企業が取り組むべき「BCP(事業継続計画)」とは
シリーズ第1回 BCPとは何か、なぜBCPを導入する必要があるのか
同じ地震でも、防災とBCPでは考え方が違う
日本でBCPに対する関心が高まってきたのは2004年頃からである。それまでは、地震や水害などの自然災害は、BC(事業継続)というより、「防災」 の面で考えられるケースが多かった。防災の主目的は、人命の安全確保と物的被害の軽減である。災害で建物などが被害をこうむるのは仕方がないが、防災対策では何よりも人の命が最優先される。
BCの方は、もちろん人の命は大切であるが、災害に遭った後に、いかに重要業務を継続し、早期に復旧するかに重きが置かれる。地震で建物は壊れたが、人は死ななかった。安全で良かったね・・・・ 防災はそれですむが、BCはそれで終わりではない。2004年10月23日の夕方、新潟県小千谷市周辺で発生した 「新潟中越地震」 では、それを象徴するような事例が起こった。
小千谷市にある従業員1500人の電機メーカーでは、地震発生後に工場排水が漏れだし、建物や生産ラインもダメージを受けた。電話が復旧して、設備の被害の確認や復旧作業が開始できたのは4日後。その間も、社員や社員の家族の安否確認ができずにいた。8日後に工業用水と都市ガスが復旧、16日後には代替生産を開始できたが、工場の本格稼働が可能になったのは5ヶ月後だったという。死者はなく、軽傷者は4人だけと人的被害は軽微ですんだ。防災面では「安全は守れた」ことになるが、BCの面ではどうだったのだろう。
半導体の製造工場だったので、機械を元に戻すのは大変な作業だったようだ。建物や生産設備の一部を損失し、生産ライン5本のうち復旧したのは3ラインだった。復旧対応に技術者がさかれ、商品開発や技術開発が約4ヶ月間停まってしまった。5ヶ月後に工場が稼働したといっても、結局、退職者100人、転籍者100人、派遣社員500人を解雇。加えて、設備の損失約423億円、機会損失約310億円など、損害額は870億円に上ったという。
このメーカーがきちんとBC対策を講じていたら結果はどうであったかは、はっきり言えない。ただ、BCは損害額あるいは利益で考えるべきであって、しかるべきBCPを策定しておればもう少し損害額を小さくすることはできたのではないだろうか。
リケンは、特殊な事情による、きわめて「日本的なケース」
2007年7月16日には、新潟県中越沖を震源とする「新潟中越沖地震」が発生。この時も、BCPの重要性を再確認させる事例が起こった。クルマのエンジンに欠かせないピストンリングのトップメーカー・リケンの柏崎工場が被災したため、トヨタ、ホンダなど国内の主要自動車メーカーが軒並み操業中止の憂き目にあったのだ。
地震や水害などの自然災害が多い日本では、トヨタのように傘下に多数の提携会社や子会社 (部品メーカー) を抱える企業は、災害が起こって事業が継続できなくなった場合を想定して二重、三重の対策をとっている。世界のトヨタとしてもその必要性、重要性は感じていたはずである。だが、「カンバン方式」 徹底のためなのか、ピストンリングが高度の精密部品のため発注先を広げることができなかったためか、発注先をリケン一社にしぼっていた。他のメーカーも同様で、その結果、トヨタ、ホンダなどリケンに頼っていた国内メーカー12社が工場封鎖などに追い込まれ、製造中止や生産遅延となったクルマが12万4000台にも上ったのだ。
リケンにしても、BCPや防災対策を講じていたはずだが、実際に想定を超える被災が発生してしまったのではどうすることもできない。柏崎工場など10の事業所(グループ各社)が操業停止に追い込まれた。しかし、生産復旧は会社や工場単体でできるものではない。
何と、リケンの場合は、各自動車メーカーが関係業者に声をかけて支援部隊を結成したのだ。その数は1日最大800人、2週間で7900人にも及んだという。
支援部隊は生産部門だけでなく、宿泊場所や食料の手配などのため総務部門も同行し、地域の病院や避難所にも支援物資を配布した。柏崎市民の多くがリケングループ各社に勤め、社員や家族は地域の一員であり、地域の復興なくして会社の復興はないということを理解していたからだという。1週間後には一部ラインを除き操業を再開、その1週間後には全ラインを生産復旧させた。専門家によると、驚くべきスピードだったという。
しかも、1週間の操業停止と納入先自動車メーカーの創業も停止したのに、売り上げは減少せず、利益の減少は6.3%にとどまったのだ。
リケンのケースは、企業のBCPの中でもサプライチェーンにおけるリスク対策の重要性を再認識させ、災害復旧のモデルケースのように言われた。一方で、リケンの場合は特殊な事情による 「日本的なケース」 であって、すべてのケースがこのようにうまく機能しないだろうとも言われた。同社の生産するピストンリングが高度精密部品であるため、国内の自動車メーカーからの発注がリケン1社に集中。そのため、生産中止に陥った各メーカーが自社への影響を食い止めるべく、共同で復旧に参加しなければならないという事情があったからだ。
例えば、同種の部品を納入する下請けメーカーが複数存在するような状況で、リケンのように、元請けメーカー各社の協力による復旧活動が期待できただろうか。BCPを導入していないために事業が継続できなくなった部品メーカーは、メーカーからの支援をもらえるどころか、その時点で受注を競合他社に奪われ、倒産の憂き目に遭ってしまったのではないだろうか。
