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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
リオデジャネイロオリンピックに続き、東京オリンピック、パリオリンピックと3大会連続でオリンピックに出場している桐生さん。二度目以降は慣れてくることもあるのかお聞きすると、「すべてがまったく別物のオリンピックだった」と話してくれた。
 

それぞれのオリンピック

 
リオのときは、選手が滞在する選手村から出ることはできませんでした。現地の治安を考えると、選手が外出するのは良くない状況だったんですよね。その分、先輩方とコミュニケーションを取る機会は多かったですよ。初めてのオリンピックだったので、それは助かった部分でもあります。
 
東京オリンピックのときも、新型コロナウイルスの問題がありましたから、もちろん選手村の外を出歩くことはできませんでした。僕自身、本当にこの時期にオリンピックをやって良いのだろうかという思いもありましたし、SNSを通じて毎週のように「命よりもオリンピックが大事なんですか」といったメッセージが届いていました。これは、競技を問わずほかの選手たちも同じだったと思います。
 
そういった社会事情もあって、陸上以外にも考えなければならないことがたくさんありましたね。純粋にオリンピックだけに集中できる状況ではなかったと思います。今は「何があってもオリンピックに出たい」と口に出せますが、当時だと「何があっても」という言葉が、命に関わる別の意味になってしまいますよね。ですから、インタビューなどでも誤解を生まないように気を付けていました。
 
パリオリンピックはコロナの影響も落ち着きつつあり、競技に集中することができました。チームメイトと一緒に選手村の外に出ることもできて、リフレッシュもできたんです。ですから、すべてがまったく別物のオリンピックでしたね。それぞれの大会で学ぶものがありました。
 
 
もともとオリンピック選手になることが目標だったという桐生さん。三度のオリンピックを経験した今、目標としているのはオリンピックなどの大会に出ることなのか、ベストタイムを出すことなのかお聞きすると、両方だと力強く答えてくれた。
 

プロとして陸上競技の普及も行う

 
大会に出ることも、タイムの更新もどちらも目指さなければいけないと考えています。というのも、オリンピックで決勝に残るためには自己ベストを更新するタイムが必要になります。どちらも手に入れないと進めない道なんですよ。現在100mは、日本人では山縣亮太さんの9秒95がベストタイム(日本記録)ですので、その更新を狙っています。
 
僕は、参考記録として100mで9秒87を出しています。陸上競技では、秒速2.0mを超える追い風が生じている状況でのタイムは公認されず、参考記録となるんですよ。ですから、今年の目標は自己ベストの9秒98を超える、そしてその先の目標は9秒8台を出すことです。
 
今年の9月13日からは、東京で世界陸上競技選手権大会が開催されます。ロサンゼルスオリンピックに向けて、正念場だと思っていますので、しっかりとコンディションを整えて臨んでいきたいですね。直近の目標としては、世界陸上の決勝に残って勝負をすることです。
 
そういった結果を出すことはもちろん大切ですが、プロとしてはそれだけではいけません。陸上を通じて社会貢献をしていく必要があります。そのためには、知名度が高い方が良いですよね。例えば、子どもたちに向けて陸上教室のイベントを開くとしても、広く知られている人と、あまり知られていない人では集客率も変わるでしょう。プロとして、一般の方々に陸上をもっと広めていかないといけないので、自分がどのように見られているのかも意識しています。
 
同じ陸上競技でも、マラソンの場合は一般の方々も参加しやすいですよね。東京マラソンなどに趣味で出場されている方も多いと思います。短距離だと、そういった方はまだまだ少ないので、いつかプロじゃなくとも参加しやすい大会をつくれたら良いなと考えています。また、今の僕は中高生と出会う機会がほとんどないのですが、練習を見てアドバイスするなどのイベントをやってみたいと思っています。