予測した“半年”はもう来月だ。
 
 

G20と欧米資本

 
そしてその来月には日本で「G20大阪サミット」が開催される。環境関連では「持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」が15、16日に長野県軽井沢町で開かれる。会場では世界の廃棄物(ごみ)をどうしていくかについて、これまでになく真剣に議論されるだろう。プラスチックごみをめぐっても海洋プラごみの問題を皮切りに各国がつばぜり合いを繰り広げるに違いない。議長国の日本は積極姿勢を見せるべきだ・・・などとぬるい話に落としてはいけない。プラスチックごみの問題は廃棄物の問題であると同時に国の産業戦略の問題でもあるからだ。
 
今年1月、海洋プラごみ削減のための国際NGO組織「Alliance to End Plastic Waste(AEPW)」が発足した。メンバーはプラスチック製造から廃棄処理にいたる製品ライフサイクルに関わるグローバル企業30社。日本からは三菱ケミカルホールディングス、三井化学、住友化学の3社が参加し、特に三菱ケミカルホールディングスはドイツのBASFやアメリカのダウ、エクソンモービルなどと並んで上位メンバーに入っている。
 
同組織は今後5年間で15億ドルをプラスチックごみの削減とプラスチックリサイクルの分野に投資するという。特に南アジアや東南アジアに向けては廃プラスチックの回収・処理の社会インフラを整備するところからニーズがあるため、大きな商機が見込める。日本としては環境立国の経験、技術、ノウハウを最大限輸出し、ソフト、ハードの両面で現地の循環型社会の形成と持続可能な発展を助けたい。もっとはっきり言えば、同じアジア人として、またしても欧米の資本と論理でこの地が都合よく染められるのを見過ごすわけにはいかないのである。
 
 

代替材の覇権をめぐる攻防

 
プラスチックごみの問題が廃棄物の問題であると同時に国の産業戦略の問題でもあるというもう1つの意味は、代替材、具体的には生分解性プラスチックをめぐって窺い知れる。
 
必要以上に「脱プラ」を煽りたて、プラスチックそのものを意識から遠ざけさせることで産業の空白を助長し、その間に自国は営々と研究を続けて技術開発を進め、主導権を握る――。すでに原子力関連が踏みつつあるこの轍を、プラスチック関連にも踏ませてはならない。
 
この点、日本は約20年前からISO(国際標準化機構)に働きかけ、生分解性プラスチックの生分解度に関し、ISO基準の設定をリードしてきたようだ。また、化学メーカーのカネカは2014年、100%植物由来の生分解性プラスチックの大量生産に世界で初めて成功し、今年末には年間5000tの生産体制が稼働する(商品名:カネカ生分解ポリマーPHBH®)。同商品は今年2月に欧州委員会の「食品接触材料及び製品に関する規則」を通過しており、同社は欧州全域でプラスチック製ストロー、カップ、カトラリーの代替市場を狙うべく、年間2万tの生産体制も検討中だ。欧米が仕掛けた「脱プラ」を本家のひざ元では極東アジアの日本が主役で支えるとなれば、なんとも痛快な話ではないか。
 
 

古紙レベルのリサイクルをプラスチックでも

 
いっぽうで国内を振り返れば、代替材研究ほどの華はないが同じくらい重要な分野が育っていない。つまり、リサイクルだ。筆者の見立てを補足しつつ先述の山下氏の話を一部要約すると次のようになる。
 
「ごみの行き場がなくなった以上、日本は国内でのリサイクルを進めていくしかない。廃プラスチックの半分以上は国内でも需要がある。
 ただ、リサイクルには異物除去や濡れものの洗浄作業が必要で、中国は一つの町に数百から数千社もの零細企業が集まって分担・協業して人海戦術で対応する特殊状況があったからよかったが、人手不足の日本でできるだろうか。
 ミックス古紙の品質を見てもわかるとおり、もともと日本のリサイクルは優秀だ。ただプラスチックに関しては、プラスチック自体の歴史が浅いことと、日本は早くに焼却処理体制が充実したのでリサイクルが等閑視されている。消費者はリサイクルマークで分別廃棄してプラごみをリサイクルできたと信じているが、PETボトルの本体以外は実質的にほぼ全部焼却されているのではないか。そのPETボトルも、たとえばキャップはポリエチレン(PE)製に規格を統一するだけでリサイクルしやすくなるのに、引いてはリサイクル産業が育つのに、そういった動きがおろそかにされている。」
 
中国の再生処理企業グループは廃プラスチックが入らなくなったので日本に来て事業を続けているそうだ。人手不足は本国からさまざまな在留資格で人を連れてくれば解決だろう。それに比べ日本の既存の再生処理業者は零細なうえに高齢化で先細るいっぽう。つまり日本のプラスチック産業分野は、先端研究の華に隠れてその下の厚みの部分が人も企業もスカスカになって、他国にとられつつあるのである。
 
これを防ぎたいなら、また純粋にプラスチックごみの問題を解決するうえでも、現在古紙で発揮されているような民度の高い分別廃棄・回収・再生の循環システムをプラスチックでも構築すべきではないか。日本には江戸時代以来のリサイクル文化があるはずだ。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2019.5.8)
 
 

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