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パーソナルモビリティ、走る!
~“沿線”から“同心円”に街づくりが変わる~

 
 

◆カーシェアリング+スマートシティで広がる可能性

 
 その鍵になるのが、カーシェアリングと既存都市のスマートシティ化である。前述したとおり、ガソリン車やプラグインハイブリッド車(PHV)を対象としたカーシェアリングは、近年、大きな広がりを見せている。車体を購入する必要がなく、メンテナンス費用、税金や駐車場代、燃料代なども不要になるため、ローコストで車を利用できることがうけているのだ。今年3月に三井不動産とカーシェアリング・ジャパンが業務提携を発表したように、他業種との連係によりさらなる普及を目指す動きも見え始めている。
 
 パーソナルモビリティは既存の自動車に比べ、このカーシェアリングとの相性が良い。駅前など各地にステーションを設け、貸し出しに加え、乗り捨てによる返却を受け付ける新たなシステムが検討されており、実現すれば 「電気を動力とするため速度が遅く、航続距離が短い」 というパーソナルモビリティのマイナス面が解消される。自宅から駅まで乗り、駅から駅の間は電車を利用、さらに降りた駅から目的地までは新たな機体に乗る、という利用法が可能になるためだ。
 
 駅前などに設けたステーションに乗り捨てられた機体は、大型の搬送トラックなどに載せ、必要とされる場所に随時移動させればよい。機体のニーズは時間帯によっても変化するが、街区ごとに情報を共有できるスマートシティであれば、重点配備すべき場所を細かく判断し、的確に運用することが可能だ。
 
 もし実現すれば、各駅前に駐車スペースを確保しないですむため、利用者のコスト負担が縮小し、利便性も拡大する。加えてこのシステムは、都市間の車移動による渋滞軽減や、CO2排出量の削減にも大きく寄与する。
 
 

「個」へのシフトによる新しいランドプランを

 
 これまで日本では、鉄道網や高速道路網などパブリックな交通網の進化・整備に力を注ぎ、その成果に応じて後から街がつくられるケースが多かった。特に郊外の住宅街は、都市中心部を起点とする交通の 「線」 に沿ってつくられてきたため、線が延びない限り新たな街がつくりにくいという不動産業の閉塞も生み出してきた。
 
 パーソナルモビリティは移動や輸送の単位を最小に収斂しながら、自由度を拡大するものだ。カーシェアリング、スマートシティとともに普及すれば、「大きな政府」 から一方的に与えられてきた小回りのきかないランドプランは、地域ごとに細やかに運営されるフレキシブルなプランに変容。線に沿って開発されてきた街は、ハブとなる駅を中心として、新たに同心円状の広がりを見せることになる。円が線をサポート役として取り込みつつ、新たな円や線との接点ごとに、従来より自在で密なマトリクスを広げていくイメージだ。
 
 自民党の復権に伴い、交通の 「公」 から 「個」 へのシフトは一時中断したように見えるが、超高齢化が進み、シームレスな環境への配慮が一段と意識される中、よりパーソナルな移動手段が求められるのは時代の必然である。この必然をランドプランに昇華させるには、新たな補助金制度の導入や道交法の改正など、ソフト面での 「公」 による的確なアシストを要する。折りしも民間の成長戦略という “第三の矢” が示された今、アベノミクスは単なる金融政策を超え国家の大計となるか。パーソナルモビリティの扱いも分岐点の一つである。
 
 
 
 
(ライター 谷垣吉彦)
 
 
 
 

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