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広がるビッグデータ
~「n=全体」がもたらすビジネスの新次元~

 
 

◆新たな事業領域に踏み込んだ自動車メーカー

 
 その一例を自動車メーカーと保険業界に見てみよう。
 損害保険ジャパンが2013年7月から募集を始めた商品 「ドラログ」 では、「テレマティクス」 と呼ばれる最新の車載技術を活用し、日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」 からネット経由で送られてくる走行距離データをもとに保険料を変える仕組みを初めて導入した。過去1年のドライバーの運転態度や走行状況のデータを調べ、2年目からは走行距離に応じて保険料の割引を行うものだ。
 リーフは速度、電力消費、故障データなどを日産のデータセンターにも送る。日産は損保ジャパン以外の企業にも有償でデータの一部提供を始めるという。自動車メーカーにとって虎の子である走行データを他社に提供するという点で、これまでのサービスから一歩踏み込んだものと言える。
 
 トヨタ自動車も今年6月、テレマティクスから得られたデータを活用し、道路混雑や防災情報をリアルタイムで提供し始めた。日産と同様、その一部をアプリとして一般ユーザーに無料で開放するサービスも始めている。ホンダもEV 「フィット」 から車速、走行時のエネルギー消費、電池残量、位置情報などをリアルタイムに収集。充電システムや電池の改良などに役立てる計画を進めている。
 自動車は今や、自動で・リアルタイムで・膨大なデータを吸い上げてメーカー(必ずしも一次利用者ではないかもしれない主体)に送る 「情報収集端末」 である。自動車メーカー各社は新たな事業領域に踏み込んだと言えよう。
 
 

◆エリアの時間帯ごとの年代別、男女別の動向を把握

 
 NTTドコモは携帯電話利用者の位置情報などがわかるビッグデータを2013年10月から販売している。外食産業や流通業、災害時の情報提供などでの活用を見込んでいるという。
 携帯電話の基地局は、通信状況を確認するため、エリア内にどの携帯電話があるかを常に把握している。あるエリアにドコモの契約者が何人いたかがわかれば、ドコモの市場占有率(半数弱)から統計的に処理してそこにいた人数がわかる。しかも、エリア内の携帯電話の番号を捕捉しているので、番号と顧客の生年月日や住所、性別などの情報を組み合わせることで、「○○日午前9時台、渋谷駅周辺に50歳代男性が○○万人。うち○○人は都内居住者」 といった情報を得ることができる。あるエリアの時間帯ごとの年代別、男女別の動向が把握できれば、飲食店やサービス業は仕入れる材料の量や種類を調整できるし、出店計画を立てやすくなる。地方自治体が防災計画の策定や街づくりに生かすためにデータを購入するケースも出てくるだろう。
 
 

◆ビッグデータ時代の価値観

 
 安倍首相は2013年5月の 「成長戦略第2弾スピーチ」 で、ビッグデータは付加価値の高い新たなサービスやビジネスを生み出す 「宝の山」 と指摘。ガイドラインの整備や個人情報保護法の改正など、ビッグデータ活用の下地づくりに力を入れることを表明した。すでに関連の法整備も進めており、匿名化した個人情報なら本人の同意がなくても第三者に提供できるようにする方針だ。また企業には、個人を特定できない技術的な措置をとるよう義務づけるとともに、データの運用が適正かどうか監視する第三者機関を設け、消費者のプライバシー保護への不安を和らげるとしている。
 
 総務省が今年7月に出した 「情報通信白書」 は、ビッグデータに関する統計を初めて公開した。それによると、サービス業、情報通信業、運輸業、不動産業、金融・保険業、商業、電気・ガス・水道業、建設業、製造業の9産業でビッグデータの合計は2.2エクサバイト(おおむね2200京バイト)。流通量は2005年から12年までの7年間で5.5倍になった。ビッグデータの波はじわじわと浸透している。
 
 2014年は確実に 「ビッグデータ元年」 と呼ばれる年になる。ビッグデータ社会の到来で何が変わるのか、私たちはどのような価値観でどう対応していったらいいのか。考える必要がありそうだ。
 
 
 
 
(ライター 古俣慎吾)
 
 
 
 

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