
インタビュアー 八木裕(野球解説者)
井尻 ここ、滋賀県米原市上丹生は江戸時代から寺社彫刻や仏壇づくりを中心に栄えてきた木彫りの里で、彫刻はもちろん、仏壇づくりを担う塗り師や錺金具師など、さまざまな職人が集う地域なんです。この地で祖父が彫刻所を開いたのが1935年で、木彫り彫刻の中でも立体感あふれる写実的な作風を身上に、唯一無二の翠雲彫を確立させていきました。
八木 では、幼い頃から3代目として家業を背負っていこうと考えておられたのですか。
井尻 幼い頃は野球に夢中になっているごく普通の子どもで、木彫りに強い関心があったわけではありません。進路もコンピューター関連の勉強をするため、他県の大学に進学しました。ただ、進学で家を出たことで翠雲彫を別の視点から見る機会を得て、祖父の彫った龍や馬、武者は荒々しく、息づかいが伝わってくる素晴らしい作品だとあらためて感動したのです。やはりこの技術を伝承し、多くの人に伝えていきたいと思いました。
八木 なるほど。実際、井尻代表の作品を拝見していると欄間や仏壇の彫刻から発展したものも多いように感じました。例えばこちらの表札は、細かな彫刻に名前が彫られていて、素敵ですね。それから木彫りのペットを模したこの作品は、仏壇だと聞いて驚いています。インテリアにも溶け込む温かい雰囲気がありますね。

八木 看板を写真で拝見したところ、一枚一枚異なる板で製作されていました。ため息が出るような素晴らしい細工が施されていますね。